■真実の涙を描くために……。アニメスタジオが翔立つ時―-P.A.WORKS堀川憲司代表インタビュー

真実の涙を描くために……。アニメスタジオが翔立つ時―-P.A.WORKS堀川憲司代表インタビュー

研ぎ澄まされた会話が織り成す心理描写、奥行きのあるレイアウト、緻密な演出と、その意図をたしかに汲んだ丁寧な作画……さまざまな要素が絶妙に組み合わさったアニメ『true tears』は、2008年上半期、コアなアニメファンの間で大きな反響を呼びました。

そして、ある意味で作品以上に話題となったのが、本作の制作会社にあたるP.A.WORKSです。というのも、P.A.WORKSは本作が初の制作元請だったうえ、所在地が富山県という、珍しい形態のアニメスタジオだったからです。 気鋭のスタジオP.A.WORKSが目指しているものとは――代表の堀川憲司さんに、ぷらちな編集部がせまります。

true tears

『true tears』とは……

絵本作家に憧れる造り酒屋の一人息子、眞一郎が高校で出会った不思議な少女、乃絵。一羽の鶏が消えたことをきっかけに、「涙を集めている」という乃絵と眞一郎の心の触れ合いが始まる。2人の出会いは、両親を亡くして眞一郎の家に引き取られた少女、比呂美や、幼馴染の愛子、クラスメイトの三代吉ら、眞一郎をとりまく人々の想いが交差する、切ない人間模様へとつながっていく……。2008年1月より放送された、全13話の青春群像アニメ。バンダイビジュアルよりDVDリリース中。
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■「ニワトリはどうしても必要なんですか?」

――『true tears』全13話、とても楽しませていただきました。高校生の恋愛というテーマは、美少女ゲームやライトノベル原作のアニメが多い昨今では少なくありませんが、ここまでストレートで、かつ独特な雰囲気を持った企画はなかなかないと思います。

堀川社長

それはもう、僕が好き勝手に「こういうものが観たい」とお願いしたことを酌んで、西村純二監督がうまく西村ワールドに料理してくださった結果だと思いますね。

――たとえば、どのようなことをお願いされたのでしょう?

人間を描きたいんだ、という話をまずはしました。ダイアログのリズムに拘りたかったし、日常芝居の描写を丁寧に作画したいという話をしたと思います。

――ファンタジーやバトルといった要素を入れないとなかなか商品にならない傾向があるなか、あえて直球の人間ドラマにしたのは野心的ですよね。

西村監督も含めたライター陣が、書きたいものを書きたいスタイルで書けたのが大きかったと思います。1話のプロットの段階で、「(地味な)ニワトリはどうしても必要なんですか?」と岡田麿里さんに聞いたら、「絶対に必要です」、と答えが返ってきたんですね。その自信に威圧されました(笑)。その後を見れば、ニワトリ無しでは成り立たない物語でしたね。監督も自分がやりたい話を遠慮なく書いています。ご自身は忘れかけている甘酸っぱく小恥ずかしくなるようなシチュエーションも、勇気とサービス精神を奮い立たせて書かれたのだと思います(笑)。制約がある中で、挑戦しようという野心の強いライター陣でした。

雷轟丸

――メロドラマ風と評されることも多いアニメでしたが、少女マンガ的な……それも少し前の作品のようなまっすぐさがある作品だったと思います。

男性の発想からは出てこない女性の内面が描かれているところはありますね。女性のライターさんは、そういう部分をストレートにどんどん描き出すんですね。「男はヒロイン像にドロドロしたものを求めちゃいない。」「男ってそんなに単純なのね」、と言うようなやりとりもありましたね(笑)。

――ヒロインの乃絵や愛ちゃんは男性ファンが望むヒロイン像ですけど、比呂美という、一見、優等生キャラに描かれているヒロインが、内面的には非常に激しい部分があったり、したたかな部分やドロドロとした部分も持っているというのは強烈でした。

比呂美

比呂美は多分ライターさんたちの経験を投影しても動かしやすいキャラだったから、感情の描写が多かったんだと思うんですよね。逆に乃絵は難しかったんじゃないかな。自分の周りになかなかいないキャラクターでしょうから。実際のシナリオ作業でも、中盤までは何度も話数を遡って、岡田さんが乃絵のシーンを書き直していた気がします。

――乃絵も単なる不思議ちゃんではなくて、純粋さというか、突き抜けている感じが逆にすごく危うく見える所があったりする、複雑なキャラだと思います。

ただ「不思議ちゃんが恋をしてデレデレ」ではなくて、ずっと「この子は何を背負っているのだろう」という部分を1話からみせていましたよね。

乃絵

――シナリオを書き出した段階では、最初は誰がメインヒロインであるというところは、はっきりしてなかったんでしょうか?

涙を取り戻す話ですからメインは乃絵と決まっていたんですが、制作途中で描かれたものを読み返すと比呂美のキャラが他の二人よりも立っちゃっている。どのヒロインも愛おしく思えるようにバランスを取る必要はありましたね。話数が進むと、キャラクターは勝手に走り出しますよね。それぞれのライターさんが感情移入する贔屓のキャラクターが出てくるんですよ。それで友人の三代吉が考えていたよりいい奴になったり、どこから監督にとっての心のヒロインは眞一郎のお母さんになったのか(笑)、と思うくらい母の描写が最終話まで丁寧に描かれています。

眞一郎の母

――そうした各シナリオライターの思い入れが、終盤の先の読めない展開に繋がっていたんですね。

そうですね。特徴的だったのは、シリーズ構成として、「1話から13話まででこういうことが起こる」という構成表のようなものは全く作らなかったんです。だから、バンダイビジュアルの永谷敬之プロデューサーは最終着地点が一番不安だったと思いますね。本当に着地できるのか、と(笑)。各話ごとにバトン形式で次のライターに任せていく形で進めていって、途中で何度か立ち止まって、キャラクターのバランスや、物語のテーマの密度を見直して、また遡って書き直すということを途中で何回かやりました。だから、2007年の2月くらいから脚本の作業がスタートして、結局10月中までやっていました。

――3話づつくらいで「ええっ!」と展開に唸っていました(笑)。そうした制作プロセスが、あのドラマの“引き”に繋がっていたんですね。

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©2008 true tears製作委員会




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