魅惑のアニメ、そのレシピ――ノイタミナ『西洋骨董洋菓子店~アンティーク~』奥村よしあき監督インタビュー

魅惑のアニメ、そのレシピ――ノイタミナ『西洋骨董洋菓子店~アンティーク~』奥村よしあき監督インタビュー

■よしなが絵を動かすということ

――絵の面では、色彩が非常によしなが先生の色合いを意識されたものになっていますね。

水彩で描かれたような、透明感のある絵を描いてらっしゃって、色遣いもすごく綺麗なんですよね。そこを何とか活かせないかと試行錯誤しましたが、背景がCG なので大変でした。全部手描きでしたら調整もできるんですけど、CG 相手では難しくて。最終的には輪郭線を色トレースすることにしたんですが、その色も複数試しました。輪郭を色トレスで肌色にするとボーッとした印象になってしまうし、普通に黒でやると今度は眼がつぶれてキャラが変わってしまう。それでグレーにしたんですが、そこでまた印象がボケるのとつぶれるのとでバランスをとるのが難しくて。色には本当にこだわって、髪の毛の影もハイライトも肌もすべてブラシ処理してるんですよ。

小野

――色でいえば、影の色も一段ではないですよね。

二段ですね。二段入れたことによってキャラとして(背景から)初めて浮いたんです。やっと初めて、最初一段でやってたときだめで、そのときは塗りがブラシだからじゃないかと考えたんです。それで塗りをそのままにしたら、今度は影が浮いちゃう。それで二段で入れることになって、作画の手間は増えているんですが、雰囲気は出たかな、と思いますね。シーンごとにCGのレンズに合わせて色を決めているので、色指定の方がすごく頑張ってくれていますね。

――よしなが先生のテイストを出すために、かなり細かく気を遣われている。

そうですね。一番苦労したのはキャラクターデザインです。キャラデザさんも何人かオーディション形式で候補を募って、よしなが先生に選んでいただいたんですが、実際にデザインを描いてみたらリテイクが重なりまして(笑)。映像として動きだしたところでようやく先生にも認めていただけたのかな……と僕は解釈しています。

――背景は白組が3DCGで本格的にテレビシリーズに取り組む形ですが、通常の背景スタジオさんと組まれるときと行程や作業内容は変わりますか?

奥村よしあき監督

変わりますね。普通は、アニメはレイアウトあがってから美術の打ち合わせをやるんですが、まずコンテがあがった時点で打ち合わせを組むんですよ。コンテあがった時点で、演出さんと自分(監督)と、白組のCG監督とで打ち合わせをする。そこでテイストの確認をしていく。背景美術の向こう側にキャラがいたり足が見えたりするレイアウトは、最初に手前のレイヤーを作ってもらって、それに絵を合わせていかないと作りきれないんです。そのためには、レイアウトの前段階でやっていかければならない。逆に向こうから来たレイアウトに絵を合わせていくのが正解なんですよね。

というのも、CG はカメラのレンズがあるので、普通のノーマルレンズで作ってもらうと、アニメの独特のパース――絵だからこそ描ける嘘のパースにあわないんです。CG は嘘がつけないので、パースつけちゃうと手前の物が巨大になって、奥の物が小さくなって、その間のキャラが小人になっちゃうんですよ(笑)。それで白組の社長さんと相談したら「望遠レンズでやろう」という話になった。望遠レンズはパースが圧縮されるので、あまり極端なパースは出ないんじゃないか、と。それでちょっとは成功したんですが……今度は被写体の裏に、うしろにあるものも望遠になってしまうことで、逆に距離感がなくなってしまって。今はもう、こちらもレイアウトを描くし、向こうからもレイアウトの直しが来るので、そこでイメージをカットごとに調整しています。

――一般的にはCGスタジオが背景をやるということなら、基本的な舞台はセットを組むようにデータが作ってあって、それを写真で撮るように作っていきますよね。

エイジ

そう、こっちもそういうつもりでいたんですが、空間的なゆがみが出て来ちゃったもんだから、もうちょっとアニメよりに来て下さいという話になっていますね。リアルさを出したがために、それが足かせになってしまった。今はむこうもアニメのことがよくわかってきているんで、良い方向に向かっていると思いますけどね。奥のレイヤーは普通のレンズ、手前は望遠とかそう言うことをやってます。お互い勉強しながら作っていってるって感じですね。しょっちゅうお互いに行ったり来たりしてましたから(笑)。白組もすごくアニメの勉強したし、僕たちもCGの勉強した、この次こういう仕事が来ても怖くないぞ! みたいな気持ちですね、今は。

――実際にやってみるまで見えなかったことがノウハウとして蓄積されるまでが大変だったんですね。

でも一番大変なのは撮影さんですよ。最初、明るい場面はCGの方で色を飛ばしてたんですけど、撮影さんから、「飛ばされた物は後から直すことができない」という声があって、今は撮影で全部飛ばすようになっているんです。だから現場はすごいことになってますよ。

産みの辛さというか。今日も実は、朝の5時までキャラ直ししてましたしね。総作監にも限界があるじゃないですか。一人でやるの。結局僕も作画上がりなので、最後は全部引き上げて描いてたりして(笑)。最近のアニメって、どの作品でも1話に全勢力をかけてビシっと作って、だんだん疲れていっちゃうことが多いですよね。この作品では、ただのBL作品のキレイめの絵柄ではない、よしなが先生の絵の魅力を、描いている内に原画さんが掴んできたところがあるんです。なので、是非オンエアを続けて観て欲しいですね。

2/3
次ページへ



  最近の記事

ぷらちなトップページに戻る ぷらちなへお問い合わせ