連載第四十八回「考えること」

皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。

糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。

梅雨の時期に入ってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

前回も書きましたが、ボクは梅雨が嫌いだったりします。

梅雨なんて、ホントなくなればいいのに。

だいたい傘を持って歩くというだけで肩はこるし、靴は濡れるし、髪型はくずれてくるし、サングラスは濡れるしと、良い事なしです。

朝曇ってるから傘を持って行ったのに微妙にしか降らず、結局使わずスタジオに忘れて帰った日などは、もう傘を持っていった意味も分からず、悲しいのか嬉しいのかすら分からなくなるのです。

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またこの時期は、スタジオからの帰り(夜中2時頃)に近所を歩いていると大量に蛙の鳴き声が聞こえ、たまに道のど真ん中ででかい蛙が待ち構えていたりします。

コンクリートジャングルTHE東京にもこんな場所は存在するのか、と微笑ましく思えればよいのですが、梅雨以上に蛙が苦手なボクは、ヤツが目の前にいると「うーん」という気分になり、注意深く様子を伺いながら迂回しつつ通り過ぎます。

もちろん蛙には、そんなボクの気持ちが分かっているのかどうかなんてわかりません。

ボクは蛙と話すことなんてできないし、話す気もないのです。

でもヤツは、歩道の真ん中でいつも通りに「グエッグエッ」と鳴き続けています。

これが、ボクをまったく視界に入れていない行動というか、気遣いのない行動に見受けられるので、なんだかムッとした気分になってきます。

なんとか、こやつに「糸曽賢志ここにあり」という認識を持たせられないだろうか。

きっと蛙だって螻蛄(おけら)だって、アメンボだって、脳みそはあるはずだから(調べた所、虫にも脳はあるようです)考えてるはずだし、彼らに分かる行動を取れば考えを共有できるのでは??

そんなことを必死に考えながらも「怖いので」迂回して恐る恐る歩くそのボクの姿は、きっと人から見るとすごく滑稽に映るんだろうな、と思います。

これってとても面白いし大事なことで、人が一生懸命考えて真剣にとっている行動こそ、傍(はた)から見ると滑稽で面白い事な気がします。

本人にとっては必死で、真面目にやってるだけなのに、他人にはとても面白く映る。

これが本当の「個性」だと思うのです。

第三者から見ると、一生懸命自慢話をしている人のその自慢話よりも、その得意げな表情の方が百倍面白く見えたり、必死に顔を真っ赤にして怒っている人のその動きが面白く見えたり。

そう考えていくと、必死に考えて頑張ってるのに結果が出ない人を見た時が一番オチがついているので笑えるはずなのですが、そういうことを日本で言うと「人としてどうなの?」って言われる傾向にある気はします。

まあブラックユーモアというジャンルになってしまうので、好まれ辛い(からいじゃないよ)というのは理解できますが。

でも、「人の不幸は蜜の味」って言われるくらい、世の中の人のほとんどが人の不幸話や悪口、噂話といった話で盛り上がってるし、週刊誌や新聞の記事も大体悪いニュースの方が大きく取り上げられるケースが多いので、表向きには偽善ぶって心の底では人の不幸を楽しむというのが、今のこの世の中の「常識」というものなのかもしれません。

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こういったことを書くと賛否両論はあるかと思いますが、別にそういう世を否定しているわけでなく、そういうものだと理解しているというだけの話です。

ここで、なんでこんなことを書いたかというと物をつくったりすることは「考える」ことが非常に大事になってくるからです。

大事というか「考える」ということの上に成り立つのが「ものづくり」なのかもしれません。

ボクは最近出会った人の影響で「物事には全て裏の面があるのでは?」っていう疑いの目で物事を見ていくようになれたのですが、それはボクにとってとても大きいことだったので、なんとなくここに書いてみた次第です。

ひょっとしたら、こんなことを深く考えるて面白いでしょ?って感じで、にやにやしながらこのコラムを書いてるボクの姿も、人から見ると笑えるのかもしれません。

雨は嫌いだけど、それが集中する梅雨はもっと嫌い、その梅雨時期に現れる蛙はもっともっと嫌い。

でも、嫌いなものがあるからこそ、好きなものが生まれることもあるのでは。

色々書かせていただきましたが、このへんで今回のひとり言を締めさせていただきます。

お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば幸いです。

それでは皆様、またお会いしましょう。

いとそ けんじ

糸曽 賢志(いとそ けんじ)
糸曽 賢志
1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。 20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。 大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。 現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。 2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に 取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。 文化庁新進芸術家国内研修員にも認定され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008で北海道知事賞、第7回東京アニメアワード企業賞を受賞するなど、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)
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