真実の涙を描くために……。アニメスタジオが翔立つ時―-P.A.WORKS堀川憲司代表インタビュー

真実の涙を描くために……。アニメスタジオが翔立つ時―-P.A.WORKS堀川憲司代表インタビュー

■「この作画チームがいるなら自分のやりたいことが形にできる」

――今後、スタジオの体制はどのようにされていくのでしょうか。

堀川社長

僕の希望としては、いろんなセクションのスタッフが、ワンフロアーでディスカッションしながら作っていくような環境が理想なんです。他のセクションが別会社でも構わないので、富山の本社に分室みたいなもの作ってくれて、撮影監督や美術監督がそこに来てくれて、色彩設計や仕上セクションもあって……というようなのが、できるといいですね。

会社を立ち上げたときには、まず演出ありきで、そこに周辺スタッフを集めていくものと考えていたんですけれども、どうもそうじゃないということがわかってきました。アニメーションの制作現場は、まず作画の集団がいるということがすごく大事で、「この作画チームがいるなら自分のやりたいことが形にできる」、というところに優秀な演出が来てくれると思ったんです。その次の段階でやっと、演出がそこいることで一気に他セクションが広げられるんですよね。来年には、CGセクションも富山のスタジオに移行しますし、あとは演出が富山にいる環境が整えば、徐々に富山本社を中心にテレビシリーズを制作する現場ができると思います。そのあたりは、ここ数年で仕掛けようかと思っています。

――昨今のデジタル制作では、演出と撮影の関係が密接になっていますが、自社で撮影セクションを設けたりはされないのですか。

比呂美と乃絵

すべて社員で抱えたいとは思わないんですね。撮影会社には撮影のプロの歴史があります。それが良い方向に転がればいいんですが、社内に撮影スタッフがいる場合、そこに甘えが出てしまうと、一番最後のセクションになる撮影に、スケジュールの帳尻を合わせるような負荷をかけてしまうんです。

現状を見ていると、管理する制作として、撮影セクションとの間にはもっと緊張感が必要だと思います。大切なのは、撮影のプロは技術的に何を伸ばせばいいのかを模索していて、アニメーターや美術スタッフがそのカットで何を意図して表現しようとしているのかを知りたがっているんです。そういう情報が欲しいときに、同じフロアでディスカッションできることが理想です。作画も、撮影スタッフの仕事を直に見られるような環境が良いと思うし、お互いにプロとしてちゃんとした力関係で刺激しあえる体制ができるといいと思うんです。「ちょっと質が低い作画を、最後の撮影処理でなんとか見せられるものにしました」というような委ね方でもダメだと思うんですよね。

――美術的な背景も魅力ですが、随所で3DCGを効果的に使われているのも興味深いです。

メインストリートをせっかく3Dで作るんだから、日本家屋の町並みで踊っているところをクレーンアップさせて見たかったんです。実写映画ではよくあるんですが、アニメではあまり出来ないことなので。OPにその映像を入れたのはいろんな意味で効果的でした。あと、乃絵の家、眞一郎の家、愛ちゃんの家、学校の四箇所は、3DCGでレイアウトのガイドラインに使うモデリングを作りました。お芝居の舞台で頻繁にでるところなので、戦術的にレイアウト制作期間を縮めようと。

堀川社長

――セットを作ってレイアウトをとることで、キャラクターの芝居に専念できるようにということでしょうか?

そこはいろいろな戦略があります。アニメーターを育成するにあたって、まずはやはりキャラクターを動かすことから勉強させたいんです。今のアニメーションでは、空間や画角など、レイアウトに求められるものが高度になっている。演出が求めるレイアウトを描ける人が少ないんです。そうすると、アニメーターが描いたレイアウトを演出と作画監督で描き直して、原画作業に入れるようにしてアニメーターに戻すことになるんですが、描き直しは物理的に時間がかかることなので、結局アニメーターがキャラクターを動かす時間が確保できない上に、背景原図をまとめるのに時間がかかって美術のスケジュールも圧迫する。

比呂美と乃絵

『true tears』はすごく美術のクオリティが高かったと思うんですけども、あのクオリティを上げるには、それだけのスケジュールを確保しなければならないんです。3Dである程度のガイドラインを敷いてレイアウトの作成時間を短縮することで、演出と作画監督の負荷を下げつつ、きっちりとしたものをスケジュールに余裕を持って美術に提供できると思います。

それから、監督をやられる方は現場の対応力を見ながら作業が破綻しないようにカット内容を変えていくんですね。奥行きのある、難しいアングルのレイアウトが描けそうになければ、バストショットが多い、フラットな画面構成にすると思います。でもそれは、空間的にも厚みがでないし、お客さんが見ても視覚的に刺激がなく、すぐ飽きちゃうと思うんですよね。良いレイアウトで構成されたフィルムは、見る人にボディーブローのように効いてきます。そういう意味でも、レイアウト作業に3DCGのガイドを取り入れることは積極的にやっていきたいと思っています。逆に、逃げのないレイアウトは背景には負荷をかけますが、そこに挑戦できるスケジュールは確保することが前提になると思います。

祭りの風景

――『true tears』では、決して派手な作画ではないですが、何気ない仕草であったり、お祭りの裏方の雰囲気であったりとか、そういった絵が非常に魅力的でした。

日常芝居は、よほど上手くなければ一般の視聴者が画面で見ても見栄えするものじゃないので、地味な、ただ奥から手前に歩いているだけの描写などは、アニメーションではコストパフォーマンス的にも避けがちなんですけど、今回は、歩くだけでもこんなに色んなアングルで歩かせるTVシリーズはないと思うくらい歩かせていると思います。階段を駆け降りる生徒を俯瞰で捉えるとか、縦パースのつく歩きは難しいと思うんですけれど、監督の絵コンテはそういうところを全く避けていない。そういった地味で大変な情景描写積を積み上げることが、True Tearsの世界観づくりに貢献していると思います。

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©2008 true tears製作委員会




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