猫と少女インタビュー

――イラストレーターだけでなく、デザイナーとして『オタクとデザイン』の染谷さんが参加していることも興味深いポイントですね。

 染谷さんとは、雑誌『アイデア』335号 「漫画・アニメ・ライトノベル文化のデザイン」特集の座談会でお話した時に、すごく同人誌やオタク的なもののデザインに愛がある人で、いい仕事もされていると思ったので、ぜひ本のデザインを頼みたかったんです。普通なら絵のデータを渡して終わりなんですけれど、せっかくだからイラストレーターも含めて3者で打合せして作りましょうと、まずは竹さんと染谷さんがお互いを知るところからスタートしました。

 『猫と少女』という本のコンセプトとは何だろうということを3人で話したんですけれど、普通の商業誌と違って店頭で目立つことを考えなくてもいい本ですよねということを確認しました。

猫と少女インタビュー

それまでは、キャッチーな本でないといけないと硬く考えていたんですよ。でも加野瀬さんから同人誌でしかできないことをやろうと言われて、そうだ、女の子が大きくなくても、タイトルが大きくなくてもいいじゃないかと思ったんですね。一番大事なのは何かと考えたところで、感覚的なキーワードとして出たのが、神田川沿いの穏やかな場所にあるルビコンハーツのショップのイメージに似合う本、というのがわかりやすいコンセプトになるなと。3人がそれだ!と思えるビジョンをひたすら探っていた気がします。

 心に残っているのは、染谷さんが「ルビコンハーツのショップで10代の子がこの本に出会ったら人生が変わってしまうようなものにしたい」と言っていて、かっこいい!って。

 竹さんと会う前に、加野瀬さんと『猫と少女』のペーパーの打合せをした時に、雑誌「ニュータイプ」を初めて見た時に衝撃を受けたという話をされて、ルビコンハーツでは中学生がショップまで同人誌を買いに来たときに「なんじゃこりゃ!」と思うものを作りたいですよね、と。

 「ニュータイプ」のデザインをしているデザインクレストの朝倉哲也さんにインタビューをした時に、10代というのは子供扱いせずにちゃんと作ったものに反応してくれる、そういう素直な気持ちに応えたいと言われていて、やはりそういう気持ちがあったから、色々なところに届くのかと思ったんです。

昔なら、大阪のゼネラルプロダクツ(GAINAXの前身にあたるホビーショップ。1992年までワンフェスを主催した。)に行って、変なものがいっぱいで面白い!と感じた、そういう気持ちをルビコンハーツのショップでもしてほしいというのが大元なんです。

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今は、同人誌もマウスをクリックするだけで手に入るけど、大切なのは体験だろうと。イベントでサークルに並んで手渡してもらうとか、そこにどんな人がいたとか全部含めて体験なわけで、宅配便の人が持ってくるのとは全然違うものだという思いがあったので。 だから、体験の場所を作りたかった。その場所に乗せる物は、「尖っている」ほうがいい。だから同人誌であっても、これはプロの仕事だと感じるパッケージングにしたかったんですね。

 デザインコンセプトを考えた時に、ルビコンハーツの本だから、ルビコンハーツのやりたいこと、伝えたいことにのっとった世界観の本であるべきだろうと思ったんですね。それを一番提示できているのは、ショップの在り様だろうと。加野瀬さんのいうサークルのコンセプトを分かりやすく体現しているのが、あのロケーションやショップの内装だったりするんですよね。

だから、ショップに飾った時に違和感のないものであれば、それはルビコンハーツの本のデザインとして正解だろうと思ったんです。その点で竹さんと共感できたのも、打合せしてよかったですね。

――A3という大きな判型や、ショップの存在そのものがコンセプトと一体化しているんですね。

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 書店で売る本だと、どうしても分かりやすいデザインを求められるので、ある種のフォーマットが決まっているんですよね。自分がイメージしているのは映画のパンフレットなんです。基本的に映画館で売られるものなので、棚で目立つ必要がない。だから作品の世界観を表現することに注力できて、その映画を見に行って楽しかった経験を思い出せるアイテムとしてデザインされていると思うんですよ。だから映画のパンフレットはコレクションの対象にもなるじゃないですか。そういう商業誌にない面白さがあるのがいいんですよ。

 商業誌と同人誌で言えば、5万人を相手にするのと5千人を相手にすることの違いもあるんですよ。商業誌のデザインもやっているんですが、そういう大勢を相手にするものは間口が広くないといけない。同人誌を求めてコミティアまでくる様な人は、ある程度、マンガ絵や同人誌的なモノを見ることに対して経験値が高いと思うので、『猫と少女』は一見分かりやすいデザインの本ではないんだけど、よく見るとキラリと光っている、そういう職人的な本作りがいいだろうというところで考えているんですよね。

 同人誌は商業誌と違って、1000人に届けばいい。5万部売って5年後に忘れられている本よりも、1000人に売って10年後も覚えられている本の方が嬉しいなというのがあって。それが10代の人生を狂わせたいということだと思うんですよ。もちろん数が出るほうがいいんですけれど、そのために丸くなってしまうくらいなら、記憶に残るほうを選ぶということですね。

――普段は色々な制約のなかで工夫してデザインをされていると思いますが、『猫と少女』ではリミッターをはずした状態で作業できた?

 普段は編集者や作家がやりたいイメージを汲んでデザインする立場なので、最初に加野瀬さんに「どんな本を作りたいですか」と聞いたんですが、逆に染谷さんは何がやりたいですかと言われたので、戸惑いはありましたね。でも同人誌なんだから、やりたい人が集まって好きなものを作るのが普通だよねと。

猫と少女インタビュー

 もちろん最低限の要望はあったけれど、染谷さんのデザインが面白いと感じたからお願いしているので、好きにやってくれたものを見てみたかったので。伊達さんは自分のイメージがあって、そこに作家さんをはめ込んでいくタイプですが、僕はこの作家さんが好きだから、この人が出したものならオッケーという感じなので、人を選んだ時点で仕事のほとんどが終わってるんですよね。

 でも、不思議なことに上がってきたものを見ると、確かに統一感が取れているんですよ。もっとばらけた絵になるかと思ったら、みんな絵のしっとり感というか、懐かしい感じが想像以上にまとまっていたので面白かったですね。人選という部分ですでに世界観ができているのかも。

 染谷さんで言えば、本誌はもちろんいい仕事ですけれど、ペーパーの方が個性が出ているんですよね。ペーパーの裏面のデザインでは、僕が書いたネーム以外にも染谷さんが自分で考えたものを入れてくれたりして。染谷さんの面白いところは、いろいろ汲み取って、こちらが入れていないものを入れてくる、踏み込んだ提案をしてくれるところですね。

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