アニメのゆくえ2011→

――不況などもあってファンのソフト購入のハードルも上がっている中で、数年前の劇場作品並のクオリティをテレビでも求められてしまう状況があるにもかかわらず、制作スケジュール自体は昔とほぼ変わらないわけですよね……。

藤津:そうなんですよね。もちろん、そうした時代の変化に対応して、テレビシリーズのクオリティを上げられる体制を組んでいる会社も多いですよね。たとえば京都アニメーションさんとか。ちょっと実情をちゃんと取材したわけではないですが、ほかにもP.A.ワークスさんだったりufotableさんも、自社も内製にこだわりをもっているスタジオと受け取っています。

――原動画のスタッフを自社で多く抱えて、クオリティを維持している印象を受けるスタジオさんたちですよね。

藤津:後発のスタジオなので、それまでのアニメスタジオの運営の問題点みたいなものをクリアしていこうという意志があるのだと思います。アニメーター不足とか要求されるクオリティが高くなっているとかそういう要因もある以上、従来のスタジオも、スタッフ育成とそれによる内製というのは射程に入れつつ会社の体制を整えていくようになると思います。まあ、その一方でシャフトは、決して組織力に優れる会社ではなかったわけだけど、それを逆手にとって様式で魅せるセンスで、人気を得ているわけですが。

――スタッフ間の意思疎通がはかりやすい小規模スタジオならではの特殊な表現をウリにして勝負しているわけですね。

藤津:アニメに求められているクオリティが上昇している、たとえば画面の情報密度が上がっていることそのものは、マクロなレベルでは大変なことであるのは間違いないです。でも、ピンチはチャンスというのもまた然りで、ミクロなレベルではチャンスに繋げられる事態でもあるんです。そして、もしかするとそのミクロなレベルでの対処方法が、アニメの今後を占う要素に発展するかもしれない。ただ、すべてのアニメの制作会社が、対処方法を発見・実践できるかどうかはわからないですよね。それは経営者の考え方や、取引先から求められているクオリティのレベルにもよるので。ただ今以上に、自社のリソースをどう使って状況に対応するかが問われて、それができるところとできないところが露わになっていくのかなとも思います。

――ハイクオリティ路線というのは、どういった経緯で誕生したものなのでしょう?

藤津:幾つか節目があると思うんですが、VHSからDVDに映像メディアが移行し始めたごく初期のヒットタイトルである『カウボーイビバップ』(1997年)で、最初の「天井を突き抜けた」フシがあります。聞くところによるとあの作品は、作り手の情熱だけでコストがかけられていた作品なんですね。それが最終的に、関係者全員が万々歳で喜べるくらいに当たった。そのヒットがあったことで、「テレビでもハイクオリティな作品を作ってビジネスを成り立たせることができるじゃん」みたいなムードが、アニメファンと業界の一部のあいだでなんとなく醸成されたように感じています。当時はまだ、業界の中では、「なんでこんな採算をとるのが難しそうなクオリティでテレビシリーズをやってるの?」と思っている人のほうが多かったとは思うんですけどね。だから、実は「DVDを売らなきゃ」というのは後付で、ハイクオリティな路線の口火を切ったのは情熱だった、というのが僕の仮説です。そこがややこしいというか、作り手の「密度のあるものを作りたい」「自分たちの納得するものを作りたい」という情熱からスタートしたものが、今の大変な事態を招いてしまったのではないか……と。

――うーむ……なんとも言い難い問題ですね。

藤津:僕の取材をした実感からいうと、現場には基本的にクオリティを上げたいという気持ちがあるんですよ。その情熱はすごく大事なところなので、強調しておきたいですね。だから「DVDを売るために頑張ってクオリティを上げよう」となっているのは、状況が進んで転倒した結果なんです。ここは忘れてはいけないことだと思います。最初っからビジネスありきで動いてたわけじゃない、と。ただ、当たり前なんですけど、ソフトを買ってもらわないとダメなビジネスモデルができたときに、「ソフトを買う方にとっては元々の発表形態が映画だろうとテレビだろうと関係なく同じ基準で判断される」ということは、今から振り返れば自明だったんですよね。テレビ作品だからソフトが安いということは勿論ない、むしろ全巻揃えたらトータルのコストは高くつくわけじゃないですか。すると、いいものであるに越したことはないという気持ちは働きやすいんですよね。

映像ソフトの売上を支えるもの

――DVDやBlu-rayといった映像ソフトを買う人の動機として、やはりクオリティが重視されるのでしょうか?

藤津:難しいところですが、基本的にはやっぱり、クオリティだけで買ってくれるものでもなくて「作品のファンになったから買う」という理由が多いと思いますよ。

――一部メガヒット作品は存在しますが、全体的にはアニメの映像ソフトは売上が低調になっているという話がよく出ます。これはなぜなんでしょう?

藤津:これはまったくの仮説なんですけど、DVDが普及して、96年から深夜アニメが始まって、放送本数がピークを迎えたのは2006年。その10年間、アニメのDVDを買い支えていた人たちは同じ人たちだったのではないか、という気がするんです。その人たちが、結婚したりといった環境の変化や、不況による経済状況の変化、あとは部屋に置けなくなったりで、個人的にソフトを所有できる量の天井が来てしまったんじゃないかと。

――アニメのコアユーザーに物理的限界が訪れたということですか?

藤津:もちろんパッケージ販売全体が低調になっているんですが、ことアニメに関しては、そうとでも考えないと、ここまで急に売上が下がることは理由がわからないですよね。特に、アニメはファンのジャンルに対するロイヤリティー(忠誠心)の高いもので、音楽みたいに浮遊層に売ることで成り立ってきたジャンルとは違いますから。2004年に聞いた話でも、10万から30万人程度が、アニメのDVDを買うファン層だと言われていて、そのうち10人に1人が買っているものがヒット作だという話でした。その20万人を維持できないということは、何か作品の良し悪しや内容とは別の要因が働いてると考えたほうが自然な気がしますよね。

――なるほど……。

藤津:あとは、そのひとたちにとって、あるシリーズのピンポイントのファンでいることは可能だと思うんですけど、定常的にアニメファンでいることがしんどくなっているんじゃないかなとも考えています。かつて、高校生とか中学生になるとアニメを見なくなるというのと同じような形で、社会人数年目に“アニメから卒業”のタイミングが来るという。

――『ガンダム』や『マクロス』の新作はチェックするけど、いちから新作は追いづらい、みたいな感じですか?

藤津:そうですね。「疲れちゃった」とか「もういいか」とかそういう気分ですね。で、もしそうならば「その買い支えてきた層に続く視聴者層をなぜ育てられなかったのか?」ということをセットで思いもしますね。もちろん、さらに若くなると可処分所得も少ないし、タダで楽しむことが浸透している世代になってたりするから、ハードルは高いわけですが。僕はこれからも、深夜アニメはなくならないとは思うんです。でも新しいファンを獲得できるような、、新しい枠をどこかに開発することが、将来性につながるんじゃないかなと思うんですよね。それは地上波じゃないかもしれなくて、CSの専門チャンネルなのかもしれないし、ニコニコ動画のような動画配信サイトなのかもしれない。そういう新天地を目指す時期にきていると思っています。テレビ自体が割とどこにいくかわからない時期で、さらに、その中でのアニメの位置づけも難しくなっているわけですから。

――テレビ局にとってのアニメの価値が、今どうなっているんだろうとは思いますね。『DRAGON BALL』はゴールデンタイムに放送されていたわけですが、今、同じ「週刊少年ジャンプ」の看板作品で、マンガとしての人気では当時の『DB』にも負けていない『ONE PIECE』は朝の枠に移動してしまっている。これは象徴的なように思います。

藤津:子供から大人まで、楽しめるテレビを提供しますというのが、テレビ局の譲れない一線ですから、アニメがなくなることはないんです。でもプライムタイムに放送する旨みはなくなっていますよね。クラスの中でアニメを観る子供の割合はそう変わらないそうなんですよ。でも、子どもの総数が少なくなっているから、視聴率が取れない。視聴率競争を繰り広げる局であると、なかなかそこに手を出せない。テレビ東京は、大きな局がそうした状況で手を出せないことにくわえて、視聴率以外のおもちゃの売上や何かによる収入も計算に入れているから、プライムタイムにアニメが放送できているのだと思います。ニッチだからこそできることですよね。求められるニーズが、会社の求めているスケールによって変わってくるということです。

――しかしその結果、企画の対象にできそうな層と放送枠のマッチングがうまくいってないように見受けられる企画もありますよね。少し懐かしいタイトルですが、『ちっちゃな雪使いシュガー』とか、なぜ夕方枠でないのか当時から不思議でした。

藤津:ほかにも『宙のまにまに』なんかも、テレ東が『フルーツバスケット』をやってたような感じで、夕方にやっててもおかしくない明朗な作品でしたね。でも実際は深夜の放送で。夕方はやっぱり難しいみたいですね。もちろん、もちろん深夜にせよ夕方にせよ「多くの人を巻き込めるような大作を送り出そう」というプロジェクトはあるんです。たとえば『コードギアス』なんかはそうだったし、『ガンダム』、『マクロスF』は最初から「大作」である柄の大きさとヒットが求められている。でもじゃあ、そういう作品が揃えば一般層を巻き込めるとか、視聴率競争でプライムにいられるとか、そういうことでもないんですよね。一方で「一般層にアピール」とか「高視聴率」じゃないけど、近年で、新しいファンをぐっとアニメのほうに運んでくれたオリジナル企画といえば『天元突破グレンラガン』がある。つまりキッズ向けのマーチャンダイジングものでない限りは、デフォルトが深夜枠という状況になっている以上、もはや枠と内容のミスマッチを言ってもしょうがなくって、最終的には作品力みたいなもので視聴者を巻き込めるか巻き込めないか、ということになってきちゃってるのが現状かなと思います。

――そういう意味では当たるタイトルが全くわからない。

藤津:手堅く守備的攻撃をやるやり方はみんな分かってきてるんですよね。「できるだけ男キャラを減らす」とか(笑)。守備的な攻撃の仕方はもう確認が済んでいると思うのですが、攻めるのはわからないですよね。半歩先のものを作ることが大事で、でも半歩先は難しい。一歩とか、下手すると二歩先に行っちゃってたり、逆に半歩っていうほど前に出てなかったり。アニプレックスとテレ東がやっていた「アニメノチカラ」とか、オリジナル企画でヒットを狙うための匙加減の苦労がよくわかるプロジェクトだったように思いますよ。

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