「アニメ」で生きていくということ・谷口悟朗監督×ヤマサキオサム監督ロング対談第三回

■「人を育てる」「人が育つ」とは何か

谷口 ヤマサキさんにとって、湯山さんの影響は大きいんですね。

ヤマサキ ヒット作をバンバン出し始めてるころの、30代から40代の監督……それこそ、今の谷口くんがまさにそうだけど、そういう人に、20代のやる気があって本気で食いついてくる元気な若手が影響を受けると、「ああ、こういうことを考えなきゃいけないんだ」と分かった瞬間に、化けることがあるんだよね。

監督って、エネルギーがある人と、だんだん落ち着いてきてエネルギーの出し方をセーブしている人がいるじゃない?

谷口 そうですね。

カナメプロダクション
80年代のOVAにおける魅力的な作画で注目されたアニメスタジオ。会社は消滅したが多くの出身者が現在もアニメ界で活躍している。
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石田敦子
『勇者特急マイトガイン』『魔法騎士レイアース』のキャラクターデザインで注目された後、マンガ家として活躍。

いのまたむつみ
イラストレーター。多くのアニメ作品のほか、テイルズオブシリーズのキャラクターデザインを手がけ幅広い層に支持されている。

金田伊功
ダイナミックな作画で多くのアニメーターに影響を与えたカリスマ。ジブリの作画頭とも呼ばれ、往年はスクウェアエニックスでゲーム映像の制作にあたった。09年永眠。

ヤマサキ 年食ってセーブ側に行っちゃった監督の下だと、若手のエネルギーって空回りするんだよね。

だからガツンと「分かってないよ!キミは」と言って、そのエネルギーに対抗してくれるくらい活力と才能のある監督と、やる気のある若い人材が化学反応を起こすと面白いと思うんだよね。

そういう環境が、僕が新人だったころに在籍していたカナメプロ(ダクション)にはあった気がする。さっき名前をだした佐野くんもそうだし、今はマンガ家の石田敦子さん、他にも西井(正典)くん、渡辺真由美さん、中野深雪(中村深雪) さん、山内英子(Cindy H. Yamauchi) さんあたりはみんな今、作画監督やっているけど、当時動画や原画をやり始めたばっかりでさ。

そこに湯山監督やいのまたむつみさん、越智一裕くんなんかのベテランと中堅がいて、金田伊功さんなんかが時々顔を出されて、いろんな意味で刺激を与えてくださってたから……(笑)。

その影響を受けながら新人は仕事を覚えていたんだよ。掛須さんにも編集室に行くたびに「ヤマサキよ~ォ」っていっぱいゴリゴリ可愛がってもらったし……。

あの環境は、カオスな感じでゴッタゴタだったけど、ものすごく刺激的だった。結局、カナメプロは潰れてしまったけど、あの当時のカナメプロが僕ら新人スタッフに与えた影響はとても魅力的なものだったと今になってみると思うよ。

谷口 その感覚は、漠然とではありますが分かります。

私も演出始めたばかりのときに、同じ演出ルームというか、演出チームにいたのが『カウボーイビバップ』のナベシン(渡辺信一郎)さんであったりとか『鉄のラインバレル』の監督の日高政光さんであったり、『Fate/stay night』の監督の山口祐司さんだったりとか、最近だと佐藤順一さんのところでやっておられる河本昇悟さんとか。

そういう人たちがみんなバラバラのやり方でやってましたから。そういうライバル意識は確かに大事なんだろうと思いますよ。

実際、教えてらっしゃる学生さんではどうです? 学生内ですでに対抗意識が生まれたりしていますか?

ヤマサキ 世代によって違うね。年度によって、ものすごくライバル視しあう学生がいる年と、熱量の低い年度があって、熱量の高い学生が多い年は結果的に全員熱くなる。

谷口 ほう。

ヤマサキ 影響されあうのももちろんあると思うけど、熱量の高い学生を基準にして、自分が目指すべき立ち位置がはっきりしていくところがあるみたい。

こういう角度からものを見なきゃいけないとか、気にしなきゃいけないポイントが分かり始めて、ようやく自分ならではのものの見方が分かってくる、そんなところが10~20代の前半にはある。

谷口 自分の好きなことに対する、自分なりの評価基準がそこで生まれるわけですね。なるほど。

学校に入るくらいだから、まず何らかの物差しはもっているものと思ったのですが、そこからはじめなければならないとは大変ですね。問題発見能力から身につけてもらわないといけない。それさえ出来れば生き残れると思うんですけどね。

ヤマサキ 本当はその部分が社会に出たときの基礎になるんだよね。

でも、意外と分析って難しいんだよ。谷口くんは結構「ヘラッ」とやってのけるから、そんなに大変なことじゃないような気がしているんだろうけど(笑)。じつは、それが出来る人間って、社会全体を見渡すとそれほど多くない。

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谷口 分析シートの作り方であるとか、自分の意見・考えるところをどういう形で補えばいいのか、ということはスタジオで実地で教えるようにはしているんですけどね。

これまで私の下で育っていったスタッフの中から監督になったのが、『バンブーブレード』の斎藤久と、『明日のよいち!』の久城りおん、あとは監督ではないですが『OVERMANキングゲイナー』で活躍した五十嵐達也くらいなので、監督経験10年目にしてはちょっと少ないんですよね。

こうしたスタッフが、あと2~3人は増えてくれるといいなと思っています。

ヤマサキ お互い、年齢的にも育てる時期が来ているんだろうね。やっぱり下が育ってくるとずいぶん楽になるし。やはり物事の考え方が分かりあえる人間が側にいてくれると非常にいい。ライバル心も持てるし、自分ひとりじゃなかなかやれないことを補ってもらえるしね。結局、アニメ制作は集団作業だから……。

――若手の成長に期待したいですね。というところで、本日は長時間ありがとうございました!

(2009年5月27日、アミューズメントメディア総合学院にて収録)

司会:野口周三(AMG学院長)
構成:前田久 平岩真輔

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