ライトノベル&イラストレーション 平成の奇書、現る!『空想東京百景』ゆずはらとしゆき&toi8インタビュー

平成の奇書、現る!『空想東京百景』ゆずはらとしゆき&toi8インタビュー

■平成の奇書、現る!

「奇書、現る!」

08年5月、このコピーとともに、銀のカバーで知られる講談社BOXレーベルから、約500ページの大著が刊行されました。

ゆずはらとしゆきさん、toi8さんのコンビによる『空想東京百景』。12ヶ月連続刊行で話題を呼んだ、西尾維新『刀語』、清涼院流水『パーフェクト・ワールド』の「大河ノベル」をはじめとして、ライトノベル、ミステリといった既存ジャンルの枠を超えた異色作を次々と送り出している講談社BOXの中でも異彩を放つ、「レーベル発足以来、最大級の”奇書”」でした。

その分厚さもさることながら、読者を驚かせたのはその中身。小説あり、マンガあり、絵物語あり、設定資料集あり、そして、それらのすべてを一冊にまとめたことで現れてくる「何か」がありました。『空想東京百景』は、さまざまな形式で語られる物語が、読者を「ここではない、もうひとつの東京」へと誘う、魔術的な書物だったのです!

⇒講談社BOX:空想東京百景紹介ページ

たとえば、ゆずはらとしゆきさんの原作に、toi8さんの作画によるフルカラーマンガとモノクロマンガを組み合わせている、「Beltway」前後編。

たとえば、ゆずはらとしゆきさんの小説と、toi8さんのカラーイラストが交互に現れる、「夢の都、袋小路」。

たとえば、本書のために書き下ろされた、小説とイラストがかつてないほど混ざり合っている、”イラストーリー”「七つの顔と喰えない魂」。

小説とイラストのかつてないコラボレーションで読者を幻惑する「現代の奇書」は、いったい、どのような手順で、この世に産み落とされたのでしょうか。著者のゆずはらとしゆきさんと、イラストレーターのtoi8さんにお聞きしました。

■「空想東京百景」――その企画の発端は?

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第二次世界大戦末期、〈新型爆弾〉によって壊滅した後、奇跡の復興を遂げた昭和三十年代の〈東京〉を舞台に、かつて本土決戦用兵器としい開発された巨大ロボット〈鴉〉とともに国際ギャング団と戦う、男装の少女探偵〈矢ノ浦小鳩〉、凶悪異能犯罪対策のために創設された警視庁〈0課〉に所属する女サイボーグ刑事〈01〉、あるいは超常の力を秘めた〈魔銃〉を操る殺し屋たち――「空想東京百景」は、もうひとつの「戦後」を生きる人々の群像劇です。

この物語が初めて描かれたのは、2002年のことですが、ゆずはらさんとtoi8さんのコンピはどのように生まれ、どのように「空想東京百景」の世界観を作り上げていったのでしょうか。

toi8 僕は、もともと2年くらいアニメの仕事をしていたんですが、原画を任されるようになって1年くらいで会社を辞めてしまい、フリーでちょこちょこ仕事をしていました。そんな中、今は亡き「カラフルPUREGIRL」という美少女ゲーム情報誌で、はじめてイラストの仕事をしたんですが、「空想東京百景」の企画も最初、その編集長からお話がきました。

ゆずはら ぼくはその当時、主にマンガ原作者として活動していたんですが、「今度、新しいマンガ誌を創刊するんだけど、すごく上手いイラストレーターがいるから、この人を使って企画を考えてくれないか」と言われたんですね。その雑誌では別方面から、連載マンガの原作を書く話が進んでいたので、一瞬、断ろうかとも思ったんですが、とりあえず何点かイラストのサンプルを預かりました。それで、なんとなく「toi8さんの作風を生かすには、どんな話にしたらいいかな」と考えてみたところ、一晩で企画書らしきものが出来上がってしまったんですね。

toi8さんの画風を最大限に引き出すにはどうしたら良いのか? そんな問いに、ゆずはらさんが提示した答えが、異なる歴史を辿ったもうひとつの〈東京〉の物語――「空想東京百景」でした。

ゆずはら 当時のぼくは、マンガ原作者としては座付作家タイプというか、漫画家さんのイメージに合わせてキャラクターの設定やストーリーを作っていく、一歩引いたスタイルだったんです。だから、少女マンガ系の絵柄だったら、当然、話も少女マンガ系に近づけていきますし、リアル系の絵柄でしたら、なるべくリアルな話を考える、といった感じでした。意図的に絵柄とストーリーにギャップを作ることもありましたが、物語を書く上で、イラストレーターさんのパブリックイメージや作風は常に意識していました。

写真5

toi8さんの場合は、いただいたサンプルを見て、昭和三十年代の物語というのがパッと出てきたんです。これだけの作画力があれば、架空の世界観を構築するタイプのコンセプチュアルな作品ができる、と思ったんですよ。toi8さんの絵はすごく上手いんですが、良い意味で押しが強くないのも良かったですね。キャラクターのアクが強くないのに個性があって、背景を含めて、toi8さんの絵だと一目でわかるし、キャラクター作りに於いて記号化された構成要素を使っても下品にならないんです。

toi8 自分は、昔からキャラクターを単体で見るという意識が薄いんです。こう描けばかわいく見えるな、という方法論はあっても、キャラクターが可愛いから作品を買う、みたいなことはほとんどないです。かといって、背景が好き、というわけでもないんですね。あくまでキャラクターと背景含めて、一枚の絵として、いつも捉えています。

ゆずはらさんからは、最初、昭和の風景の中に巨大ロボットが登場する、原作版「鉄人28号」のような話とお聞きしました。自分にとっても、レトロな近未来とか、映画「ブレードランナー」のような、近過去のような、廃墟のある未来像というのは、もともと好きなモチーフでした。

ゆずはら イラスト単体でも世界観を表現可能なイラストレーターさんとのコラボレーションは、作家の方がイラストレーターさんの世界観にストーリーラインを合わせようと思い込んでしまったりもするので、けっこう難しいんですが、toi8さんの場合は、もともと一歩引いた自分のスタイルと近いと思ったので、無理に合わせる必要はなかったですね。世界観さえ合わせれば、ストーリーラインは自動的に決まっていくだろう、と。

ぼくは、イラストレーターにはキャラクターの魅力で勝負するマンガ家タイプと、画面全体の雰囲気で勝負する画伯タイプの二種類があると思っているんですが、toi8さんは後者だと思っていて、その意味での新鮮さもあったんですよ。マンガ原作者の顔では書けない話が書ける、という期待感があったというか。

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