怪人二十面相、電影ヲ震撼ス・前編――『二十面相の娘』原作者・小原愼司先生インタビュー

怪人二十面相、電影ヲ震撼ス・前編『二十面相の娘』原作者・小原愼司先生インタビュー

戦前から戦後にかけて推理小説の世界をリードし、今もなお多くのクリエイター達に影響を与え続けている小説家・江戸川乱歩(えどがわらんぽ)。その作品世界を、斬新な解釈で現代に甦らせた快作冒険活劇コミック『二十面相の娘』(メディアファクトリー/全8巻)が、この春、フジテレビ系でアニメ化されます。

『鋼の練金術師』を手がけたボンズ、『もやしもん』のテレコム・アニメーションフィルムという実力派スタジオが初めて手を組み、主演に人気声優・平野綾さんをむかえての映像化を前に、原作コミック・アニメ双方から『二十面相の娘』の魅力に迫ります!!

インタビュー前編では、原作者の小原愼司先生に、『二十面相の娘』という作品が誕生するまでのエピソードから、マンガ家としてのルーツ、そして原作者からみたアニメの見どころまでを語っていただきました。日本が誇る怪盗・怪人二十面相と、チコが、あなたの心を盗みます!!

■少女は「悪人志願」――『二十面相の娘』ができるまで

小原愼司先生

――『二十面相の娘』という作品の構想はいつごろできたものなのでしょう?

今からもう6年前になりますけれど、最初の読み切り短編(『二十面相の娘』単行本1巻収録)を描いたときがスタートですね。その短編は、最初に構想していた段階では、江戸川乱歩の「二十面相」ものの世界を、今発表されている作品よりも、もっとパロディ的に描こうとしたものだったんですね。

「ひょっとしたら、二十面相にさらわれた子供たちの中にはもとの場所に帰りたくなかった子もいたんじゃないのかな?」という発想をスタート地点にした、掲載されたものよりももっと短い作品で、ラストシーンは少年探偵団に助けられた子供がモノローグで「私は少年探偵団に誘拐されました」といっていきなり終わってしまう。そういうアイデアをみせたところ、担当さんから「もう少し明るいラストにできませんか?」と言われて(笑)掲載された形のストーリーになった。その変更してつなげた部分があったことで、そのあと連載用の話に作り直していくときにも、最後までの話の筋道がぼんやりと見えました。

――とはいえ、読みきりと連載とではテイストが変化した部分もありますね。

パロディだけで延々と連載し続けるというのも乱歩の作品に対して失礼な話だし、連載になるのであれば、もうちょっときちんと自分の「二十面相」像を描きたいな、と思ったんです。ですから、意識として繋がってはいるんですが、最初の読みきりと今の『二十面相の娘』は基本的な性質は全然違うものではあります。

――『二十面相の娘』では、乱歩が生み出したキャラクターである二十面相が、ダンディで複雑な背景を背負っている謎の人物として描かれていますが、これまで多くのクリエイターが描いてきた「怪人二十面相」と比べてもユニークです。

ルパン三世みたいな、毎回いろいろなものを盗んでは「さーて、次回はどんなお宝を盗んでやろうかな?」で話を締めくくるような「二十面相」では僕には連載は無理じゃないか、とまず考えたんです。それで「彼がそんな行動をとっていることに対する何か理由を彫りさげて考えよう」ということを考え始めたら、乱歩の作品が誕生した時代背景を考えれば、「戦争」という要素は入れられると思ったんです。お話としてはあくまで「”チコ”という二十面相にさらわれた娘と、二十面相の二人がどこへたどり着くのか」という話を描こうと思って、それは変わらなかったんですけど。その話の裏側にある設定、お話の流れを作るものとして、戦争の話を少し入れて行きたいと思ったんです。

――それはなぜでしょう?

僕の世代は、親が戦争を体験しているんですね。なので、特に意識しなくても、親からは実際に戦争に遭ったときの話を聞いているんです。これがもうちょっと若いひとになると、親どころか、おじいちゃんやおばあちゃんですら戦争の話をしてくれない世代になっていますよね。だから、「戦争の話を伝えよう」みたいに大上段に構えるつもりはないのですが、僕が聞いた話の感想をきちんとお話にしておきたいな、と思ったんです。あくまで、どこか物語の中で隙があったら入れよう、ぐらいの気持ちではありましたけれど。

―― 自分の自然な体験としての「戦前」と「戦後」の連続性みたいなものを作品に反映させようということですね。そこで、主人公を「娘」という形で設定された理由はどんなところにあったのでしょう?

それは単純に、女の子の方が映えると思ったんですよね。黒ずくめの陰気な男の横にいるのは女の子の方がいいな、と(笑)。

―― なるほど(笑)。ちなみに余談ですが、小原先生の作品にはショートカットの女の子が多く登場します。ショートカットはお好きですか?

たしかにショートは好きです(笑)。この間までアフタヌーンで連載していた『パノラマデリュージョン』(講談社/全3巻)の主人公も、髪型はポニーテールですけれども、意識的にはショートに近いデザインでしたからね。

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©小原愼司・メディアファクトリー/「二十面相の娘」製作委員会





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