「糸曽賢志の一方通行なおしゃべり」
連載第三十八回「アニメ演出のお仕事って…05原画、背景美術チェック」
皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。 糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。
暑くなってまいりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
最近のボクの近況はといえば、PVやテレビアニメ企画の制作に追われてバタバタしております。
家に帰れないことも多く、ここ10日くらいほとんど寝てないのですが、先日初めて歩きながら寝ていました。 気付いたら、別の風景が流れていてびっくりしたのを覚えてます。
そのうち車に引かれそうで怖いですが、そうなったらそうなったで仕方がないかとも思いつつ生きております。
そんな感じで作っているので、せめて完成した作品が少しでも人に伝わるものになっていれば良いのですが。
さてさて、話を本題に戻して、演出のお仕事シリーズ5回目のテーマは「原画、背景美術チェック」についてです。
「原画」というのはカットごとにアニメーションのキーポイントとなる絵を描いてタイムシートとともに画面内の構図を原画担当の方々に決めて頂いたもののこと。
この原画を見て、演出担当が小物デザインやキャラクターの表情、演技などのチェックをしていくのです。
必要であれば色のついた紙に修正を加えてリテイクを出したり調整したりするのですが、この際使う色紙は担当ごとに基本違う色を使います。
例えば「作画監督」が修正用に緑の紙を使う場合、「演出」は赤い紙を使ったりして、誰が修正を入れてるかを客観的にもわかりやすくするのです。
あと他にも気を付けなければいけない事として、原画をコピーしておくことがあげられます。
カットが順番通りではなくバラバラであがってくるのですが、その場でどんどん処理していかなければいけないので後からトラブルが起きることがあるからです。
例えばカット99が上がってきてチェックした数日後に、カット100があがってきたとします。 その2つがとても繋がりが重要なカットなのに、カット99のラストの動きやポーズが思い出せず、繋がらない可能性が出てきて困ることがあるのです。
そういうわけで、そんな恐れがある時はチェック後に必要箇所をコピーしておくと後でチェックしながら作業できるので便利。
アニメはたくさんの方が同時に作業するので、原画も別の方が担当していたりするとカットごとに繋がりが悪くなることも多く、注意を払っておいた方が良いです。
一番良いのは、最初に原画さんの担当カットを決める際に、なるべく一連の動作は同じ方に任せることかもしれません。
同時進行で行う美術チェックは自分のイメージに合っているかどうかを見て、BOOK(セルの上にくる美術)のチェックを行います。
絵コンテやレイアウトと見比べて問題がある場合は修正していきます。
演出はチェック作業が重なりミスも出てくることはありますが、なるべく気付いたら早めに直すようにすることが重要な気はします。
いろいろ書かせていただきましたが、これからアニメに携わろうと思っている方の参考になっていれば嬉しいです。
そして次回は「アフレコ」について書かせていただくつもりです。
それでは、この辺でひとりごとを終わりにしたいと思います。 お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば、幸いです。
では皆様、またお会いしましょう。
いとそ けんじ
- 糸曽 賢志(いとそ けんじ)
- 1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。
20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。
大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。
現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。
2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に
取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。
文化庁新進芸術家国内研修員にも認定され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008で北海道知事賞、第7回東京アニメアワード企業賞を受賞するなど、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
⇒加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
⇒クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
⇒糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)