猫と少女インタビュー

――竹さんとしては、どんなイメージで描かれたんですか?

猫と少女インタビュー

 猫が大好きな子供でしたが動物を飼ってはいけませんというお家で、子供の頃から近所の野良猫と一緒にいたりして私にとって猫は家猫ではなく、野良猫だったので…描くなら野良がいいと思っていました。女の子は、正直ずっとこれだというのがなくて漠然と描いていたんですよ。それで女の子像がみえなくて、ああどうしようと思って散歩に出かけたら、駅にこの子がいたんです(笑)。ボブカットで、セーラー服で紺のタイツに真っ白いバッシュ。ここでローファーじゃないのがいい!ギャーン!となって。そのままでキャラクターみたいだし、すごくすらっとした可愛い子だったので、この子を描きたいと思って出先で描きました。

いつも、キャラクターデザインで迷うと繁華街に行くんです。街に行くと、服とか髪型とか、雰囲気がそのまま何かのキャラクターになれそうですね、という人がいっぱい歩いているんですよ。散歩をすれば猫にも出会うし。だから散歩して出会ったものばかりで絵が構成されているようなものなんです。キャッツアイ(猫目石)も、女の子を見た日に大好きな喫茶店でコーヒーを飲みながら読んでいた石の本で見つけたので、出かけてよかったなと。

 外で絵を描くことが多いんですか?

猫と少女インタビュー

 やっぱり絵を描くとひとつの場所にじっとしてないといけないから。出かけると色々なものにあえて、それが創作意欲につながるので。描いたものを見ながら描きたいんだけど、ページを破りたくないからノートがだんだん増えて3冊くらい持ち歩いてます。

 竹さんじゃないと描けないものがあって、この表紙イラストも普段の竹さんのタッチとは違うんですけれど、竹さんにしか描けない絵だというのが、すごくいいなっていう。

 いろいろガマンしないで描きました(笑)。ルビコンハーツのショップにかっこいい机があるんですけれど、これがいい感じの茶色で、その上に置いたら綺麗だろうなと思って緑色の本にしようと。猫もわりと白とか黒とか茶色で自然な色なので、緑の上なら映えるんじゃないかと。

 猫のシルエットがすごく目立っているのは、確かに白地では出ない感じですね。確か5月に出る本だから緑でいいですかと言われて、そういえばそうですねと。

 すごく絵が詰まっているので、加野瀬さんと、どこにタイトルを置こうかと相談しましたね。大きくのせる訳じゃないからいいやと(笑)。

 私はどこにのせてもらってもいいなと思ってたから。出来上がりを見た時にすごく品がいいなと思いました。

 マンガを描く人がいたので、右閉じというのはあったんですけれど、最初タイトルは横組みで考えていて。染谷さんが縦にしようといったんですよね。

 この本だったら、全部縦書き、要するに日本式にした方がいいかなと。

猫と少女インタビュー

 猫がみんな横に向かって走っているから、タイトルが縦書きでよかったなと思います。きりっとしていて。表3の部分は地の色が白だったのを染谷さんが黄色に変えて優しくなったと思ったんですが、なぜ変えたんですか?

 どうしても白だとのっぺりして、あとがきのページと地続きになってしまうので。ここでいったん切ることで、世界観を分けて置きたかったんですよね。表3はあくまで見返しとして本を読み終わった後の余韻として残したかったので。

 あとがきの飾り線とか、アナログな感じですが手書きなんですか?

 本当は手書きが一番ですけど、Illustrarorのブラシで強弱をつけるのがあって、それを使っています。そのままだといかにも機械的なので多少は加工していますけど。 さすがに本文まではできなかったんですが、タイトルや作家さんの名前には、インクだまりを再現したり等、手書き風のエフェクトを入れています。

 ロゴの「少」の字は笑っている顔なんですね。

 いわゆるマンガ的な女の子でない、少女のイメージでロゴをデザインしています。小ネタというと、「猫」の字にネコミミをつけるのはかんざきひろさんの『猫耳警察』という同人誌から拝借したものです(笑)。加野瀬さんがやりたい、ルビコンハーツが提唱するオタクのライフスタイルみたいなものからはずれないもので、『猫と少女』に掲載されている絵のトーンに合わせて作ってみたらこうなった感じですね。

――本全体を通して、すごく柔らかい、暖かいトーンで作られていますよね。

 アナログ感の出し方は意識していましたね。

 時代的には、テクノ系とかハイエンド系が一周して、いまはアナログの感じが好まれていると。それも何年かしたら変わるでしょうけど、今回はイラストやテーマ自体がアナログよりにした方がいいものなので、そっちに振っています。

 見た人に「アナログなんですか」と「いや全部CGです」とか、そういう風に思ってもらえたら成功なのかなと思いました。

 それもあって、紙も「Mr.B(ミスタービー)」を選んだ感じですね。印刷でいえば、DTPにプリンティングディレクターがついていたのが面白かったです。同人誌にプリンティングディレクターがついてるとか聞いたことがないですよ(笑)。

 そもそも同人誌に色校が出ることがまずないですよね。普通はイベント会場で段ボール箱を開けて初めて刷り上がりがわかる。入稿した時点であとはお任せにすることで同人印刷は値段を下げているので。

 デザイン面で言えば、ルビコンハーツの同人誌で一番面白いのは印刷のところだと思います。わざわざプリンティングディレクターをつけて、同人印刷とは違う形でこのA3の同人誌を刷っている。紙も普通のコート紙とかアート紙とか、いわゆる工場に常備されているものではない紙を選んでいて、ちゃんと色校正も出している。しかもFAIRDOT2という印刷方法で400線くらいに相当する高精細印刷。商業誌でもこんな贅沢なことは珍しいと思いますね。それがちゃんとルビコンハーツのコンセプトと合っていることが面白いと思いますよ。

 私はRGBで描いていいよといわれたのがびっくりしました。いつもCMYKで描いているので、緑色はくすみやすい危険な色なんですけれど、RGBだから使いまくれるということもあって緑を選んだんですけれど。それがどんな風に印刷に出るか楽しみで。

 『京都、春。』の時も色味は問題なかったんですけれど、暗い色からのグラデーションが繊細なので、絵描きさんの方で入稿時に微妙な直しをすることがありましたが、『猫と少女』はペーパーを作ったときに、こういう色がでるなら問題はないでしょうと。一回、色校を出したようなものなのでDDCPだけで本紙校正は出しませんでした。

 色校も、マンガ絵のよさをわからない色校担当者だと何回も修正しないとイラストレーターやデザイナーのイメージに近い色にならないんですけれど、ルビコンハーツの同人誌を担当してくれるプリンティングディレクターは普段からマンガの仕事もされている方なので、一発でイメージ通りの色が出てきました。

――ここが『猫と少女』の見どころだというポイントがあれば教えていただけますか。

猫と少女インタビュー

 デザイン的には見どころはないですよ(笑)。ルビコンハーツのA3同人誌で、発色のいい紙に高精細に印刷されたイラストを舐めるように見られるというのが、やはり見どころじゃないですか。

 でも、染谷さんが組んだ文字のバランスがあるから、本が引き締まっていると思います。

 もちろん絵だけみてもいいなと思うんですけれど、やはりパッケージングしたときの魅力はデザインの力なので。

 でも、僕はオタクものに関しては、ある面ではデザインは必要ないと思ってるんですよね。極論ですが、原画を超えるものにはできないですよ。僕自身がユーザーとして萌え系のアイテムを手にする時に、デザインが余計な主張をしているとイラっとくるんですよ(笑)。

だから今回のような画集的な性格の強い、絵が主役の本ではデザインが載ったことで絵が死んでしまうようなことは、よほど事情がない限りやるべきじゃないと思っているので、今回は何もしていないですね。本当は、あとがきの竹さんの絵を小さくすることにすごく罪悪感があったんですけれど。

 思っていたよりもぜんぜん大きく使ってもらえていますよ。本としてちゃんと纏まっていればぜんぜんいいじゃないですか。

 基本的には絵を見せる、ということですね。統一感のためにページの隅に何かいれますかと言ったら、染谷さんが「必要無い」と。デザインの仕事が少なすぎるんじゃないかと思って提案したのに(笑)。 普通なら「イラストレーション:竹」みたいな文字を入れるんですけれど、それもやっていないのであとがきで絵と作家を対応させるようにしたんですよね。

 僕が買ったら、デザインよりも絵を見せろと思うので。何もしないことが僕の仕事だ、というとかっこいいんですけれど、そんなロクなものじゃないです(笑)。

 最初のペーパーで『猫と少女』の世界観ができたので、染谷さんはペーパーを作った時に相当、仕事をしたと思っていますよ!

(2010年4月28日・ルノアール池袋パルコ横店会議室にて収録)

インタビュー・構成:平岩真輔

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