こだわりで描くロシアの「こころ」 銀残しサンプル

有井 銀残しの処理についても、ターゲッティングの問題だったんでしょうか?

中村 元々、ロシア語版を銀残しバージョンにしたかったんですよ。銀残し、というのは日本で開発された現像の技術なんですけど、フィルム中の銀の粒子を残して現像すると、コントラストがちょっと上がって、暗い部分がより暗くなって独特の風合いになるんですね。それがオリジナル版フィルムの粒子の粗さや、ロシアならではの色合いに近づくので採用しました。作っている最中から、ロシア語版を日本で観てくれる方は絶対に2001年からの、ある意味でマニアの方が中心のはずで、そういう方たちのためにと思っていたんですが、結局色々あって上映はできなかったので、今回DVDに入れることにしました。

ほかにも今回発売されたDVDにはこだわりがあって、そうやって現像したフィルムを実際に映し出して撮影する、テレシネという方式でディスクに落とし込んでいます。本来はデジタル上のデータを使ってDVDにするんですが、フィルムをそのままで入れて欲しいとお願いしました。そういったアナログな方法を使ったので、銀残し版はよく見ると画面にホコリなんかも入ってます。本当は入ってちゃいけないんですけど、端っこの方はいいよね、ということで敢えて残して。

有井 今ではレタッチでいくらでも消せてしまいますよね。世界観だけではなく、画質までしっかりこだわってらっしゃるんですね。いま「アナログ」という言葉が出ましたが、デジタル技術、CGに関しては、今回は使用されているんですか?

中村 使ってますよ。本当に細かいところ、例えば昔だったら、チェブラーシカがジャンプすると、棒が映ってたりするんですけど、今回は消していたりとか。そういう消極的な使い方は全編に渡って使ってます。積極的なところでは、シャボン玉の描写くらいですね。メインは基本、アナログで、手撮りです。

有井 ここはCG合成したな、というようなところは全くなかったですね。気付きませんでした。

中村 アナログの風合いが全面に出ていないとダメ、というのは今回の重要なコンセプトだったので。

有井 ユーリー・ノルシュテイン監督も公開後のインタビューで「日本人の細部へのこだわりが箱庭的な世界を大きな作品に見せている」という評価をされていました。ロシア、韓国とお仕事をする上で、それぞれのお国柄苦労された点や、逆に良かった点などはありますか?

中村 ロシアとのやりとりは考え方の違いもあって大変でしたね。彼らにしてみたら、僕なんか何者だかわからないわけです。『ドラえもん』の劇場版製作が40年間途切れていたとして。そこでロシア人が急に権利をとって「僕が『ドラえもん』の続編作ることにしたから」と言い出したような状態で。そしたら「は?」となるじゃないですか(笑)。

有井 「『ドラえもん』の何を知ってるんだ!」となりますよね(笑)。

中村 普通に考えて、そうですよね。作品が出来上がるまで、ロシア側の僕への対応はそれに近い感じでしたね。

有井 記者会見でも、「チェブラーシカにチョンマゲを付けたのか?」などと質問されていらっしゃったようですね。

中村 芸者なのかサムライなのか、とかそんな質問ばっかりでしたね。ニュースでも、嫌がらせみたいに、チェブラーシカの人形を持ったロシア人の記者が「コンニチワ」とか片言で挨拶していたり(笑)。逆に、参加してくれたロシア人スタッフにとってみれば、ものすごいプレッシャーがあったはずなんですよ。自分たちが関わって日本人の監督がとんでもないものを作ってしまったらどうしよう、という感じだったはずなので、僕に対してもプレッシャーをかけてきて。関係を構築するまでは本当に大変でしたね。

『チェブラーシカ』中村監督

韓国は、目上に対しては絶対、というお国柄なので、最初から話を聞いてくれてどちらかというとラクでしたけど、中には言うことを聞いてくれない方もいて。照明監督がCM畑の出身で、僕は自然光っぽく作りたいのに、いくらお願いしても、必ず商品撮影のような被写体が浮き上がるセッティングにするんですよ。そのたびに「やめてください」とお願いする、みたいなことはありました。もちろん、うまいライティングをされる方なんですが。

有井 それぞれが自分の仕事に誇りを持っている一流のプロだからこそ、中村監督のやり方を理解してもらうまでは大変だったんですね。

中村 ロシア人は、最初ブーイングから始まるようなところがあって。ロシアでのプレミア上映は、監督の中村です、と言った瞬間に「Booo!」という状態で始まって、上映が終わると「ブラボー!」と言ってくれて。ちゃんと中身で評価してくれる。日本だとあまりないですよね。特にマニアの方って「俺が否定してたものが成功するなんて認めない」みたいなところがありますけど(笑)、そういうのはなかったですね。

有井 本当に素晴らしかったらちゃんと評価してくれる。「チョンマゲか?」と言ってた方も、見終えてからは「ありがとう」と言ってくれたとか。

中村 ロシアはそういうところがよかったですね。韓国のスタッフもリクエストにちゃんと答えてくれて。あのスタジオに任せてよかったなと思いますね。

有井 ブックレットの手記にも、スタッフの方への感謝の気持ちがすごく溢れていて、手記自体が感動巨編作品のようでした。特に、現代においてリメイクを任されたにも関わらず「今の技術を使ってこれだけやってやろう」とはならず、昔ながらの技術を使おうということになった、そのスタート地点にこそこだわりを感じます。リメイクをする上で、ここだけは外したくなかった、という部分はありますか?

中村 基本的には、ロシアの方に喜んでもらう、というところです。日本でも公開されましたけど、僕の中でイメージしていたのはロシアの方でした。ターゲッティングとは少し違うところですね。日本ではすごく受けたけど、ロシアではみんなカンカンに怒っている、ということでは絶対にダメだと。極端なことを言うと、日本では怒られてもロシアの人が喜んでくれればいいと思って作っていました。

有井 どのようにロシアの方に愛されている作品なのか、ひたすら追及されたのがわかります。

中村 オリジナル版『チェブラーシカ』やノルシュテインさんの作品集を繰り返し観て、そこから抽出した感じですね。もう何回観たかわからないくらい観ました。

有井 その結果、ロシアの方からは絶賛されて、本当によかったし、嬉しいです。今回の新作『チェブラーシカ』を観て、新しくファンになった日本の子ども達には、今後、どのように愛されて欲しいと思いますか?

中村 いただいた感想で嬉しかったのが、日本語版って年齢制限を設けていなかったんですね。チェブラーシカは何歳からでも観てよくて。なので「子どもの初めての映画にしました」という感想をいくつかいただいたんです。それがすごく嬉しくて。その子たちが憶えててくれて、10年後にも「初めて観たのはチェブラーシカっていう映画だった」と話してくれるなら、もっと嬉しいですね。

『チェブラーシカ』中村監督

有井 小さい子に印象が残っていて、かわいいかわいいと見続けて、大人になっても懐かしい、と言われるような。『チェブラーシカ』への愛着が、日本でも生まれた、と。

中村 そういった実感はありますね。

有井 もし40年後にまたリメイクされることがあれば、監督を任された方は、同じ苦労をされるわけですね(笑)。

中村 それ、いいですね(笑)。僕が死んだ後にまたリメイクしてもらって、生き残っているスタッフが褒めてくれる、ということになればいいんじゃないでしょうか(笑)。

有井 中村監督がオリジナルから引き継いだ『チェブラーシカ』が、長く長く愛される作品になっていけば、楽しいですね。

『チェブラーシカ』が地上波で放送されます!
劇場版『チェブラーシカ』2011年12月28日7:30~ テレビ東京
オリジナル版『チェブラーシカ』全4話(デジタルリマスター版)2012年1月3日17:30~ NHK Eテレ(教育)

インタビュー:有井エリス(@arii_erice) 構成:草見沢繁(@shigeru_suso

『劇場版チェブラーシカ特別編コレクターズエディション

劇場版チェブラーシカ特別版
コレクターズエディション【初回限定生産版】

DVD2枚組 価格7140円(税込)/カラー/本編80分+特典映像/片面2層/日本語字幕
音声:1.ロシア語ドルビーデジタル2ch 2.ロシア語DTS 2ch 3.日本語ドルビーデジタル2ch
本編DISC:ロシア語版本編、ロシアプレミア上映時の映像
特典DISC:ロシア語版本編(銀残しver.)、メイキング映像、原作者、E.ウスペンスキー氏&オリジナル映画の美術監督、L.シュワルツマン氏インタビュー
同梱特典:「チェブラーシカ」資料集(ブックレット)・フィルムカットセット(3枚入り)
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『チェブラーシカ』中村監督

秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」

黒のロングスカートと白いエプロン…クラシカルなメイド達が給仕する紅茶を飲 みながら、時に熱く 時に賑やかに『オタクカルチャー』を楽しむカフェ。
http://schatz-kiste.net/
http://blog.livedoor.jp/schatz_kiste/

【アクセス/営業時間】
東京都千代田区外神田6-5-11 長谷川ビル1階
12:00~22:00(第一火曜日 定休)
【イベント情報】
12/25(日)~31(土)の期間中、『魔神英雄伝ワタル』などをてがけられたアニメーター、芦田 豊雄氏の回顧展を開催。
http://www3.ocn.ne.jp/~indoli/kaikoten/

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