アニメのゆくえ2011→

さらなる展開のための人材育成

――『まどか☆マギカ』のヒットは国内でも大きな影響が現れたのでは?

アニメのゆくえ2011→

 虚淵や僕へのメディアの取材が増えましたね。このインタビューもそうですけど(笑)。それから、コラボレーション企画のお申し出を頂くことが非常に多くなりました。ニトロプラスの作風からの印象なのか、これまでは声がかけ難かったらしいんです。『まどか』でそれが変りました。ただ、我々もリソースが限られているので、全てをお受けできるわけではないのが心苦しいですね。

――リソースの問題は特に大変そうですね。

 やはり、いちばん注目されているのはライティング、シナリオの部分なんですね。とはいえ、現在アニメの現場でひとり活動している虚淵のみで書ける分量には、当然、限界があります。だから、いま社内にいるライター陣に加えて、フリーの人も含めた様々なライターに参加してもらえる体制を整えています。そうして協力いただける皆さんに、机をならべて仕事をしてもらえるような環境を社内に作っています。

――いわゆるアニメ会社の「文芸部」のような部署を設けるということですか?

 そうですね。この体制を整えたことで以前よりは生産性も上がっています。ただ、あまり不用意に広げてしまうと、虚淵の指導や監修の手が回らなくなってしまいますので、あくまでできる範囲で少しずつ増やしていくという感じですね。

――今期のアニメでは、鋼屋ジンさんが『ギルティクラウン』にシナリオ参加されているのも、そういった取り組みの一環でしょうか。

 ゲームしかやってこなかったライターにアニメの現場を経験してもらおうという狙いはありますね。ノウハウがゲームシナリオにも生かせると思いますし、現場でいい刺激も受けます。今後も同様のことを検討しています。

――そうなると、ゲーム制作との兼ね合いが気になります。ニトロプラスのエッジの効いた印象の所以は、創作の根幹にPCゲームというメディアがあったからだとも思うのですが。

 アニメとゲームのバランスは、その都度調整していくしかないですね。リソース配分は杓子定規では決められないので。ただ、PCゲームは3年先まで企画のラインナップがあがっていますから、これからも平行してアニメに関わっていくことになると思いますが、あくまでクリエイターの「やりたい」という気持ちに準じて企画を動かしていきたいと思っています。

そうしたクリエイティブの軸とは別に、ビジネスの観点ももちろんあります。アニメもゲームも、これから収益構造が変わる可能性があると考えているんですね。

――どちらもパッケージビジネスは大きな転換点をむかえているといわれますね。

 PCゲームで言えば、市場そのものが縮小傾向にある。購入層が減っている中で、開発費を今までと同じように使っていたら、いつしかリクープポイントを割ってしまう。それでも、ユーザーが求める商品価格に対するコンテンツの質は下がらない。そうなると、もうビジネスモデルは崩壊してしまうので、そのコンテンツとは別のところで収益を上げていかなければならない。番組は無償で見せて、関連商品で利益を上げていくような、昔からあるテレビ番組の商法ですよね。仮面ライダーなら玩具のベルトやソーセージを売る。

――もともとアニメや特撮のビジネスモデルはそうでしたね。

 そこから、映像パッケージの売り上げが中心のビジネスになって、今でこそブルーレイの登場で市場が復活しているように見えますが、今後も継続できるかは分からない状況ですよね。海賊版や不正ダウンロードが横行していますし、パッケージから配信へと視聴方法も切り替わってきている。その中で、原点回帰ではないですが、別の収益を求める動きが起こっていると思うんですよね。

――特にその萌芽として見られているような動きはありますか?

 グッドスマイルカンパニーさんがやられた『ブラック★ロックシューター(OVA版)』は面白いと思いましたね。テレビ放映はせず、DVDを雑誌の付録などの形で無料配布し、収益はフィギュアの販売で上げるというのは、新しいスタイルでした。ゲーム業界ではソーシャルゲームという流れがありますよね。遊ぶだけなら無料で、アイテム課金やシナリオ分岐で課金する。間口を広くして多くのユーザーを獲得しておいて、一部のユーザーからの収益で全体をまかなうというのは、ゲームとしては新しい発想だと思います。

――ソーシャルゲームに注目されているのは意外でした。アニメやゲームのユーザー層からは乖離している印象がありますが。

 確かに今のオタク層にはそんなに響いていないみたいですね。でも、ソーシャルゲームはユーザーの嗜好に合わせるものですから、オタク層に合わせた作り方をしてくる可能性があると思います。危惧しているのは、ソーシャルゲームのクオリティが上がったときに、有料のゲームと比べられてしまうことですね。ゲーム業界にとっての黒船であるソーシャルゲームビジネスと歩調を合わせなければならない状況が来るかもしれないし、逆に彼らにはできないことをこちらがアプローチしてみせることになるかもしれない。複雑な問題だと思っています。そこは常に研究はしていますし、いくつか対応策も準備しています。

――副次的な展開としては、出版部門をアクティブに動かされているところも興味深いです。

 それは既存の出版社さんと競合するつもりではなく、あくまで共存・共栄していこうと思っているのですが、「同人誌」という流通形態は出版において有効なのではと考えているんです。つまり、音楽業界におけるインディーズのような販売網があってもいいのでは、と。『Fate/Zero』は実際に、一度同人誌として出したものを商業で展開するという、インディーズで出したCDをメジャーリリースするのと似たようなケースになりました。深いユーザーから広いユーザーへと、ひとつの作品で二度アプローチできるわけですから、面白いんじゃないかと思っています。

――『ギルティクラウン』で、オリジナルアニメの前日譚にあたるスピンオフをゲームで展開するというのも珍しい形ですね。

 『ギルティクラウン』については、実は逆の流れで、ゲームのお話をきっかけに、アニメ本編にも協力させていただくことになったんです。通常のアニメでの展開に加えてゲームというチャンネルでも同時に露出を行っていくことで相乗効果を狙いました。加えて、ニトロプラスのエッジのきいた部分を活かして、のびのびと作っていいというオファーをアニプレックスの大山プロデューサーとプロダクションI.Gの和田プロデューサーからいただきました。ただのゲームとアニメの連動というだけではない、フロンティア精神を強く感じたのでお受けさせていただきました。

 アニメ本編とは差別化していきたかったので、あえてアニメのキャラクター原案であるredjuiceさんではなく、中央東口にオファーをして、しかも彼のトゲトゲしたアーティスティックなラインを活かしたグラフィックにしています。ちゃんとニトロプラスのノベルゲームならではの魅力が出ていると思いますね。スタッフもノリノリで作っています。

――普通のキャラクターゲームではなく、あくまで「ニトロプラスのゲーム」として作られているということですね。一方で、バンダイナムコゲームズと『魔法少女まどか☆マギカ』のゲームも開発中ですよね。キャラクタービジネスを牽引してきたメーカーとのタッグも、やはり戦略があってのことですか。

 そうですね。『まどか』のゲーム化について、ニトロプラス単体ではコンシューマゲームにするイメージが湧かなかったんですが、先方からお話があったので、では一緒にやりましょう、と。バンダイナムコゲームズさんは、やはりキャラクターものは得意中の得意ジャンルで、ノウハウを豊富に持っている。それに対して、我々はシナリオライターを抱えているし、ゲーム制作への理解もある。そこでお互いの得意分野をマッチングして、デザインやインターフェース部分などを主に担当させていただくかたちで、共同制作しています。

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