背景の背景を訪ねて―美しい背景画を描くために大切なこと《前編》絵師ゆうろインタビュー

背景の背景を訪ねて―美しい背景画を描くために大切なこと《前編》絵師ゆうろインタビュー 写真1

――ある程度、キャラクターを描けるようになった人が、背景を描いてみようと思った時に陥りがちなケースとして、最初に画面の中にキャラクターの全身が入らない様な構図で描いてしまうと、後から背景を描き足すにも、何を大きさの基準にすればいいかわからないということがあると思います。とりあえず水平線上に消失点をとって、奥にむかって廊下のようなものを描いても、やたらと幅が広くなったり狭くなったりするというケースです。

では、奥に向かって廊下を描くケースについて考えてみましょう。画面に写っている部分からだと長さの基準が取れない……こういうとき、一番簡単なのは、画面に写っているパーツを全部画面の外に伸ばしてやることです。たとえばこの絵なら、画面内に写っているキャラクターの身長を150センチくらいだとします。廊下の幅は学校によって差はありますけど、だいたい2メートルくらいだから、150センチに50センチ足した長さの廊下を画面の外に描いてしまえばいい。

枠に収まらないのパースのとりかた

――モニターや机が狭い、もう紙が無い(笑)などの事情があって、どうしても画面の外側に線を描くことができない場合はどうすればいいですか?

そういうときには、絵を切りとっているカメラの高さを考えるんです。今回は、カメラの高さを130センチくらいにしましょう。構図的に「立っているキャラクターをカメラマンが平行に構えたカメラで撮影している」という絵だとすると、消失点のある水平線が130センチの高さにあることになります。

この様にカメラと被写体が平行な1点透視の絵では、奥行きがどこまで行ってもカメラの高さが130センチなので、適当なところで床面までの高さをとります。すると、この長さを約1.5倍してやれば廊下の幅2メートルの長さがわかります。

あとは、消失点から、いま決めた2メートルの線の両端を通るように線を引けば、2メートルの幅のまっすぐな廊下が描けるわけです。これができるようになれば、天井の高さも決められますよ。

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――どのような方法でしょう?

廊下の高さは250センチ前後ですから、このケースではカメラの高さ130センチを2倍してやればいいんです。この260センチが床面から天井までの高さなので、あとは廊下の幅を決めた時と同じ要領で、天井の幅200センチにあたる線を書いて、消失点からその両端を通るように線を延ばせば、天井が描けます。これで、幅200センチ、高さ260センチの廊下になるでしょう。

――最初に教えていただいた、「基準になる大きさを基に、正しいスケールを絵全体にいきわたらせる」というプロセスがよくわかりました。非常に合理的で、納得できる方法ですが、すべてをひとつづつ計算していくのは大変かもしれません。経験を積んで、ゆうろさんの様にざっくりとアタリがとれる様になりたいと思います。何かおすすめの練習法はありますか?

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昔読んだ漫画の教本に書いてあった方法そのままですが、「散らばったトランプをかけるように練習する」というのは、勉強になりましたね。

テーブルの上にトランプが散らばってる絵を描く場合、たとえばあまり正方形に描いてしまうと、カードを上から見たようになってしまう。少しパースをつけてやることで、テーブルの上にカードが乗っているように見えるし、逆にパースをつけすぎてもカードが乗っているようには見えなくなってしまう。

それぞれの位置で、どれくらいのパースをつければ、角度的にきれいに見えるのか、ということを繰り返し練習するのがいいと思いますよ。

――そのほかに、計算だけでは導き出すことができない絵のポイントというのはありますか?

指定されたレイアウトを描くのではなく、自分でカメラ位置を決めなければならないような時は、計算だけでは答えを出すことはできませんよね。

今回は、カメラを平行に構えた1点透視の絵の書き方について説明しましたが、カメラの位置は被写体の正面か、横からか、見上げるか、見下ろすか……と無限に選択肢があるので、どこにカメラを置けば見栄えのいい絵になるのかを考える作業には、とても気を遣います。

――カメラレンズの違いについて学ぶ必要はありますか?

写真:レンズの違い

レンズには大きく分けて望遠レンズと広角レンズがありますが、この二つの違いは奥行が圧縮されるか、されないかということです。

あまり広角レンズ寄りの奥行がある絵にすると、建築パースみたいな、製図としては正しくても人間の眼の見え方と違いすぎて不思議に見えてしまう絵になりがちで、望遠よりの方が自然に見えやすい。

ですが、逆に望遠レンズ寄りすぎても、平面的で不自然な絵に感じてしまうので、この二つのレンズの間のどのあたりで描くのが人間にとって自然な感じに近くなるのか、という感覚をつかむことは大事ですね。

自然に見える絵を描くためには、理論だけでなく、それを経験で補っていく部分が大きいように思います。

最近だと、アニメや漫画でも魚眼レンズの様な特殊なレンズで見た絵がよくありますが、そういった特殊なものも含めて、実際に自分でカメラを使ってみるのはもちろん、普段から映画や写真集を見るときに、どう撮ったらどう見えるのかということを考えておくと、それが経験となって、自分の絵を描く時に引き出すことができるので重要です。

■「やりたいこと」を実現するための技術

――これまで技術的なことをお聞きしてきましたが、最後にイラストレーターを目指している若い人たちに向けてのメッセージや、ゆうろさんご自身の今後の抱負などがあればお聞かせください。

うーん……私はもう、これからもずっと絵を描いて生活していければいいな、というだけなんですね。だから、「今後の抱負」というような質問が一番難しい(笑)。なので、逆にちょっとお聞きしたいのですが、書店に置いてあるパースの描き方の教科書にも、いま説明したようなことは書いてありませんか?

――パースについての技術書はたくさんあるのですが、やはり一点透視や二点透視といった理論をまず理解しましょう、というところからはじまって、「とにかく長方形の箱をいろんなパースで描いてみましょう」というような、あまり描いていて面白くない(笑)教科書的な内容になっているものが多い気がします。

なるほど。では、そのお話を受けてひとつコメントします。

やはり、実際に描きたいシーンがあって、それを描くためにはこういう技術を使えばいいんだ、ということを知っていくような形の勉強をしていった方が面白いと思います。つまらないことから始めると、誰だってイヤになっちゃいますよ。それに、理論がわかっていても、それを自分が描きたいもののためにどういうふうに使えばいいかわからない、というのでは意味がないですから。

背景画は、どちらかというと「縁の下の力持ち」的な要素で、あまり脚光を浴びることもないのですが、もしそういう部分をしっかり描きたいという意識が絵を描く人たちの間で高まっているなら、うれしいことだと思います。頑張って、その気持ちを活かせるだけの技術を身に付けて欲しいですね。

(2008年1月8日、アミューズメントメディア総合学院にて収録)

インタビュー/構成:前田久 平岩真輔

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