こだわりで描くロシアの「こころ」

有井 動きについても、とても滑らかになっているんですけど、記憶の中で補正がかかっているんでしょうね。表紙だけ観たときは、現代版にクリンナップされてきれいになったなあ、と思ったんですが、動いてるときには、目が宙を泳いでるところ、まぶたの閉じ方、走り方、動きで独特のチェブラーシカらしさというのも出ていて、驚きました。

中村 動きは重要ですよね。オリジナルの12コマから倍の24コマにして、まぶたの形も以前より種類を増やしてるんですけど、人形の目に残るポイントは替えないようにしています。キーとなる動きには昔の雰囲気を残しつつ、間の動きを細かく埋めることで、ぱっと見の印象でオリジナル版と違う」とならないように気をつけました。

『チェブラーシカ』中村監督

有井 私、レイ・ハリーハウゼン作品の動きの独特な感じが大好きなんです。でも、CG映画でリメイクされたのを観て、動きの味が丸々失われているように感じて。「これを観たかったわけじゃないのに!」と思うファンも多いだろうなと。

中村 わかります。今回も、パペットアニメーションは、間の動きが飛んでいるようなカクカクしている感じがいいんだ、という声もありましたが、普通に考えたら生き物がこんな風に動くのはおかしい、というのがあるじゃないですか(笑)。動きについてスムーズな方とぎこちない方を天秤にかけたとき、カクカク見えるのが好きな人はやはりマニアックな人で(笑)、一般の子どもはそれだと変に思うはずなので、スムーズに動かす方を第一義に置いて。ポイントは踏襲しつつ、動き自体は「チェブラーシカ」になるよう落としどころを狙って作りました。

有井 チェブラーシカの動きを変えることは、誰もが挑もうとしてできなかった部分ではないでしょうか?

中村 僕自身がパペットアニメーターではないからこういったことが言えるんだと思います。アニメーターに指示するだけなので(笑)

有井 昔からのファンの人に向けて、今までの動きの心地よさを踏襲しつつ、現代の技術を用いてスムーズに見せるというような、両方が満足できるところだったと思います。

中村 韓国のプレミア上映のときにも、「好きなアニメがあるのでリメイクしてくれませんか」と言われましたね。いつの間にかリメイクの専門家みたいに思われてるみたいで(笑)。

有井 オリジナル版から受け継いだ点と、今回新しく導入した点はありますか? 例えば、チェブラーシカが両手を前に出して歩いたり走ったりするのがすごく可愛らしかったんですが、オリジナル版を観たときには印象になかったので。

中村 オリジナルでは、元々そんなに走るシーンがなかったんですよ。たどたどしい感じを表現するために、今回初めてつけた動きだと思いますね。

有井 クライマックスではチェブラーシカが走って追いかけるシーンもありますが、もしかしてこれってすごく新しいところなのかなと思ったんです。オリジナルから離れたイメージではないのに。

中村 チェブラーシカの手の動きは色々と実際に撮ってみたんですが、手を大げさに動かし過ぎると、チェブラーシカっぽくなくなっちゃうんですよね。基本的には耳と足で感情表現をするので、ほかのところはあんまり動かさないようにしていました。

有井 それでも、動き自体はすごく細かいですよね。オリジナルの頃と比べて、人形の技術はどれだけ進化しているんでしょう?

中村 足の構造は昔と同じです。足だけ分離して、胴体に食い込むように動く感じですね。足のパーツについた針を胴体部分に刺して、少しずつ動かして撮っています。足だけ分離しているんですね。足に骨組みがあるバージョンの人形もあったんですが、そこまで骨組みが動かないので。昔と一緒で、シンプルにしました。

有井 当時はどうやって人形を作って、動かしていたのか、ということもリサーチされたんですか?

中村 ロシア側から頂いた設計図には、棒があって関節があって、というような簡単なことしか書かれてなかったんですよ。それを基に映画『コープスブライド』(ティム・バートン)にも参加されている韓国の専門家に依頼しました。設計図から、こういうキャラクターがこう動くから、と細かな骨組みを設計し直して作ってくれて。表現の細かさが違うので、骨組みも増えています。技術的には最新のものですね。人形のサイズも昔と全然違って、今回のは1.5倍弱くらい大きいんです。

有井 オリジナル版はもっと毛むくじゃらで、ちょっと動きが見づらいところもあったんですが、動かしすぎず、きれいに見えてたのでステキだなあと思いました。ほかに、映画全編を通して観て、前半では色あせていた印象だったんですが、後半になるにつれ街並みが鮮やかになっていって。そういった全体の色味の変化についてはいかがですか?

『チェブラーシカ』中村監督

中村 そこにも意識してますね。日本語版では冒頭をばっさり切っているので、比較的鮮やかなシーンから始まっているんですが、ロシア語版は第1話の導入から暗めに作っていて、特に最初の果物屋のシーンはすごく暗くしてあります。色についてリサーチしたときに、ロシアの方は「チェブラーシカは色鮮やかなものだ、明るいものだ」って仰るんですよ。でも、残っているフィルムが劣化して色が変わってしまっているし、ロシアのフィルムの問題なのか、緑がかったような独特の色彩が元々あって。オリジナルの色は今では誰にもわからないという状態なんです。日本人でもオリジナル版のイメージは強く残っているはずだし、ロシア人もずっとその状態で観ているはずだと考えて、冒頭からいきなり明るくして「えっ」と思われてしまわないように、ものすごく暗くいところから「ああ、こんな感じだったよね」と始めて、徐々に今風の色を加えていく、という流れにしています。

有井 ブックレットにもありますが、何度か「これは日本では暗すぎる」というので直されたりしたとか。

中村 あれは絵が暗いんじゃなくて、内容が暗いという意味ですよ(笑)。

有井 確かにロシアは独特のテンションですよね。例えばディズニー映画の『不思議の国のアリス』のイメージだと「1年中お祝いだー! 何でもない日ばんざーい!」という華やかさがあるんですが、原作では「誕生日は一年に一度・・・」みたいな暗いテンションですよね(笑)。オリジナルに忠実に暗くし過ぎることなく、ロシア独特の雰囲気のみ引き継ぐ、というのは苦労されたんじゃないでしょうか?

中村 大変でしたね。やはり、ターゲットが絞れないという問題があって。極端なことを言うと、ロシアにはたくさんオリジナル版を観ていた人がいらっしゃるんですよ。最初の1969年に観ていた人もそうだし、年に一回は劇場で公開されているらしいので、小さい子どももみんな知っているんです。日本でも、2001年からファンが増えていて。どの層をターゲットにするかで作り方って変わってしまうので、最終的な着地点として、ロシア語版はロシアのお客さんに向けて作る、日本語版は2001年からのファンを意識しつつ、新しいファン、日本の子ども達に向けて作るということで、二つにターゲットを分けることにしたんです。

有井 観ているだけだと違和感は感じなかったんですけど、そういったご苦労があったんですね。

中村 日本語版よりロシア語版のほうがよかったよね、と言われるとちょっとがっかりするんですよね(笑)。どっちも頑張ったんだよ! みたいな(笑)。

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