魅惑のアニメ、そのレシピ――ノイタミナ『西洋骨董洋菓子店~アンティーク~』奥村よしあき監督インタビュー

魅惑のアニメ、そのレシピ――ノイタミナ『西洋骨董洋菓子店~アンティーク~』奥村よしあき監督インタビュー

エリート営業マンから突如思い立って洋菓子店のオーナーになった橘圭一郎、”魔性のゲイ”として数々の伝説を持つ天才パティシエ小野裕介、甘党の元ボクシング世界チャンピオン神田エイジ……ちょっと理由ありのイケメンたちが営む一風変わった洋菓子店「アンティーク」を舞台に巻き起こる、よしながふみ作のオトナの群像劇コミック『西洋骨董洋菓子店』。滝沢秀明さん、椎名桔平さん、藤木直人さんらの主演によるドラマ版も好評だったその作品がアニメ化され、「ノイタミナ」枠ほかで好評放送中です。

原作の雰囲気を活かした作画、絶妙なキャスティング、そして魅惑のスイーツ描写……その核心を奥村よしあき監督に語っていただきました。紳士淑女のみなさま、どうぞ、召し上がれ――。

■原作・ドラマ・そしてアニメへ

――最初に『西洋骨董洋菓子店』という作品に携わられることになった経緯から伺ってもよろしいでしょうか。

奥村よしあき監督

実は自分はずっと海外の方で仕事をしていたもので、原作の人気も、以前放送されていたドラマのことも知らなかったんですね。そんな状態のときにこの企画が立ち上がって、会社に原作が置いてあったんです。それを読んで、「やってみたい」というか「俺がやるんじゃないか」という予感を感じまして(笑)。そのオーラが伝わったのか、そのあと正式に監督の依頼をいただいたという流れです。

――原作のどのようなところに魅力を感じましたか?

読むうちにどんどん話に引き込まれていくところですね。すごくおもしろいし、(アニメシリーズとしての)ストーリーの組み立てもしやすいだろう、と。

――全体を通しての構成がとても巧みな原作ですよね。

そうなんですよね。原作では橘と小野の高校時代のエピソードから始めていく。そこをあえて、アニメでは1話から最終話まで一本の時間軸で進むストーリーに組みなおした、シリーズ構成の高橋ナツコさんもすごいと思いますよ。

――アニメ版はどのように物語が展開して行くのでしょう?

春から始まって翌年の春までの物語という形で進んで行きます。そのために一部の話数では原作と季節を変えているのですが、そうして季節感を打ち出したことで、話の流れに厚みが出来たように思っています。全体のストーリーを辿って行っても面白いですし、何話から観はじめても面白く観られる作品になっていると思いますね。

――アニメシリーズとして時間の流れの中で物語を掴みやすくなっている。

そうですね。原作を読んでいたひと、アニメで初めて『西洋骨董洋菓子店』という作品に触れるひと、ドラマを観ていたひとと色々な視聴者さんがいる中では、なるべくわかりやすいように作った方が良いだろうと考えました。服装や、今回のあるメインの要素のひとつである「ケーキ」からみえる季節感は、原作と異なったアニメならではの持ち味だと思いますので、注目していただけるとうれしいですね。

――常連のお客さんたちの複雑な人間模様が非常に魅力的な作品でもありますが、そこの取捨選択も難しかったのでは。

そこは、確かに大変でしたが、常連客として扱うけれども物語に絡む出番は一回しかないとか、アナウンサーのキャラクターは、登場したあとテレビのニュース番組に登場させるとか、そういう形で削ったキャラクターも何回か作中に登場するようにはしています。

アニメでは小野・エイジ・橘の三人の主人公のうち、橘をメインに描いていきますから、どうしても誘拐事件に関するエピソードを厚めに描かなきゃ行けないんですね。そこは重いエピソードなので、シリーズ後半に3 話くらいぶち抜きで使うんです。そのための調整でもありました。三人の主人公の誰をとってもメインで作れる作品で、その意味でも難しい原作ですよね。ドラマではエイジが中心でしたし、一話では小野が目立っていますし。

――小野の「魔性のゲイ」というキャラクターを強く観せた一話でしたね。その要素を薄めて作られていた、ドラマ版からの視聴者さんは驚かれたのではないかと思います。

やはりドラマも人気があったので、驚かれている声を聞きますね(笑)。でも、きっと観て行くうちに楽しんでいただけると思いますし、原作ファンからの「あぁ、原作通りの『西洋骨董洋菓子店』がテレビで流れるんだ!」という声も聞きますので、そこはよかったのかな、と。

――メインの男性キャストはまさにはまり役という感じですが、どのような形で選ばれたのでしょう?

沢山の方に来ていただいてオーディションをやりました。一番最初に決まったのは、エイジ役の宮野真守くんでしたね。シナリオの中から抜粋した台詞を読んでもらったんですけど、宮野くん以外ないな、という感じでした。そこから取り合わせを考えながらオーディションをしていったら、三木眞一郎さんの小野が自然と宮野くんのエイジに絡んできた。三木さんは、話すときの物腰の柔らかさとか、ご本人も本当に小野そのものですね。で、実は一番困ったのが、メインの橘なんです。本来ならメインなので一番最初に決めなければいけなかったんですけど。

橘

――それはなぜでしょう?

ドラマ版で橘を演じた椎名桔平さんが原作のキャラクターのイメージにすごく近くて、原作者のよしなが先生も、演じてらっしゃるのを観て「これだな」と思ってらしたそうなんです。それで、やっぱりみなさんも研究されてこられるので、いろんな方がオーディションで椎名さん的な要素を出してきたんですよね。それでなかなか絞りきれなくて、藤原さんに決まったのは最後の最後でしたね。

――決め手はどこに?

演技の幅ですね。渋いシーンとコミカルなシーンを使い分けるとき、一番自然に入ってきたの藤原さんの声だったんです。お会いしてみたら、ご本人も飄々とした方で、その意味でもはまっているように感じましたね。

1/3
次ページへ



  最近の記事

ぷらちなトップページに戻る ぷらちなへお問い合わせ