電子の歌姫『初音ミク』――キャラクターと歌声が出会った日

電子の歌姫『初音ミク』――キャラクターと歌声が出会った日

■初音ミクが未来から来ない?来た?

――そうしたご苦労の甲斐もあって、『初音ミク』は幅広い層のユーザーから支持されていますが、キャラクターのパッケージングを施すことで、DTMソフトとしての優れた機能や先進性が、ユーザーにまっすぐ伝わらなくなるという心配もあったのではないかと思います。あえて『初音ミク』であることを決断された理由は?

熊谷 「VOCALOID」のエンジンが「VOCALOID2」に進歩したことで、より自然に人間に近い声を作り出すことができるようになりました。『初音ミク』の前作に当たる『VOCALOID MEIKO』では、実際に歌手として活躍されている拝郷メイコさんの音声データをモデルにしていましたが、VOCALOIDエンジンの進歩により、より自然に歌わせることが可能となりました。

そこで、500人以上の声優ボイスを色々聞いた中で、初音ミクの開発コンセプトと、藤田咲さんの透明感のある声の質が見事にマッチングし、お願いをする運びとなったのですが、「VOCALOID」というツールの近未来的なイメージを表現するために、「フューチャー」や「バーチャル」というコンセプトを膨らませて、「未来からやってきた歌うアンドロイド」というようなイメージを与えてみてはどうかと考えてみました。

せっかくなので、パッケージも無機質なものではなく、かわいらしいキャラクターを載せて、キャラが実際に歌っているというような演出をすることで、ユーザーのみなさんが『初音ミク』というソフトに思い入れをもっていただけるんじゃないかと、最終的には判断しました。

――声の収録もアニメのキャラクターにアフレコするようなイメージで行われたのですか?

じつは、収録に当たって、まだデザインが完全に出来上がっておらず、藤田咲さんには、ある程度キャラを想定して声を出していただくという非常に難しいお仕事をお願いすることになってしまいました(苦笑)。

――『初音ミク』は年齢や得意な音楽ジャンルなどの簡単な設定が公開されていますが、キャラクターの背景など、ストーリー的なものは存在していません。これはCGMの世界で人気がでるキャラクターの傾向でもあると思うのですが、意識的に設定は少なくされたのでしょうか。

初音ミク

熊谷 初期の段階ではかなり細かいところまで色付けがありました。「歌」が失われた近未来の世界で、歌う技術を持ったアンドロイド「初音ミク」が発見され、人々が歌うことの素晴らしさを知っていく……というストーリー的なものも作ったりしていました。でも色々考えていったときに、もっとニュートラルでもいいんじゃないかと思ったんですね。Youtubeやニコニコ動画などに色々な動画が投稿されていますけど、ああいった形でユーザーの皆さんに肉付けをしてもらうことで、ムーブメントそのものを楽しんでもらえるんじゃないか、という原点的な発想に戻って、最低限のプロフィールだけでいこう、と。

――実際、投稿された歌の歌詞やイラストのイメージから、ゆるやかに初音ミクというキャラクター像が共有されるようになったり、なぜか「ネギ」が定番アイテムになったりと、面白い流れがありましたよね。

熊谷 そうですね。やはりそういう皆さんの力があって、牽引されていくのが理想的なのかなと思いますね。

――KEIさんは、自分のデザインしたキャラクターが、ネットや同人イベントなど二次創作の世界で一大潮流を作ってる様子をご覧になっていかがですか?

KEI あまりに勢いがあるので、自分と関係のないことみたいに「へぇ、最近こんなキャラが流行ってるんだ」みたいな感じですよ(笑)。初めの頃は、何人か初音ミクを描いてくれている人がいるのを見て「わぁ、すごいなぁ」って単純に思っていたんですけど、ある時期から一気に増えすぎちゃって、追うことができないんですよね。

熊谷 かなり早い段階から、イラストや3DCGを発表されている方がいましたからね。

――キャラクターの基本デザインがすごくしっかりしていて、長いツインテールと、肩の出ている衣装、カラーリングが合っていれば、誰が描いても「初音ミク」だとわかることが大きいと思います。

熊谷 そのあたりはすべてKEIさんのお力ですね。デザインの完成度が本当に高かったので、修正をお願いしたのは、本当に細かい部分だけなんですよ。

KEI デザインしたときに、描きやすいのが一番いいかな、ということは意識していました。キャラクターのシルエットなど、大まかなデザインは割と早めに決まりましたよね。

熊谷 最初のラフをいただいた段階でグッと来たものがあったので、すぐにその方向性でキャラクターデザインをお願いしようと思いましたから。

――KEIさんは同人で「ビスケたん」も描かれていますが、『初音ミク』では、いわゆる「擬人化キャラ」としてのアプローチは意識されましたか?

KEI あまりメカっぽくなってもいやなので、擬人化とか、当初のSF的な設定といったものを意識しすぎないで、無難にやったほうがいいかなと思ってデザインしました。

熊谷 キャラクターに関しては、KEIさんの感性にお任せするのが一番だと思ったので、その部分はKEIさんに全部お任せして、自由に描いていただきました。

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