背景の背景を訪ねて―美しい背景画を描くために大切なこと《前編》絵師ゆうろ絵師インタビュー

背景の背景を訪ねて―美しい背景画を描くために大切なこと《前編》絵師ゆうろインタビュー

いま、背景が熱い! アニメやマンガ、イラストで美しく描きこまれた背景が注目されています。リアルな背景がきっかけになって、モデルとなった町をファンが訪れる、という現象で話題になることもしばしばです。

ぷらちなでは、そんなハイクオリティな背景を描くクリエイターのひとりである、ゆうろさんにお話を伺いました。

アニメ化も好評だったゲーム『ef-the first tale』で新海誠さんが手がけたムービーや、ゲーム『夜明け前より瑠璃色な』の背景など、数々の人気タイトルを支える背景画のプロフェッショナルとして知られるゆうろさんは、どのようにその美麗なイラストを描いているのか? 2回に渡ってその秘密に迫ります。イラストレーター志望者必見!!

■漫画アシスタントからCG作家へ

――まずは簡単にゆうろさんのプロフィールから伺って行きたいと思います。まずイラストを描き始めたのはいつ頃からなんでしょう?

ゆうきまさみ
漫画家。代表作に『究極超人あ~る』『機動警察パトレイバー』など。週刊ヤングサンデー(小学館)で『鉄腕バーディー』を連載中。

はじめは、大学を卒業してから漫画家になろうと思って上京したんです。それで、ゆうきまさみさんのところにアシスタントに行ったんですね。『じゃじゃ馬グルーミン★UP』の連載途中から入って、連載が終わる頃まで、ちょうど四年くらいアシスタントをしていました。

――『じゃじゃ馬~』の舞台はサラブレットの厩舎や競馬場など、非常に現実的で細かい描写の多い背景だったのではないかと思うのですが。

そうですね。そこでまず背景の技術を学んだわけです。

――それまで、絵は完全に独学で?

ええ。基本的にみんな独学です。

――その後はどのような流れで現在のような活動スタイルに至ったのでしょう?

アシスタントをやっている傍らで、コンピュータに興味があったので、CG を描いてホームページ上で発表していたんですね。そうしているうちに、ゲーム会社から原画や背景の仕事が入ってくるようになって、そこからゲームのほうの仕事を進めるようになった、という感じです。最近だと、ゲームでもキャラクターを描く人と背景を描く人がわかれているタイトルが多いと思うんですけど、昔は全部の絵を一人でやってたんですよ。

ef

――やはりゆうろさんと言えば、minori作品での新海誠さんのムービーの背景がひとつ大きな仕事だと思うのですが、新海作品ならではの苦労というのはありますか?

色彩も独特ですし、それを抜きにしてもクオリティーが高いですから、一番気を遣う仕事のひとつではありますね。新海さんは、特に個人のキャラクターというか、「新海さんの作品の美術というのはこういう感じだ」というイメージがファンの皆さんにもかっちりあるので、そのイメージを壊さないようにしたいということを意識していますね。

――最近では、背景のお仕事がありつつ、ご自身で原画もやられつつ……という感じだと思うのですが、そうした仕事のスタイルはどのような形で生まれたのでしょう?

たまたま背景の仕事がいっぱい来るだけです(笑)。

――なるほど(笑)。やはり、すぐれた背景が描ける方の需要というのは、業界的に多いんでしょうか。

そうですね。ぶっちゃけて言ってしまえば、キャラクターを描くひとって本当にいっぱいて、需要と供給で、供給の方が多いんですけど、背景はそんなことはありませんから。

――個人活動での作業環境は最初からデジタルですか?

そうですね。

ef

――アナログの画材で描かれていた時期はないんですか。

アナログはほとんどないです。

――アニメの背景では、デジタル作画全盛の現在でも、いまだに画用紙に絵の具で描いていることが多いので、背景美術で最初からデジタルというのは珍しいですよね。

ゲームの背景は、ここ10年とか20年位に出てきたものなので、新しいものだということも大きいと思うんです。アニメーションの背景をやってらっしゃるみなさんは、ベテランの方が多いですよね。ジブリ作品の男鹿和雄さんであるとか。

――確かに、山本二三さんにしろ、小林七郎さんにしろ、有名なクリエイターは年齢がだいぶ上になりますね。

男鹿和雄(おがかずお)
アニメーション美術監督として、ジブリ作品の多くに参加。トトロの森を描いた人として知られる。1952年生まれ。
山本二三(やまもとにぞう)
アニメーション美術監督。映画『時をかける少女』の生き生きとした背景が話題に。1953年生まれ。
小林七郎(こばやししちろう)
日本アニメ界を代表するベテラン美術監督。男鹿和雄氏など多くの美術スタッフに師事している。『ルパン三世 カリオストロの城』など。1932年生まれ。

僕にしてみれば、絵を描き始めたのが10年ちょっとくらい前の段階で、もう画材としてデジタル環境が存在していたので、そこで最初の段階から「アナログかデジタルか」という選択をすることができたんです。そこで僕はデジタルを選んだ、という。

――昔とくらべて、使っているソフトに変わりはあるのでしょうか?

そんなに変わってないです。今使っているのはPhotoshopとPainterですけど、Photoshop のバージョンが5.5で、Painter のバージョンが6 。この辺は5年位前からあんまり変わってないですね。

――あまり、最新のものへの切り替えは意識しない。

ええ。特にPhotoshopなんかは、アニメ背景の塗りをする場合には、そんなに最新の機能はいらないんですよね。むしろ、バージョンを上げることで動作が重くなっていくことのデメリットのほうが大きいかな、というところがあります。もちろん、使い慣れてるものをわざわざ変えなくてもいいかな、という気持ちもありますね。

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©minori



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