こだわりで描くロシアの「こころ」

ロシアの国民的キャラクターとして知られる『チェブラーシカ』。1969年のオリジナル版から40年近い時を経て、『劇場版AIR』『劇場版CLANNAD』の脚本家としても知られ、これが初監督作品となる中村誠監督の手による新作、劇場版『チェブラーシカ』が公開され、ロシアでも大きな反響を得ました。11月25日にリリースされた特別版DVDでは、国内では一部劇場でのみ公開された「ロシア語版」映像のほか、映像特典として「銀残しバージョン」を収録。オリジナルのイメージが踏襲されており、より深く『チェブラーシカ』の世界を楽しめる内容になっています。

この特別版DVDのリリースにあたって、2001年にオリジナル版が日本公開されて以来の『チェブラーシカ』ファンだという秋葉原カルチャーカフェ『シャッツキステ』オーナーの有井エリスさんとともに、中村監督に『チェブラーシカ』の魅力と作品への拘りについてお話を伺いました。

有井 最初に、中村監督とチェブラーシカの出会いについて教えて下さい。2001年のオリジナル版公開時には、プライベートで観客として観に行かれたんですよね?

『チェブラーシカ』中村監督

中村 元々、年間に平均100本くらい観ているくらい映画が好きなんです。こんなのあるんだ、ということで渋谷に観に行って。客層的には子ども向けではなく、どちらかというと、サブカル的なオシャレな感じでしたね。

有井 私もその流れで観ていました。友人がアート系のアニメが好きで、「チェブラーシカという謎の可愛い生物が出てくる映画が公開されたぞ」、と勧められて。最初は、ロシアからたまたま入ってきた作品だったんですか?

中村 岡田恵美子さんという著名なアニメ評論家の方が紹介されていたのですが、元々1970年代に一度入って来て、話題にもなったみたいですね。

有井 それから2001年にも公開されて、人気に火がついた感じですよね。最初は下北沢や原宿とかのイメージで、徐々に一般の人にも愛されるようになって、六本木でグッズ展をやったりと。観に行かれたときは、この仕事をやりたいと思われたんですか?

中村 思いもよりませんでした。実際に監督として声をかけられる2005年までは全く関係のない仕事をしてましたからね。

有井 日本ではアニメはたくさん放送されていますが、パペットアニメやクレイアニメなどは、あまり見ることがありませんよね。

中村 今回、仕事をしてみて気付いたんですけど、例えばCMで役者と合成して使われていたり、教育テレビで数分間番組化されていたりと意外と本数はあるんですが、映画として作られた作品は本当に少なくて、ほとんどないですよね。

有井 オリジナルが公開された頃に、チェブラーシカの絵本を見たんですけれど、色々なデザインのチェブラーシカが載っていて。原形をとどめていないようなものまであって驚きました。

中村 ロシアに、原作者のウスペンスキーさんが作られた幼稚園があって、そこに色々なチェブラーシカのぬいぐるみが飾ってある部屋があるんですけれど、もうむちゃくちゃなんですよ(笑)。その時、ロシア人に「これ全部チェブラーシカに見えるんですか?」と聞いたら「当たり前じゃない」という顔をされて。ロシアでのチェブラーシカのイメージは大らかなんですよね。日本人なら、チェブラーシカの眉毛がないだけでも「何これ?」と思うじゃないですか。

有井 最近のアニメでも、少し絵が違うだけで大騒ぎになったりしますよね。今回の『チェブラーシカ』では、キャラクターのデザインでも日本での公開を意識して気をつかわれたんでしょうか?

中村 カチャーノフ監督が作ったオリジナルの『チェブラーシカ』を観ると、1話から4話まで、それぞれキャラクターの顔が全部違うんですよ。日本のファンにとっては第2話「チェブラーシカ」の印象が強いと思うんですが、第4話「学校へ行く」だとそれより丸っこくて全然違う。その中でどれをベースにするかを考えました。ゲーナに至っては1話と2話で素材が違いますよね。1話ではつるっとした素材なんですけれど。

『チェブラーシカ』中村監督

有井 (初回版DVD特典のブックレットを見ながら)オリジナル版第1話のゲーナは、は虫類っぽさが結構リアルですね。

中村 それも第2話ではちょっとケバだった素材になっていたりするんですよ。今作の人形のデザインは、ロシアにいった時にオリジナルの美術監督だったシュワルツマンさんが作ってくれた人形をモチーフに、美術監督と2人で今風にするにはどうすればいいかを試行錯誤しながらアジャストしていったんです。

有井 オリジナル版より頭がちょっと大きくなって、可愛らしい感じになっていますよね。でも、私の中に漠然とあったチェブラーシカ像と今回はあんまり差がなくって、ブックレットの表紙を見たときに「あっ、チェブラーシカだ」と思ったんですが、実際に本編を見比べてみると「あれ、こんなに違ったっけ?」とすごくびっくりしました。

中村 それは、目指していたところでもあって、やはり皆さんオリジナル版のイメージってすごくあるんですよね。でも、特に第1話はリメイクなので、見たときに「全然違う」と思われたらいけないわけですよ。見比べると違うんだけど、見ている限りはわからない、というようにするためにはどうやって作ればいいかというところで考えました。結果的に、シュワルツマンさんも最初観たときに気付かなかったくらいのクオリティになりました(笑)。お見せした時に「第1話は私たちが作ったものですから、知ってますよ」と言われて。

有井 (笑)

中村 つまり、1話はそのままオリジナル版を当てはめたんでしょ、ということを仰ったんですね。いえこれがリメイクなんです、と伝えると「えー!」と(笑)。

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