■糸曽賢志氏インタビュー
そこでボクは、宮崎さんと話すというよりは、むしろ宮崎さんを交えて『皆で映画の演出について語りましょう』という感じで会話をするようにしたんです。そうしたら最終的に合格という通知を頂きました。運がよかったのだとは思うんですが、無事合格させてもらい、それからジブリに通うようになりました。宮崎さんの演出の授業は、ジブリのそばにある別荘のような『二馬力』の建物で行われまして、そこでは宮崎さんが直接絵コンテをメインにした指導をしてくださいました。
――ここで学んだことで一番印象に残っているのはどんな事でしょうか。
一番感動したのは宮崎さんの考えの深さです。たとえば植物ひとつとっても『植物というのは根から葉脈に水分を吸い上げているのだから、植物にしか聞こえない音があるはずなんだ』と言いながら植物を見てらっしゃったりするんです。そんな事は普通考えないですよね? あと宮崎さん自身の作品の絵コンテで『なぜそういう風に描いたのか』という部分のお話を直接聞く事や、その宮崎さんの演出に加えジブリの作画スタッフや背景美術、レイアウトがどのように作成されているのかを見る機会もありまして、非常に貴重な体験だったと思います。
――最近は『コルボッコロ』というオリジナルのアニメーションを制作していると伺いましたが、 これはどういった作品でしょうか?
今制作中の『コルボッコロ』はパイロットを評価してくださった動画革命東京さんが出資をしてくださり、現在、30分ほどの短編を制作しています。今回は、原作・脚本・監督をすべて自分でするのでプレッシャーも大きいですがやりがいはあると思っています。もともと制作のきっかけは、フリーになってから海外に行きまして、向こうの留学生やハリウッドのスタジオの方とお話をしたときなんです。
――海外とはまた突然ですが、それはどういう経緯だったのでしょうか?
ボク自身がちょうど海外の事をもっと知りたいと思っていたという事もあるんですが、メールなどを使っていろいろな人に打診した所、向こうで団体を作っている方が快く来なさいと言ってくださったんです。今までやってきた漫画やCGや動画、宮崎さんの所で学んだ演出を全部合わせて創ったパイロットムービーを向こうでいろいろな方に観て頂いた時に、海外の方も結構興味を持ってくれまして、じゃあそれを完成させようと思って制作がはじまりました。
――最近は実写も監督されていると伺いましたが?
ボクのホームページ内のプロジェクトを見ていただくと作品を紹介しているので、ムービーも見ることが出来ますが、最近はアニメ制作に並行して実写も制作しています。といっても、ボクが制作する実写作品はクレイアニメ、2DCG、エフェクト、影絵などを混ぜたおもちゃ箱のような不思議な映像にすることを目標にしているので普通の実写とは一風変わっていると思います。
――自分の作品を創りたいけれど自信が無かったり、技術的な問題があったりで悩みを抱えている人も多いと思うのですが、そういう創作活動をしている方々やアニメーションの世界に自分を売り込んで行きたいと思っている方々にアドバイスなどあがあればお願いします。
そうですね。あまり偉そうなことは言えませんが、ボク自身が大学でアニメーションの授業を取った後に、自分一人で商業アニメーションを創りたいと思った時期があるんですが、その時は挫折してしまったんです。それはもちろん技術的な問題もあるんですが、ボクがその時を振り返って今改めて思う事は、焦らずに何が自分に一番足りないのかを考えて、それを学べる場所を探し、そこにどんな手をつかってでもいいから入り込んでいろいろなことを吸収させてもらう事が大事だと思うんです。それで何か自分の中で一つ『これだ!』というものが見つかった時に、それを自分なりの表現でやってみれば良いのではないかと思います。
- 糸曽 賢志(いとそ けんじ)
- 1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。
20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。
大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。
現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。
2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に
取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。
文化庁新進芸術家国内研修員にも認定されており、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
Webサイト→糸曽賢志オフィシャルホームページ(http://www.itoso.net/)