デジタル作画の最前線

2010/3/27(土)、ペンタブレットで知られるワコム社が「Wacom Live 2010 デジタルイラストフェスタ 2010」を開催しました。イラストレーション、アニメーション、マンガ……様々な分野でのトップランナーたちが、新型が発売されたばかりの液晶ペンタブレットCintiq21UXを前に和田学さんの司会のもとで語った、三部にわたるトークセッションの一部をレポートします。

第一部「Design Works By Range Murata」では、イラストから「rm」レーベルでのグッズ生産まで幅広く活躍する村田蓮爾さんを中心に、最先端のデジタル機器を積極的に取りいれることでも知られる安倍吉俊さん、宗田理氏の「ぼくら」シリーズなど数々の書籍イラストを手がける加藤アカツキさんも登壇しました。

■Design Works By Range Murata

――今回は親交の深い方々ということで集まっていただいたのですが、どういったご関係なのでしょうか?

デジタル作画の最前線

村田 自転車が好きな同士ですかね。自転車って小径とかいろいろあって、こだわるところがそれぞれ違うので盛りあがりますね。自転車をテーマにしたイラスト集も作っているところです。

――プロダクトも積極的に手がけていらっしゃいますが、その醍醐味や苦労はなんですか。

村田 自分が思っていた以上に実際に作る工程を知らないので、何がだめで何がOKなのかその都度現場とやり取りをしながらやっていくんです。それが非常におもしろい。

安倍 しめ切りに間にあわずに受けてくれる工場がなくなって、その分のコストで赤字になっちゃったこともありましたね。

――イラストの制作環境を伺えますか。

村田 PCは2GhzのMacで、そろそろ新しいのを買おうと思っています。ペンタブレットはCintiq21で、手もとで描いている線が見えるのと立てて描けるのがよいですね。ソフトはPhotoshopCS3。環境面でのこだわりはあまりないんです。

安倍 PCは iMacの一番新しい27インチのやつ、ペンタブレットはIntuous4のLargeです。モニターを2枚ならべて使うので、タブレットは横長のをさらに上下を少し切って使っています。

iTunes用が1台、写真管理用が2台、twitter用に小さいのが1台……とどんどん増えて、モニターは8台くらいあります。デイ・トレーダーみたい(笑)。風呂に入るにも寝るにもiPhoneを持っているので、布団の中でケーブルがぐるぐるになっていたりして。

――ソフトウェアは何を使っていらっしゃいますか。

安倍 PhotoshopのCS4とPainterの11です。もうこれでよいと思ったこともあったのですが、新しいやつについていこうと思って。

加藤  PhotoshopCS3とPainter11を使っています。ペンタブレットはCintiq12WXで、ナナオのモニターで色の調整をしつつやっています。21型の方は発色がよいので、21型1台体制に乗りかえるかもしれないですね。

――デジタルに移行した時期やその時の苦労話を教えていただけますか。

LAST EXILE
※1『LAST EXILE』
2003年放送のTVシリーズ。3DCGを駆使したスチームパンク活劇にして、GONZO十周年記念作品。
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村田  『LAST EXILE』※1というアニメのキャラクター原案の仕事をした時です。カンヅメみたいな状態で慣れた画材が使えなくなってしまった時期があって、仕方ないから安いMacを買って描いてみたら、それっぽくなったんですね。

最初は紙の上で出る自然なむらとかを再現するのが難しいなあと思ったんです。あれがすごく好きなので、一所懸命テクスチャを加工したりしました。最近はどうでもよくなってきましたけども(笑)。

安倍  だから、Painterなら簡単にできるとずーっと言っているじゃないですか。結局ここ6年くらいおぼえていない。逆にPhotoshopでよくこんな面倒くさい作業をするなあと思いますけどね。

――安倍さんと加藤さんはいかがですか。

安倍 ぼくはアナログでマンガを描いたことがないんです。線画は鉛筆だし大学で日本画をやってはいたのですが、キャラクターの彩色は最初からデジタルでした。

本格的にCGをはじめたのは94年くらいです。まだレイヤーがなくて、水彩をまざらないように重ねていくことできなかったのは大変でしたね。ただ、それは絵の具で描いていたのとあまり変わらないので。

加藤 ぼくは逆にCGがあったからこそ絵描きになれた人間で、絵の具は全然さわれないんですよ。絵をはじめた時には、液晶ペンタブレットがない以外は、今とそんなに変わらない環境がありましたね。アナログへの対抗意識はうすくて、CGはCGでできることがあると思っています。

――アイディアやインスピレーションのもとはなんでしょうか。

村田 古い電話機を思いだしながら描いたり、車とか人工的なものからインスピレーションを得ることが多いですね。

灰羽連盟
※2『灰羽連盟』
2002年放映のTVシリーズ。安倍吉俊原作・脚本。飛べない羽を持つ少女の成長を静謐な筆致で描く。
灰羽連盟 TV-BOX [DVD]をamazonで見る

安倍 日常生活の中で見ているものなのですが、ぼくは記憶違いして勝手に別ものにしてしまっているんですよ。たとえば『灰羽連盟』※2というアニメでは、レバー式の井戸のデザインを写真集で見た記憶で描いたんです。ところがあとでその写真集を見たら、井戸ですらなかった。

加藤 インスピレーションというより、オーダーやターゲットの分析からはじめて「ここにはこの絵柄がいい」と考えます。書籍の仕事が多いので、本屋に行って観察したりします。

――電子出版が話題になっていますが、思うところはありますか。

村田 描きたい絵さえ描ければどうでもいいです(笑)。

安倍 ぼくはiPhoneで同人誌を売るのを最初にやったんです。キンドルでも出したしiPadでも出す手続きをしているところです。フォーマットさえクリアすればだれでも簡単に出せるんですよ。今のところ日本語の本は出してはいけないことになっているのがネックですが、マンガは小説よりせりふが少ないので、英訳もそれほど大変ではありません。

――同人誌の電子出版が増えていくという予測もありますか。

安倍 同人誌と商業誌の境界自体がもはやないと思うんですよ。コミケでも書店でも売っている本は多いですし、自費出版を同人誌と呼ぶなら、商業誌に描いたものを電子出版化する手続きを自分でやったら同人誌になるので。

――画力向上のためのポイントやスランプ克服法をご紹介いただけますか。

デジタル作画の最前線

安倍 行きづまったらチャンスだと思っています。次のものに気づいているのに意識化できていないので歯がゆいということなので、描きつづけていれば、発見や進化をする瞬間が必ずあると思います。その瞬間を強く記憶しておくと、次のそれも呼びこみやすくなってうまくなる方法が分かってきます。そうすると絵を描くことが楽しくなって、ずっと続けられますよね。

加藤 ぼくは専門学校で教えているのですが、落描きばかりしている人と、どういったスキルをあげたくてどういった練習をするのかを明確にしている人とでは、上達のはやさが全然違います。つたないものが許せないという人は、延々と描いて、教えなくてもうまくなっていくようです。

村田 描いていると「描きやすいな、気持ちいいな。」という線が出ると思うので、それをのばしていけば自然と上達するのじゃないですかね。絵を描くのが本当に楽しいというのが、一番大事ですよね。

――ありがとうございました。

⇒第二部「アニメーターへの道」は、新世代アニメーター4人の座談会です。

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