ライトノベル&イラストレーション 平成の奇書、現る!『空想東京百景』ゆずはらとしゆき&toi8インタビュー

平成の奇書、現る!『空想東京百景』ゆずはらとしゆき&toi8インタビュー)

■誕生と増殖――虚構都市〈東京〉の正体

雑誌連載作品としてスタートした第1期「空想東京百景」。単行本版には、加筆修正されたものが掲載されていますが、雑誌時には、1ページに縦長の3コマが配置され、そのうち1コマにゆずはらさんのテキストが、2コマにtoi8さんのカラーイラストが掲載される、という形式でした。イラストと小説が混ざり合う、独自のスタイルが、すでに連載の最初期から確立していたことがわかります。この形は、どのように生まれたのでしょうか?

ゆずはら 「空想東京百景」のスタッフワークは基本的に、テキストのぼくとイラストのtoi8さんのコンビなんですが、三番目のスタッフとして、ヨーヨーラランデーズという二人組のデザイナーさんのデザインワークが大きいですね。講談社BOX版「空想東京百景」や、小学館ガガガ文庫『十八時の音楽浴――漆黒のアネット』の単行本デザインも担当していただいていますが、第1期シリーズではレイアウトやフォントといった、シリーズのデザイン的な方向性を作っていただきました。

写真2

B5判の漫画雑誌で普通の縦書き二段組と挿し絵、という形のレイアウトを組むと、せっかくのカラーページがもったいないんですね。そこで、ディスカッションの結果、映画風のデザイン――フィルム風の三段割りが良いんじゃないかということになりました。アイデアは昔の映画のポスター集などがきっかけになったと記憶しています。

toi8 横長の画面の比率が、もともとの本業だったアニメーションのボードに近かったので、個人的にはすごくやりやすい形態でしたね。

そのようにして始まった「空想東京百景」シリーズですが、小鳩や〈01〉といった、魅力的なキャラクター、あるいはローマのコロシアム型に造られた〈蔵前国技館〉といった、もうひとつの〈東京〉の風景はいかに生み出されたのでしょうか?

ゆずはら まず、最初にイメージボード風の短いプロローグを描いていただいたんです。単行本には「都市生活者の心得」というタイトルで収録されていますが、そこから次々とイメージを膨らませていく形で、連載を進めていきました。

キャラクター作りは、ほとんどぶっつけ本番です。小鳩と〈01〉ぐらいは簡単なラフを描いてもらった記憶がありますが、他のキャラクターは、シナリオ形式の本文テキストに簡単な設定メモを添えただけで、あとは何が上がってきてもテキストの方を修正すればいい、という具合です。だから、絵が上がってきてから、このキャラはこういうキャラだったのか、と分かるんですね。

もともと、第1期シリーズの頃は、ぼくが会社勤めをしていた上に、同じ雑誌で別のマンガ原作も抱えていたので、何度もやりとりをしたり、リテイクを出したりする時間がなかった、という事情もありました。テキストも毎回遅れていて、toi8さんにはご迷惑をかけ通しでした。

図版6

toi8 こちらこそ、いつも原稿が遅くて、すいませんでした(笑)。背景については、ゆずはらさんに、昔の東京に関する資料を大量にいただきました。複数の資料を必ずあたって、そこから描いていく感じですね。それから、作中の舞台である昭和三十年代の新宿や吉祥寺については、当時の風景を記録した写真集とかが出回りはじめていたので、それも参考になりました。

ゆずはら 最近は、映画『ALWAYS~三丁目の夕日~』のヒットもあってか、昭和時代の風景写真集はたくさん出ているんですが、第1期を連載していた02年頃は、まだ少なかったんですよ。

もともと第1期のテキストは、シノプシスをシナリオ形式に整えた程度の、ものすごくいいかげんな作りだったんです。だから、架空の建築物についても、可能な限り、突飛なものを描いていただければ、と思っていました。ディティールに関してもこちらからは細かく指示を出さず、可能な限り自由に描いていただきました。

ですから、toi8さんの絵で物語の基本設定が変わっていくこともありました。スケジュールからしてぶっつけ本番なので、イラストデータを受け取った時に「次は、どんな風景が描きたいですか?」と聞くんですね。その返答からバタバタと次の話が決まっていくんです。

ゆずはらさんとtoi8さん、個性的な2人のやりとりによって、「空想東京百景」の作品世界が、生き物のように少しずつ成長し、形成されていく様子が伝わってきます。

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