デジタル作画の最前線

第二部では、Flashなどを活用した自由で躍動感あふれる画面づくりで注目をあびるアニメーター、りょーちもさん、沓名健一さん、山下清吾さん、まじろさんの4人がそろいぶみしました。即興の作画を披露しつつ、和気あいあいとした中に辛口の本音もまじって、斬新な表現を生みだす現場の雰囲気が感じられるセッションでした。

■アニメーターへの道

――まず自己紹介をかねて近況をお願いします。

ヒゲぴよ
※3『ヒゲぴよ』
ヒゲをはやしたおとこ気あふれるヒヨコが主人公のギャグ短編。NHK教育『天才てれびくんMAX ビットワールド』内で放映中。
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※4『夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~』
ヤスダスズヒト作。人間と妖怪が共存する桜の町で続発する怪事件を少年少女四人組が解決するアクション。『月刊シリウス』で連載中。
『夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~』限定版コミックス公式サイト

沓名 近況は……言えません。やっている最中の仕事は発表前で言えないことが多いんですよ。『ヒゲぴよ』※3というアニメのエンディングを作りましたが、見事に話題にならなかった(笑)。

りょーちも 最近は『夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~』※4というマンガの単行本につくOADの監督、キャラクターデザイン、総作画監督をさせてもらっています。

――アニメの仕事をされるきっかけがユニークだそうですが、くわしく伺えますか。

りょーちも 普通は動画で1~2年勉強してから原画試験を受けて原画マンになるという行程を通るのですが、我々はインターネットで自分のサイトを立てて絵やアニメーションを公開していたところを制作さんや監督さんに見つけられて、原画からスタートしています。インターネットを入り口に業界に参加したということで、ウェブ系とか呼ばれることもあります。

沓名 当時はGIFが全盛だった中で、Flashでやっていたのがおもしろがられたのかもしれませんね。アニメーターごとにパターンを抽出したことも。

デジタル作画の最前線

りょーちも 最近は作品スタイルのバリエーションが増えているので、動画からやらないとだめという発想だけではついていけないのかなとも思います。

沓名 原画と動画とはまったく別の能力ですね。動画は動画でエキスパートがいるのですが、その人が原画がうまいかというと話が違ってくるんです。

――いまお話に出たFlashの強みはなんでしょうか。

りょーちも レイヤーごとにタイムラインにそって描けることです。下にムービーを流しながら絵を描けるから、実写にくっついたアニメーションとかも作れるわけです。

山下  たとえば、多くの会社で採用されているRETAS! は1枚1枚きちんと描くのに向いているのに対して、感覚的にモーションを考えるにはFlashの方が向いているんですね。

――制作現場ではどのようにペンタブレットが使われていますか。

りょーちも アニメーターではぼくらのようなFlashとかをやる人間が使っています。背景美術はほとんどペンタブレットですね。

――いまの制作現場の問題点はなんでしょうか。

沓名 上に立つ作画監督さんなどもいろいろな育ちかたをしているので、ある場所で通用したものが別の場所では通用しないんです。たとえば、動きに注力して「こんなラフな絵で何やってるの」と怒られることもあれば、逆に、キャラクターをていねいに描いて「ちゃんと動きを描け」と怒られることもあります。あわない現場はさけることもできるので、それがよいところも言えます。

デジタル作画の最前線

山下 自分の特性ややりたいことを把握して現場を選ぶことが大事かなと。

まじろ 私は最初、自由にいろいろやらせてもらえると考えて、かっちり固めすぎていない会社を選びました。

りょーちも 自動車のように命にかかわるわけではなく夢をあたえる仕事なので、ゆるさも自由さの一部として生かすかたちを探した方がよいと思うんですよ。

かわいい女の子をならべれば喜ぶだろうみたいなのは、逆にお客さんを馬鹿にしていて。上が決めたパターンよりおもしろいパターンがあったら、そちらを採用しようという多様性や寛容さが肝心なんです。これについては、自分自身が悩んでいる最中です。

――アニメが売れないと言われたり、売れてもアニメーターに還元されないことについて思うところはありますか。

りょーちも 還元がないのになぜやるのかと堀りさげると「情熱でがんばってください」みたいな話になってしまうのですね。そうすると「注文だけでなく自分のしたい表現への情熱を重視してもいいですね」ということにもなって。だから正解はなくて、個々で納得するかたちを見つけていくしかないのだと思います。

――これから必要とされる能力はなんでしょうか。きれいに仕上げる能力であったり動かす能力であったり。

沓名 止め絵が見たい人も動きが見たい人も、つねにいるというだけだと思います。ただ、動きじゃ売れないのはネックだよね。

りょーちも アニメって、基本的にはキャラクターを楽しむものですよね。躍動感が重要になるストーリーを作りあげる必要を感じています。そういう原作があればよいのですが、マンガは止め絵だから難しいですね。

――アニメーターになるためのアドバイスをいただけますか。

りょーちも 自分から突撃した方がいいです。プロジェクトは読めない変化をするので、募集をしめ切ったあとに人がたりなくなって、その時期にもう1回やってみたいと言うと歓迎されることもあります。

鉄腕バーディーDECODE
※5『鉄腕バーディーDECODE』
2008年放映のTVシリーズ。ゆうきまさみ原作。異星人女性捜査官と地球人男子高校生の精神がひとつの体に同居するSFアクション。2009年に第二期も放映された。赤根和樹監督とりょーちもさんのインタビューはこちら⇒アニメ新表現宣言!新世代が魅せる未来のアクション
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まじろ 私は美術系の高校で芸大受験のための勉強をするのと同時に、下請けの作画会社に持ちこみをして、研修から入ったんです。で、高校3年生のときに突然沓名さんからメールが来て『鉄腕バーディーDECODE』※5の手伝いをさせてもらいました。いきなり「どうも、沓名です」って書いてあって(笑)。アニメの仕事にかまけて勉強をしないでいたら、芸大は学力で(笑)落ちてしまったのですけど。

沓名 腕におぼえのある人なら、インターネットにあげてください。ぼくらが見つけますから。ウェブ系一派になりたくなかったら、きっちりした会社に入ってください(笑)。

――アニメーターとしての腕をあげるこつはなんでしょうか。

山下 無理してほかの能力をのばそうとするより、好きなことをやった方がよいと思います。

沓名 動きを描くのが好きで描いていたら、体の構造や軌道はうまくなるじゃないですか。あと、食えないからアニメーターになりたいと馬鹿なことを(笑)言いだした友人にアドバイスしたのが、たとえば異性の絵を描いたり、絵以外の欲求とセットにしてモチベーションを上げることです。

りょーちも 欲望と結びつけるのは大事だよね。

――どうもありがとうございました。

⇒第三部は「イラストレーター・漫画家 美樹本晴彦の世界」です。

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