『源氏物語千年紀 Genji』出﨑統監督インタビュー デジタル技術で描いた“古典”と“常識”

『源氏物語千年紀 Genji』出﨑統監督インタビュー デジタル技術で描いた“古典”と“常識”

■アニメの明日はどっちだ?

――これからアニメ業界で仕事をしたいと考える、若い人たちに望むことがあればお伺いできますか。

あんま来ないでいいよ、っていう(笑)。

――来ないでいいんですか(笑)。

出﨑統監督

「何を言われてもとりあえず10年ぐらい耐えてみる」くらいの奴しか駄目だってのは言いたいね。ほめられてたら嬉しがってるけどさ、ちょっと文句言ったらすぐいなくなっちゃうんだよ。駄目だよ、そんなの。そんなんじゃなんにも出来ないよ。

――「耐えろ!」ということですか。

当たり前の話ですよ。そういう意味で言ったら、現場をみていると女の人の方が耐えてるよね。もう男にはそういう粘りとかねえのかよ、みたいな。

――テクニカルな側面ではいかがですか。

「常識」だね。たとえば、ドラマの展開だってある程度の「常識」があって、そこから、センスであったり、自分の生き方であったりが加わって別のものに変わっていったりする。それが、すごいマニアックに「こういうシーンが欲しい」「ああいうシーンが欲しい」という作り方をするのは駄目だと思うよ、俺。今、そういうのが多いでしょ。ドカーッと絵だけ派手で、中身がないものが。

そういうのを楽しんで見るスタイルの映画……というつもりでやっているんだろうけど。この間も悪ガキが喧嘩している映画を観たけど、「なんでケンカしてんだこいつら?」みたいな感じだったよ。それで「カッコいいだろ?」みたいなことを言われても、俺、理解できない。そういうのが大好きな、男の子達・女の子達が見るんだろうか。けっこうね、興行収入はよかったりする。しょうがないけど、ヤな世の中だなと思う。思うしかで きないんだけど。

Genjiより

でも、そんなもんが作りてえんだったらアニメーションの世界に来るな、ってね。もっとね、子供に見せたり、ちゃんとしたドラマをやったりできるんですよ、アニメは。マンガには描けないものを作るとかね。なんでもかんでもマンガの引き写しだと思ったら大間違いで、アニメーションはもっと独自に文字から映像を作っていくことだって出来る訳だし。そういうとても可能性のある、一つの分野だと。マンガ原作に引きずられるだけじゃねえぞ! と、あまり強くいうとギャグに聞こえるかもしれないけど(笑)。

――まったく同じことをやっても仕方がないという。

俺、今までそんな思いはなかったよね、全然。マンガ原作をわたされたら、そこから、「これ面白い」と思った部分をアニメとして作るというのは当然だと思ってやってた。ところが「違う」「同じものを作れ」みたいに言われたら、これはちょっとね。じゃなんで俺がいるの? みたいな話になる。

――いわゆるもの作りの常識であったり、映像技法の常識であったり、より広く社会の常識であったり……そういったものを身に付けて、来て欲しいと。

そう。一部のスキルにすごくこだわっちゃって、人形でも集めるのとおんなじようなイメージでこの業界に入って来られちゃ困るよね。1コマ1コマ映像見てね、「あ、色抜けてるぞ」とかいうことをいつもやってるみたいな。あれは信じらんない。俺はそんな仕事はやってないからね。

――いろいろな基礎が抜けてるというのが、最近の若い人の問題なのかもしれないですね。

だからアニメーションやりたいんだったら映像としてね、マンガだけじゃなくて他のもんも観ろよ、と。現実のものから、実際のものからなんか作りたいと思えよ、って。人が作った映像とかマンガからものを連想していくなんて、他人のもんじゃん、そんなの。自分の独自のものを作れよ。そう思っています。とにかく、10年ぐらい続けないと駄目だよね。ちょっとうまくなったら独立しちゃうやつ、途中であきらて田舎に帰っちゃうやつ、そんなのばっかりなのが問題。俺なんか40年やってんだからさ(笑)。

――長い間アニメの世界で活躍されている監督ならではの、重たい言葉です。「面白いと思うことを糧に、10年耐えよう」と。

いやホントだよ。どっかで面白いと思えば、がんばれるんだよね。面白いから、つらいと思わないし。つらくても、できるとね、面白いし。つらくなるとみんな辞めちゃうのがよくないですよ。

(2009年4月17日 トムス・エンタテインメントにて収録)

インタビュー/構成:前田久 平岩真輔

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