映像に空気感を――デジタル時代の「撮影監督」とは何か?

映像に空気感を――デジタル時代の「撮影監督」とは何か?『かんなぎ』撮影監督・廣岡岳さんインタビュー

■「撮影」が持つ選択肢

――アナログの時代に比べて、今は撮影で表現できることが非常に複雑になっていますよね。透過光ひとつをとっても、撮影さんのテクニック次第でものすごく変わってしまう。

そうですね。最初にデジタル技術をアニメ制作に取り入れたスタジオが主軸を作っていて、そこから系列が作られているので、その系列に沿っておおまかに特色があるとはいえ、まったく同じ透過光を出す撮影会社というのはないと思いますね。どこも日々技術を研究していて、そこから独自色も生まれていきますし。

「地球へ…」より

――最近の作品では欠かせない、3DCGとセル的な2D表現を違和感なく合成することも、撮影の仕事ですよね。その辺りの技術はいかがでしょう。

やはりそこはむずかしいところですね。『地球へ…』の場合だと、CG打ちやチェックにも関わらせていただきましたが、やはり根本的な質感が違うんです。そこはまだ自分としては試行錯誤しているところですし、みなさん苦労されているな……と感じることが多いですね。質感の違いが目立たない小さなモブをCGで描くような使い方は上手いと思います。あとはメカですね。

――メカは最近かなり増えてきましたね。

いまだと『マクロスF』は頑張っていますよね。もともとサテライトさんは撮影会社なので、毎回撮影の部分では挑戦があると感じています。ただ、やはりCGを使っている作品全体としては、まだ手描き作画の面白さに並ぶ域までは達していないと感じます。セルとCGの質感をあわせる技術はかなり進んでいて、パッと見、セルなのか美術なのかCGなのかわからないものもありますよね。あとはアニメ的なスケール、カッコよさを出せるかどうかでしょう。

――デジタル撮影作業の基本ツールはAfterEffectとPhotoshopですか?

AfterEffect7とPhotoshopですね。作業環境も普通のPCとほぼ一緒で、特殊な点といえばデュアルモニタなところくらいです。ただ、AfterEffectはメモリ使用量が大きいので、最近のHD画質の作品を手がけると2GBメモリを積んでいてもちょっと辛いんですよね。

――これまでのお話だと演出やCG監督などにかなり近い立場でお仕事をされているようですが、改めて「撮影監督」というポジションは具体的にはどのような役回りになるのでしょうか? 

ひとことでいうなら「映像に空気感を与える」役ですね。そもそもアニメの素材というものはどうしても2Dじゃないですか。それに対して、空間のイメージを与える……「このシーンはどういう空間で、どういう光があるのか」を決めてやるのが撮影監督の仕事だと思いますね。光の射し方であったり、それに対する影の落ち方であったりとか。もちろん色味は色彩設計さんによるところも大きいのですけれど、全体を組み合わせた後に調整を加えるのが撮影監督の仕事ですね。

「地球へ…」より

――廣岡さんは色々な形でアニメの現場に関わられた後に、撮影のお仕事をされていますが、たとえば、若い人が初めから「撮影」というセクションを目指してアニメ業界に入ることは可能でしょうか?

ただ撮影になることは可能ですが、問題は最終的にどこへ向かうかですね。撮影という仕事が、ただ出来上がった素材を組み合わせるだけの業種ではなくなってきたので、そのままでは「撮影監督」になっていくのは難しいと思います。ときには監督をはじめメインスタッフの方々が横について、その指示や要求に応えられるように画面を調整する作業をやることもありますから。

――デジタルではフィルムという物理的な制限がない分、V編(ビデオ編集)の直前まで、時間が許す限りリテイク作業が可能ですしね。

直前じゃなくて、V編が「終わるまで」です(笑)。ビデオ編集所から電話がかかってきて「ここをこう直してくれる?」と指示が。今はFTPでアップすれば良いので、移動距離もほぼゼロですから。

「地球へ…」より

――最近では監督や演出さんでも撮影に興味を持たれる方も多いように感じます。AfterEffectを駆使して短い映像なら自分で作ってしまう人もいらっしゃるとか。

まだそこまでやられる方の数は少ないですが、デジタル技術がアニメ制作に普及したことで、撮影に求めるべきものなのか、仕上げに求めるべきものなのか、作画まで戻って直した方がいいものなのかといった分業の境界線がすごく曖昧になっていて、どこで線引きするのかわからなくなっているようには感じますね。

――昔はそれこそ、紙からセル、フィルムと段階が変われば扱うモノ自体が変わってしまうので分業ははっきりしていたわけですよね。現在のデジタル化されたアニメ制作の現場で、撮影にとって大変なこと、難しいことというのはどんなところでしょう?

やはり時間ですね。スケジュールが遅れてくると、撮影で出来ることが多いのに対して、どうしても諦めないといけない状況が生まれてしまう。自分としてはやはり撮影もクリエイティブな仕事だと思っているので、出来る限り作品の質を上げたいと思っているのに、仕事ですからそこを曲げないといけない場合もあるのが一番辛いです。

――逆に撮影の面白いところとはどんなところでしょう?

そうですね……やはり実際に放映される映像を作っているのが自分たちだというところです。さっきもお話したように、各行程の皆さんから揃ってきた素材を集めて、空気感であるとか、作品の雰囲気を作っているのは自分たちだと自負しているので。画面を作りこんで、本当に最終段階の映像を作れる点はやはり楽しいと思いますね。

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