電子の歌姫『初音ミク』――キャラクターと歌声が出会った日

電子の歌姫『初音ミク』――キャラクターと歌声が出会った日

■KEIさんの描き方について聞いてみた

――KEIさんの具体的な執筆作業についてお聞きします。CGの制作にはPainterをお使いになられるとのことですが、『初音ミク』は普段のイラストとは少し違うテイストですよね?

KEI そうですね。Photoshopでパーツ毎のレイヤーに分けたあと、Painterでそれぞれのパーツに影をつけていく感じで書いています。

――PhotoshopとPainterでは、どちらを先に覚えられたんですか?

KEI Photoshopです。そこからPainterをメインで使うようになった理由は、率直な話、レイヤーを分けて塗るのが面倒くさくなってしまって(笑)、一枚でどうにかして塗れないものかなぁと思ってPainterを使うようになりました。そのせいで完成するまでがすごくわかりづらいことになってしまっているんですけど。

――レイヤーを使いたくないというのは、今どきのCGとしては珍しいタイプの描き方ですよね。あるいみ時代に逆行するというか。暗い色でシルエットを決めて、そこに色を乗せていくというのも独特です。

KEI 自分の描き方だと、キャラクターと背景を分けることがすごく大変ですからね。初音ミクのときがまさに「あぁ、もうどうしよう」みたいな(笑)。久しくこういう描き方をしていなかったのでとまどいました。

――CGの描き方については、特別に勉強されたりしたことは?

KEI 特にどこかで学んだということはないです。インターネットを始めた頃、ちょうどCGでイラストを描く人が増えだした中で自然に身につけた感じですね。

――過去にKEIさんもイラストを投稿されていたというゲーム雑誌からは、『鋼の錬金術師』の荒川弘さんなどメジャーで活躍する作家が多く出ています。当時、格闘ゲームのキャラクターイラストが斬新で、カプコンやSNKの影響で絵を描き始めたという人も多いと思いますが、その影響はあったのでしょうか。

KEI あまり過去のことを言わないでください(笑)。たしかに『ストII』をはじめ格闘ゲームは好きだったのですが、絵に直接影響を受けた方は誰か? と聞かれて、名前がまず浮かぶのは天野喜孝さんなんです。名前を挙げると絶対「嘘だ」って言われるんですけど(笑)。サイト向けとかで描いてる水彩風の塗りとか少なからず影響は受けてるかと。

――天野喜孝さんの絵との出会いは?

KEI とにかく『FF』のデザインがすごい好きだったんです。それまでは、ゲームのイラストといえば、『ドラゴンクエスト』の鳥山明さんのマンガ的なイラストの印象が強かったのですが、いきなりまったく違う感じのイラストが出てきたので、衝撃でした。

――色調にダークトーンを好んで使われるところに、天野喜孝さん的なパレットの感覚を持ってらっしゃるのかな、と感じます。単純なベタ塗りではなく、筆を重ねて色を置いていくところにも影響があるのでしょうか。

KEI 厚塗りを始めたきっかけは、多分、『バーチャファイター2』の寺田克也さんの影響です。最近では、逆に水彩っぽい感じの塗り方になってきているんですけどね。

鏡音リン

■VOCALOIDは止まらない!

――VOCALOID2 CVシリーズ第2弾として『鏡音リン』のデザインも発表されて、発売を待ちきれないユーザーの間ではすでに色々な盛り上がりを見せていますが、今後の展開についてもお話を伺いたいと思います。これからもKEIさんとのタッグでシリーズを展開されていくことになるのでしょうか。

熊谷 シリーズ第3弾までの構想は固まっておりますが、それからの展開についてはまた改めて考えていきたいなと思っています。『鏡音リン』もラフデザインの決定は早かったので、ずっとシルエットでは出ていたのですが、『初音ミク』が予想外のヒットだったこともあり、いろいろあって完成まで時間がかかってしまいました。

KEI それでまた、最近になって描かなきゃ!って感じになってますけど(笑)。

――KEIさんとしても、コミックRUSHでの漫画連載が発表されていますね。

KEI 『初音ミク』については、不思議な感じでやっていきたいんですよね。自分はオリジナルのキャラクターを描いたんですけど、ファンのみなさんによって肉付けされた部分も大きいし、個人的にもあまり自分が作った性格を押し付けたくないので、自分が何かやっていても、これが「公式」なんて構えずに、「こういうのもあります」くらいの気持ちで見てもらえればいいかなという感じです。

――この年末には、コミケの企業ブースでグッズ販売もされますが、そういった部分でも今後は大きく展開していくのでしょうか。

熊谷 今の段階では、大々的な商品展開は考えていません。今回はコミケということで、限定でやらせていただく形です。コミケでは公認ヴォーカルCDの発売も決定しましたが、これも「初音ミクオフィシャルソング」ではなくて、あくまで私たちなりに『初音ミク』を使った楽しみ方の一つとして、ファンの皆様へご提案出来ればなといった気持ちから生まれました。KEIさん書き下ろしのイラストも付いてきますので見て、聴いて、楽しんで頂けると嬉しいですね。

――これからもユーザーと共に、キャラクターを育てていくということですね。

熊谷 私達が育てていく、のではなくてユーザーの皆さんに育てていただくというのが理想のイメージですね。あとは、DTMに限らず、イラストを描いたり、3DCGを作ったりと、『初音ミク』が何かを創ることのきっかけになってくれれば嬉しいですね。

(2007年11月9日 ルノアール新宿区役所横店会議室にて収録)

インタビュー/構成:前田久 平岩真輔

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