真実の涙を描くために……。アニメスタジオが翔立つ時―-P.A.WORKS堀川憲司代表インタビュー

真実の涙を描くために……。アニメスタジオが翔立つ時―-P.A.WORKS堀川憲司代表インタビュー

■「現場って、楽しめるものですから」

――富山が舞台になったことも話題になりましたが、やはり地元ということでロケハンでつかんだ空気がよく出ていたのではないかと思います。

出てくる場所は、実際には富山の色々な場所をミックスしてアレンジしています。作中の祭りも、二つのお祭りをあわせているので架空のものではあるのですが、実際に「曳山祭り」の山車の引き手として、お酒につられた本社の若い作画スタッフが参加したりしているんですよ(笑)。監督も、一回祭りを見に来られたことがあります。

祭りの山車

――そもそも、富山にアニメスタジオを作ろうと思われたのはなぜでしょう?

カミさんの実家がある地元だからです(笑)。その近くでアニメ会社を探していて、富山県にひとつあったんですが、通うには遠かったし、「制作スタジオとしてやりたい」という希望に沿うものではないと思ったので、自分で立ち上げることにしました。

――富山でスタッフを集めるのは大変だったのではないでしょうか。

大変でした。最初、演出の一人と僕の二人で立ち上げて、二年目から求人をかけたんですけど全然応募がなかったですね。田舎にポツンとある二人だけの会社なので、当然といえば当然だと思うのですが(笑)。まとまった数の応募が来るようになったのは『鋼の錬金術師』と『攻殻機動隊S.A.C』に参加してからですね。メジャータイトルをやる影響は大きいと痛感しました。

参加作品のポスターが並ぶ

――求人にあたって特別なことはされたのでしょうか?

普通にアニメーションの専門学校に求人を出したり、会社説明会に行っても全然来なかったので、方針を変えて全国で100校くらいの美術系の科のある大学や専門学校に求人を出しました。そうしたら、多少アニメを観てはいたけれど、アニメーションの知識はほとんどないようなタイプの、とにかく絵を描くのが好きで、絵を描くことを職業にしたいと思っている学生が大勢応募してきたんです。ちょうど女性が非常に就職難だったころで、美術系の科を出ても就職は厳しかったというのもあったんでしょうね。

――バリバリにアニメーターを志向していた人たちではないということは、作画スタジオとして育成が大変ではありませんでしたか?

もともと持っているデッサン力はあるので、原画になるにはいいかな、と思いましたね。そうした状態が何年か続いたあとに、メジャー作品をやるようになってから、「『××』のこのシーンの原画は○○さんの担当で……」というような、いわゆる作画オタク(笑)の男性スタッフたちが入ってきたんですね。そういう情報って、すぐスタジオの中で共有されるんですよ。それにみんな刺激されたと思いますから、情報交換が頻繁にできる環境って大事だと思いますね。

東京スタジオの一角にはttの資料が

――『true tears』以降の状況はいかがですか?

今年の一時募集は男性が多かったですね。それでも応募の男女比率は半々といったところですが。今、スタジオ全体の男女の比率は3/4が女性なので、目標としては全体の男女比を半々にしたいと思っています。メカやアクションを描きたい男性なんかがもっと入ってきて、会社で請ける作品の幅が広がるようにしたいんです。

――スタッフの規模はどの程度まで増やされるのでしょうか。

まず目標にしているのはアニメーター50人です。2005年に、「2010年までにアニメーター50人の体制をつくる」と目標をたてたので、それに向けて採用しています。そのころ50人のアニメーターのうち原画マンが20人から30人だと思うんですけど、それだけの作画戦力がいれば、安定したラインを作ることができると思うんです。目標は年間で2クールのテレビシリーズ作品を2本、全50話くらい作れるようになりたい。それを、さきほど話題に出た、演出や他セクションを含めて75人から100人のユニットで作っていけたらいいな、なんて夢を持っています。

――最近では、動画から原画へのステップアップまでの期間が短くなっている傾向がありますが、P.A.WORKSの作画スタッフ育成のシステムはどのような形になっていますか?

祭りの眞一郎

原画になるために達成する動画枚数の条件、その上で出される原画課題に加えて、原画試験をパスする必要があります。年々条件が厳しくなっているので、原画になるスタッフの実力はあがっていると思いますけどね。それと、原画の技術だけじゃなく姿勢の教育が大切だと思います。まずは、演出や作画監督に喜ばれる仕事をすること、その評価の先にチャンスがやってくる。たとえば、祭りのシーンでは山車を大勢で引いて、さらに行列で踊っている。テレビシリーズだと、そういった内容のコンテが上がってきても、アニメーターに敬遠されてまず受けてもらえない。でも、ウチのスタッフなら、どんなシーンでもちゃんと誠実に応えてくれる。それを非常に頼もしく思います。

――スタッフそれぞれのレベルアップが「P.A.WORKSなら描ける」という体制を支えているんですね。

そうですね。でも、最初に入った人間がやはり一番大変だったと思うんですよ。目標にできる先輩がいないし、同じ悩みを語れる人間もほとんどいなかったわけですから。今は目標をクリアした先輩がいっぱいいて、みんな同じ悩みを乗り越えているから、相談できるひとや、見習えばいいスタッフがいっぱいいる。「こうやればできるんだ」というひとたちが周りにいるという環境は大事ですね。これが今後先輩から後輩へと、同じ会社の中で社風みたいな形で繋がっていけばいい。「この会社はこういうことが伝達されていくんだ」ということが社風になれば、僕はなにもすることはないかなと。

堀川社長

――なるほど。そうして体制が整っていく中、今後のP.A.WORKSとしてはどういった作品を作っていきたいですか?

「こういうジャンルの作品ならPAだ」というような定番のものを作るつもりはないんです。まだ、そこまで会社が成熟していると思っていないので。今はアニメーターを育てる意味でも、毎回テーマと戦略を決めて、「今回はこういうものに挑戦したい」ということが考えられる作品を選びながら、なんとか年間2作品ぐらいが綺麗にまわせるようにしていきたいと思っています。

――自社制作の次回作のお話もすでに? 西村監督とのタッグは継続されるのでしょうか。

おかげさまで、いろいろと作品のお話はいただいています。西村監督は他のスタジオの重鎮なので、僕の中には漠然とした作品イメージはあるのですが、タイミングが合って許可がもらえれば(笑)。

――しばらくは、DVDリリースも続いている『true tears』を楽しんでくださいということですね(笑)。最後に『true tears』をこれから観るみなさんと、アニメーション業界を目指す方に向けてひとことおねがいします。

『true tears』は、観始めたら途中でやめられなくなると思います。是非最後まで見てください。アニメ業界を目指す方には……うーん、そうですね。制作でもアニメーターでも環境は非常に大事だということと、与えられた作品のなかで、自分なりにテーマや課題を見つけて楽しむことを忘れないでください。その探究心をもっていれば、現場って楽しめるものですから。

――ありがとうございました!

(2008年5月29日 P.A.WORKS東京スタジオにて収録)

インタビュー:平岩真輔
構成:前田久

true tears vol.1

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