アニメのゆくえ2011→

これからの(3DCG)アニメのゆくえ

――では最後に、これからアニメーション制作において3DCGに求められるものは何か、そして今後サンジゲンとしてはどういう目標を掲げていかれるのか、をお聞きしていきたいと思います。

松浦 3DCG全体としては、ディテールを詰め込んで画面を豪華にすることが求められていきそうですね。それはCGを使うメリットのひとつですから。ただ、サンジゲンはあまりそれはやりたくないんです。大変なので(笑)。

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――またまた(笑)。

松浦 あとはモブシーンですね。3DCGは作画と違って、複数のキャラが登場するシーンで、キャラクターひとりずつに別々のスタッフをつけて、別々に作業ができる。だから、全キャラ分、同じクオリティの絵が揃えやすいんですよね。

――さきほども話題になりましたが、ダンスシーンで3DCGが求められることが多いのはその理由が大きいですよね。

松浦 そうです。で、ウチも求められる限りダンスはやりますけど、そればかりやっていると思われると困ってしまうんです(笑)。

――では、サンジゲンとしての目標はその二つとは違うところにある?

松浦 サンジゲンとしての目標は、「3DCGでの感情表現」です。3DCGで芝居を描くこと、つまり、物語に合った映像を3DCGで作りたい。そのために、今はセルアニメ調のCGで世の中に認められているところがありますが、今後は全然新しい表現方法でもいいと思っています。市場が広がってくれれば、方法はなんでもいい。

――セルアニメ風3DCGで作られるリミテッド・アニメとも、ピクサー的なフルCG作品とも違う、サンジゲンなりの「第三のアニメ」を目指す可能性もあるということですか?。

松浦 自分は作画も好きなので、その魅力をちゃんと作品に取り入れたいんですよ。今は、CGを使うなら全部CG、作画をやるなら作画だけ、という傾向がまだ全体的に強いんですよね。サンジゲンが元請としてアニメーション制作を請け負うのであれば、その二つをうまく混在させたいと思ってます。「CGでも作画でもどっちでもいい」という意識で作品が作れる土壌を広げたいですね。

――その試金石となりそうな作品も準備されているのでしょうか?

松浦 はい。2012年秋公開でプロダクション I.Gさんとサンジゲンの共同製作で進んでいる『009 RE:CYBORG』(監督:神山健治)がそれにあたります。

この作品はもっともサンジゲンらしく、業界に一石を投じる作品になると思います。作画とCGのハイブリッドではなくて、キャラクターはフル3DCG作品になっています。慣れ親しんだセルルックの質感に動きはリミテッド、背景は手描きの背景になりますので、限りなく手描きアニメに近い作品です。ですが、カメラワークや細かいディテールなど作画では不可能な表現方法も用いていますので、全く新しく見えると思います。

もちろん、初めてのことも多いので全体のワークフロー含め試行錯誤しながら、コストも意識しつつ、確実に進化して製作を進めています。サンジゲンとしても全力でこの作品に取り組んでいきたいと思いますし、結果的に業界をひっくり返す力を作品に宿らせたいと思っています。

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――それは楽しみです。アニメ制作以外にも、『Angel Beats!』のフィギュアの3DCG原型のような、映像の枠を超えた仕事も手がけておられますよね。そうした路線のお仕事も継続されていくのでしょうか?

松浦 そうですね。これも将来的な部分に絡むんですけど、アニメになってしまうと(3DCGの)モデラーが報われにくいところがあると、以前から思っていたんです。フィギュアの原型制作という形で、それが報われるようになればいいな、と考えています。第一弾は、見た目重視の僕らと、存在感重視のグッドスマイルカンパニーさんのスタイルの違いをすり合わせるのが大変だったみたいですけど(笑)、第二弾も進んでいますし、今後も本格的にやっていこうかな、と思ってます。アニメで動かしていたモデルがそのまま原型になって、そのままフィギュアになる、というのはすごく効率がいいし、面白いですよね。

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――サンジゲンは今、まさに変化のときを迎えていらっしゃる印象ですが、これから10年、アニメ業界全体はどのように変っていくと松浦社長は思われますか?

松浦 うーん、そうですね。10年前と今を比べたとき、本質的な部分はそんなに変わっていないと思っているんです。だから、10年後も本質的には変わらない、ということが一つの答えだと思います。

――なるほど。

松浦 ただもちろん、技術的なところや、ウチがやっている業務内容は変わっている可能性はありますよね。DVDがBlu-rayに取って代わられたように、いつかはBlu-rayもなくなる。そのとき、メインは配信になるかもしれない。アニメーション制作のコスト意識は、さらに高まっているでしょうから、CGを使った作品というのは確実に増えるでしょうね。

今でこそ、劇場作品やフルCG作品であることを理由に、十数億円の制作費をなんとか捻出できていますが、どれも成功しているとは言い難いので、確実に今後の払いは悪くなる。出資する側は、普通のアニメの予算組みや回収を前提にしてくることでしょう。そうなると、予算の条件に合った作品しか作れなくなってしまう恐れは持っています。10年後には、僕たちがセル作画のアニメを観ていたように、子供の頃からピクサー作品に親しんできた子供たちが成長して、そこに市場もできているでしょうね。そうなると、サンジゲンも、もしかしたらピクサー的な表現にシフトしているかもしれません。今、ピクサーの質感でテレビシリーズをやるのはすごく難しいですが、ソフトウェアなど色んなものが進化していますから、可能性は出てくると思います。

――うーむ、そうした状況で、セルアニメ、作画という表現方法はどうなっていくのでしょうね。

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松浦 サンジゲンとしては、とにかくセルアニメ調の3DCG作品を作っていこうと思っています。その結果「作画でもCGでも区別をつけなくていいじゃないか」と思えるようなものを作ることができれば、作画によるアニメもちゃんと残ると思うんですよ。

――作画と遜色ない3DCG表現が登場することで、作画の魅力が再発見される、というような流れがありうる、と。

松浦 それは同時に、日本独自の表現として、世界の3DCGアニメ市場で生き残るための武器にもなるとも思うんですよね。  もちろん、そうしてセルアニメ調の表現を追求するのと同時に、さっきお話しした、次世代の表現も模索していくつもりです。サンジゲンがそうやってちゃんと仕事をして、色々な人たちの意識を変えていけば、サンジゲン以外にもCGの可能性をもっと追求する人たちが出てくるでしょう。そうすれば、業界ももっと盛り上がるのではないか、と考えています。

――今後もサンジゲンの動向から目が離せないですね。しかし本日はひとまずここで、インタビューを終えさせていただこうと思います。ありがとうございました!

(2011年9月、サンジゲンにて収録)

インタビュー/構成:前田久(@maeQ)草見沢繁(@shigeru_suso

連続特集:アニメのゆくえ2011⇒

第1回 アニメ評論家 藤津亮太氏インタビュー「2011年もチャンネルはいつもアニメですか?」
第2回 サンジゲン松浦裕暁代表インタビュー「二次元からサンジゲンへ―3DCGで描くアニメのNEXT」
第3回 ニトロプラス代表でじたろう氏インタビュー「混沌のアニメ業界に輝くクリエイター集団の輪郭(エッジ)~これまでとこれから ニトロプラスの10年」
第4回 ウルトラスーパーピクチャーズ 松浦裕暁代表インタビュー「BLACK★ROCK SHOOTER 今から始まるウルトラースーパーピクチャーズの物語」

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