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■進化するアニソンアーティストたち

――J-POPとアニソンの関係、劇伴作家・作曲家とアニメの関係を伺って来ましたが、ここからは現在のアニソンを中心に作品を発表するアーティストについてのお話も伺いたいと思います。代表として『魔法少女まどか☆マギカ』などの主題歌を手がけているClariSについてお聞きしたいのですが、そもそも彼女たちのデビューには冨田さんも関わっていらっしゃいますよね?

そうですね。「リスアニ!」の創刊時に、評論などのいわゆる二次情報の分量が多いと、お客さんはそこまで喜ばないという読みが「リスアニ!」スタッフたちの中にあったんです。そこでインタビューなどの一次情報を増やすための手段を考えたときに、コンテンツそのものを作ることが必要だと思ったんですね。そこで、アーティストを雑誌から発信して、読者と一緒に盛り上がっていこうと思って始めた企画から、偶然ClariSが生まれたんです。

――発掘のきっかけはどういったことなんですか?

彼女たちがニコニコ動画にアップしていた動画からです。アニメソングのカバーをよくアップしていて、「中学生です」と言っているのに異常に歌がうまくて。コンタクトを取ってみたら、本当に北海道に住んでいる普通の女子中学生で驚きました(笑)。アニソンのほかにkzさんの楽曲で「歌ってみた」をやっていたので、それなら実際にkzさんに曲をお願いするので、オリジナルで歌ってみませんかと、「リスアニ!」副編集長の西原が声をかけたところがスタートでしたね。で、雑誌に付けたその曲を聴いて下さったアニプレックスのプロデューサーが、ちょうど中学生が主人公の企画を仕込んでいるから主題歌にどうだろう? とお話をくださって、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の主題歌に抜擢されて現在に至る……という流れです。

――「リスアニ!」がプッシュしているアーティストには、元Girls Dead Monster(アニメ『Angel Beats!』の劇中バンド)のLiSAもいますよね。彼女の存在も今のアニメソングを語る上では大きいと思いますが。

そうですね。彼女は小学生の頃から歌手を目指していたんですけど、志半ばで一度挫折して。アヴリル・ラヴィーンの音楽と出会ってバンドに開眼してからも、地元でのバイトしながらのバンド活動に始まって、バンド解散、単身での上京、再びバンドを組んだもののチケットノルマのためにバイト漬けの日々を送る……といった、バンド経験者が味わう苦労はひととおり経験しているんですよ。絵に描いたようなバンド少女です。

――今時珍しいくらいの苦労話ですね……。

そういった経験が、昨年リリースしたミニアルバムの歌詞に全部入ってますね。いまだに当時のことを、僕のラジオに出てくれた時は涙ながらに話してくれました。そんな彼女がGirls Dead Monsterとして、ユイとして歌う、というところに意味があったんですよね。

――劇中のキャラクターと本人の心境がシンクロしていたと。

とはいえ、最初はもちろん、ユイとして歌った曲をLiSAとして歌って、もし拒否されたらどうしようかと悩みもしたみたいです。でも蓋を開けてみたら全然そんなことはなくて、LiSAの存在を受け入れてもらえた。ミニアルバム発売時のツアーで、「一番の宝物」を歌うときに自分の半生がオーバーラップして、よく感極まって泣いていたんですが、そんな彼女の涙を見て、Girls Dead Monsterのユイのファンだった皆さんが、LiSAのファンになっていった、というところもあると思います。

――キャラクターソングから生身のアーティストの曲へとライブを通じて変化していくような。

まさに、その感覚ですね。キャラクターソングを超えた、新たな物語が始まった瞬間があったんだと思います。それは周囲が演出できるものではないですし、本当に彼女の地力ですよね。彼女自身は特にアニメソングシンガーだとは名乗っていませんが、その力を発揮するきっかけをくれたということで、アニメソング業界に救われたという思いも強くあると思います。

――でも、LiSAは成功しましたが、アニメソングでブレイクした後に、アニメソングから自立した形でアーティストとしての人気を得ていくのは、難しいですよね。

そこは、メーカーを含めた皆さんが、血反吐を吐くようにして考えているところだと思います。アニメ主題歌というタイアップでブーストがかかったことに感謝はしつつも、そこに囚われ過ぎていると仕事がこなくなるわけですから。いいタイアップをもらうことや、そこで結果を出すのもすごく大事なんですが、新人アニソンシンガーも1、2年したら新鮮味も薄れてきますし、タイアップ自体が回ってこなくなる。そうなったときが一番厳しいですよね。アニメ主題歌でデビューするアーティストは今また増えてきましたけど、その1曲で消えてしまう方が依然として多いんです。そこから先につながって伸びていくのは、本当に難しいですね。

――最近では、声優を担当されている方が担当するといった、キャラクターソングが主題歌になるケースも多いですよね。『化物語』『アマガミSS』など、ちゃんとエピソードに沿って楽曲も用意されていて。

『化物語』は見事でしたよね。どれも作中の台詞のような歌詞で、さすがmegrockさんだなあと思いました。『アマガミSS』も、元々渋谷系のクリエイターが手がけたこともあって、いいポップスでしたね。渋谷系の系譜はアニメソングにすごく影響を与えていて、あの時代のいい部分を今のアニメソングに落とし込みたいという方はすごく多いんです。そうしたこだわりをもって作り込むといい結果になるんだなあと思います。

――キャラクターソングが主題歌になる手法が多いのは、作品との親和性が容易に演出できるという理由が大きいんでしょうか?

作品との親和性は勿論生まれるのですが、根幹にあるのは「中の人に歌わせたほうが売れるから」というビジネス的な側面もやはりあるとは思うんです。声優さんの人気にあやかる部分ですね。その場合は、作品の内容と楽曲の親和性だけではなく、声優さんとユーザーとの親和性が重要なわけですね。枠組みの部分というか。声優さんが好きでアニメを観るファンの方も多いので、それならば声優さんに歌ってもらおうという。声優アーティストというジャンルも長い年月をかけてようやく文化になってきたところですが、単純に音楽文化として見るならば、まだまだだとも思いますね。

――キャラクターソングだから喜ばれるというわけではない?

「このキャラはこんな歌い方しない」という反応もありますからね。『涼宮ハルヒの憂鬱』のときに「長門有希はそもそも歌うようなキャラじゃないよね」なんて声があったんですが、そうした反応は今でもあります。キャラクターが歌うからいいと全てのユーザーが思うわけではないですし、演じる方にも悩みはあると思います。長門役の茅原実里も、「長門有希としてどう歌えばいいんだろう……」という部分で、すごく葛藤したらしいんですよ。真剣に考えれば考えるほど、長門は歌わないんじゃないのか? と思ったそうで。でも長門の心情を畑亜貴さんがちゃんと歌詞にしてくださって、ディレクションもできる限り長門のイメージに近づける形で行なって、結果としてあの形が作り上げられたんです。それが評価されて、彼女の今の活動につながったわけですよね。

――なるほど。ディレクション等の話が出ましたけれど、キャラクターソングにとって外せない部分には、どういったことがあるんですか?

以前『薄桜鬼』OVAシリーズ『雪華録』のED曲の制作をやらせていただいたのですが、そのとき痛感したことがあるんです。原作のアイデアファクトリーさんと歌詞についてやり取りしていると、作品のファンの気持ちを理解された、かなり具体的な指示を頂けるんですよ。「この曲の一人称は『僕』じゃなくて『私』だと思います」とか。キャラクターに対する信奉は絶対のものだから、ファンの期待は裏切れない。逆にいえば、お客さんに向けて忠実なものを作っていればちゃんと評価される世界なんですよね。

――楽曲をプロデュースするにあたって、ユーザーのことを考えに入れておく必要性が非常に高いジャンルなんですね。

そうですね。ユーザーは本当にちゃんと見てますし、聴いてますから。『けいおん!』では、劇中のデスデビルの音源は発掘したテープだということで、ちゃんとテープっぽい音質になるようこだわって作ってあるんです。そういった、ユーザーがニヤっとできる部分があれば間違いはないと思います。ユーザーとの間に不協和音を立てず、どうやって主題歌として成立させていくのか。そこを見失うとキャラクターソングは失敗すると思いますね。

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