キム・ヒョンテインタビュー(前編)

――キム・ヒョンテさんが、注目しているクリエイターや作品はありますか。

韓国では、やっぱり『リネージュ2』(日本でもプレイ可能な人気オンラインRPG)のジョン・ジュノさんですね。彼は私と長く一緒に絵を描いてきました。同じ仕事場を使いながらお互い影響を与え合ったりもした間柄です。日本だと、村田蓮爾さんや寺田克也さんの作品に感嘆したり、多くのことを学んだりしました。ネット上で活躍する日本の色々な絵描き達からも多くの影響を受けています。白亜右月さんとか、『マグナカルタ』小説版のイラストを担当された前嶋重機さんもネット時代から好きでした。

――『マグナカルタ』小説版では、前嶋重機さんにお願いしたいとキム・ヒョンテさんから要請したんですか?

いえ、彼の起用は知りませんでした。本が出来上がってからそのことを知ったので、機会があればいつかお会いしたいと思っています。他にもたくさんの方がいますよ。OKAMAさんの絵も好きですし……。名前じゃなくてネットのハンドルネームだけ覚えている人も多くて困りますね(笑)。名前を挙げていくときりがないですが、機会があれば本当にいつかみんな会ってみたい人達です。

あと、私もゲーム畑にいるので、ゲームクリエーターには注目する人が多いですよ。特にナムコやスクウェアのゲームが好きですが、現在の自分の目標に近いクリエイターをあげるとすれば、吉田明彦さん(ファイナルファンタジーXIIのキャラクターデザイナー)です。仕事のスタイルや方向も好きで尊敬しています。また野村哲也さん(ファイナルファンタジーシリーズや、キングダムハーツシリーズを手がけるゲームクリエイター)のように、ビジュアルから作品全体のディレクションを担うのもいいと思います。そういう方々のようになるのが目標と言えるでしょうか。

――やはり、日本のゲームクリエイターには、同時代性のようなものを感じられていますか。日本でキム・ヒョンテさんの絵に関心が集まっているのは、やはりそこに日本のそれに近いなにかがあるからだと思います。だからといって、まったく同じならわざわざ外国人の絵を見る必要はありません。そのあたりにキム・ヒョンテさん独自の立ち位置があるような気がします。

アメリカやヨーロッパの絵も見てきましたが、やっぱり同じ東洋の絵が好きでしたね。特に日本のCG世代、CGを使ってイラストを描く人たちと同じ時代を生きて来ましたから、その影響を受けたスタイルで私も絵を描いてきたわけです。日本でも、彼らがゲーム業界で活躍するようになったことから、私の絵も受け入れられたのではないでしょうか。そういう意味では、いま日本で活動しているクリエイターと、韓国での私の活動と、大きな違和感はないのではないかと思います。

――これから先、どのようなイラストを描きたいか、何か持っている方向性などあるのでしょうか。

絵では“現実に基づいているけど、現実では見せられないのを見せる”ことが重要だと思います。現実の法則をそのまま適用しつつ、また別の側面を描写する……例えば光の描写や線の活用、その関係性、空間と立体。現実に立脚しながらも何とか新しく出来ないか、そういうのをいつも考えています。

あとは“トレンド”というものでしょうか。あまり自分の絵の中に陥りすぎるのも危険だと思います。もちろん、自分だけの何かが出来た後にはどうか分かりませんが、まだ私には早いと。私が好きなものを表現するのもいいけれど、ユーザーが見て共感出来るようなものが作りたいですね。だからといってただ流行を追うだけじゃなく、それが何故人気なのかを把握することが重要だと思います。研究して論文を書く訳じゃありませんが(笑)、とにかく何かをつかんだら、どうにか自分の中に取り入れたいと思います。一方で正統的な表現を考えながら他方ではトレントから離れないようにすると言うのは、極端かもしれませんが、そういう努力が日本では新鮮に見えたんじゃないでしょうか。

と言うのも、私は日本に居住している訳ではないですし、日本の文化を直接的には接することが出来ない。なので日本だけで通用する記号は全然分かりません。なので、日本のクリエーターの中で何か流行る時、ただそれを流行というだけで見るよりは何故それが人気なのかにまず興味が行きます。それで自分的に何とか納得出来るようになると、それを自分なりに再解釈していく中で今のスタイルが出来上がったのではないかと思います。

――では最後に、キャラクターデザイナーやを目標にする人たに、クリエイターになるために何が必要かなどメッセージがあればお願いします。

ゲーム、アニメ、コミックどの分野でも同じで、クリエーターとして絵で成功したいなら、当たり前の事ですが絵を一生懸命に描くしかありません。

私が、PCゲーム『創世記伝3』のメインキャラクターデザインを担当した時には、主人公のデザインだけを100回以上描き直しました。他のキャラクターも同じくらい描いています。その当時、韓国では他に参考に出来るものもありませんでしたし、教えてくれる人もいませんでした。でも、そういうものがあるからといって、絵が上手になる訳ではないですよね。だから、まずは描くしかない。ただ描くことです。

また、絵を描くことだけで満足せずに、その分野、例えばゲームならば、どのように作られるのか、その中で何が重要で、ユーザーにどう受け入れられるのか。そして、メディアを通じて自分の絵をどのように見せることができるのか。そのシステムを知る必要があります 。

私も、ゲーム『マグナカルタ』ではキャラクターの三面図を描いたり、モデリングからテクスチャーまで全てをディレクションしたりしていますが、単純に “いい絵”を描けたら終わりではなく、自分の絵がどのように使われるのか…… 例えばキャラクターのイラストがどうモデリングされ、どんなテクスチャリングがされて、ゲームの中でどうカメラワークが入るのか。そういう広い視野を持って作品に関わることも重要だと思います。

だから、これからクリエーターを目指す皆さんも、そういう気持ちをもって他人より何倍も努力すれば、必ず成功出来ると思います。

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金亨泰(キム・ヒョンテ)
キム・ヒョンテ
韓国のイラストレーター、ゲームデザイナー。1997年鶴山(ハクサン)文化社およびソウル文化社で新人漫画家公募に入選。1999年ゲーム制作会社SOFTMAX(ソフトマックス)に入社し『創世記伝3(The War ofGenesis III)』『マグナカルタ』のキャラクターデザインを手掛ける。韓国で画集『OXIDE THE ART OF GENESIS』(2001年/SOFTMAX)と『OXIDE2 CARTA NUMINOUS』(2004年/SOFTMAX)、日本で画集『Oxide2x』(2005年/エンターブレイン)を出している。2005年オンラインゲーム制作会社NCsoft(エヌ・シー・ソフト)に移籍。
インタビュアー:宣政佑(ソン・ジョンウ)
韓国の漫画コラムニスト。韓国では一九九五年から雑誌や新聞で日本の 漫画・アニメを紹介するコラムを連載。日本では二〇〇二年から読売新 聞、『ファウスト』などで韓国漫画・アニメおよび大衆文化の事情を説 明する記事を書いた。他にも多様な仕事を通じて日韓のサブカルチャー の理解に励む。ちなみに日本に居住した事はなく、マンガとアニメだけ で覚えた日本語で原稿を書いている。

インタビュー&翻訳:宣政佑
記事構成:伊藤剛 平岩真輔




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