[第3回]『ちはやふる』 スポーツアニメの 面白さ
スポーツアニメについて考えている。
いつも野球中継を見るたびに、野球というのはかなりアニメ向きのスポーツだと思う。投げる、撃つ、守る、走る。一つ一つのプレイが独立しているので、1つのカットに1キャラクターを映し出し、一つのアクション(プレイ)を描けばいい。そのカットを積み重ねていくことで、野球というスポーツの全貌が浮かび上がってくる。
当然プレイを丁寧に描きだすには高いレベルの作画技術が求められるが、アニメ化にあたって「1カット1キャラクター1アクション」にまでかみ砕いても野球というスポーツの本質が伝わるということが大事なのだ。さらに国民的スポーツの一つ故、ルールの説明をしなくても済むということも大きい。
ほかのスポーツでは、こうはうまくいかない。
たとえば野球と並んで子供に人気のサッカーだが、俄然状況は複雑だ。ルールこそ周知はいらないが、走り続けるキャラクター、しかも、ボールの周囲には複数のキャラクターが絡む一方で、パスを出す先のキャラクターは同一フレームに収めるには遠すぎる。循環動画で「足下にボールが戻ってくるドリブル」が存在するのは、こうしたアニメ化しづらいサッカーを「1カット1キャラクター1アクション」にかみ砕いた結果といえる。
2010年にアニメ化された『GIANT KILLING』は、ロングショットで選手全体の動きを見せるカットなどに3DCGで描いたキャラクターを使うなど、「1カット1キャラクター1アクション」の縛りを超えてサッカー描写を大幅に更新した作品だった。逆に「サッカーゲーム」をアニメ化した『イナズマイレブン』(’08)は、必殺技の応酬というスタイルなので。、展開するプレイの内容が「1カット1キャラクター1アクション」に落とし込みやすくなっているところが特徴だ。
もっともチームスポーツ全般に、1チームのキャラクターが多すぎるという難しさがある。これはラグビー、アメリカンフットボールがその競技の浸透度と相まって、マンガ化、アニメ化されづらい理由の一つだろう。
1チームが5人と少なく、国内での競技人口も少なくないバスケットボールがあるが、走り通しの競技のため、ほぼサッカーと同様の困難を抱えている。その中で『SLAMDUNK』(’93)よりも、正面からバスケットボール(ミニバス)のプレイを描いた『ロウきゅーぶ!』(’11)は記憶にとどめておかれるべきだろう。
では、個人スポーツならばチームスポーツの問題をクリアできるか。それはそれで難しい。
たとえばテニスは、「1カット1キャラクター1アクション」に分解できるスポーツだが、プレイの本質が案外地味なのである。テニスは細かいポイントを積み重ねていく構造でできているため、「歩留まり」のいいほうが勝つという仕組みになっている。1点の重さが重いサッカー、満塁ホームランなどで逆転がシステム化されている野球とは本質的にそこが異なる。『テニスの王子様』(’01)が、イマドキのスポーツマンガ(アニメ)であるにもかかわらず、懐かしい「魔球」に相当する必殺技の応酬になってしまうのは、少年誌連載というだけでなく、テニスというスポーツの得点システムの地味さをカバーするためではないだろうか。
格闘技(ボクシング、レスリング、あるいはプロレスなど)はもちろん十分ありえるが、このあたりになるといわゆる「バトルもの」と限りなく近接してしまうというデメリットがある。肉体のぶつかり合いであるなら、「スポーツ」という枠組みを取っ払ってしまったほうが、より劇的なストーリーに組み込まれることになるし、快楽としてはロボット戦闘とも重なり合っている。
長々といろいろと考察してしまったが、これはひとえに『ちはやふる』がスポーツアニメとして非常におもしろいからだ。
『ちはやふる』は、競技かるたを題材にした同名漫画のアニメ化だ。競技かるたは、百人一首を使った競技だが、「畳の上の格闘技」ともよばれて、ダーツなどと同様のスポーツとして考えられる。
競技かるたのいいところは、さきほど見たように「個人競技」でかつ「1カット1キャラクター1アクション」で成立するところにある。また対戦相手も至近距離にいるので、互いをフレームに入れ込むことができて、画面上の熱気を高めることもできる。さらに原作に寄るところは大きいが、プレイスタイルの違うライバルと対戦するという構図を使うなどして、競技かるたのスポーツとしての奥深さがわかりやすく視聴者に示されているところも見逃せない。
さらにアニメ化されたことで、札を読み上げる時のタメと、札をとるアクションの緩急が画面を活気づかせて、(少ないアクションながら)スポーツ感を高める結果になっている。
こうして見てみると、「競技かるた」というのは野球なみにアニメに向いているスポーツなのではないだろうか。
もちろん馴染みのあるスポーツではないからルールの周知をスタッフも含めていかにするかなどの難しさもあるだろう。だが、これは多くの人に読まれている原作があることで既に一定の水準ではクリアされている。
ドラマとして十分魅力的な『ちはやふる』だが、スポーツアニメとして見ても、このような可能性と成果を見ることのできる作品なのだ。
文:藤津亮太(アニメ評論家/@fujitsuryota)
掲載:2012年3月16日
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