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■「アニソンらしさ」を求めて

――多岐にわたってお話をうかがってきましたが、その上であらためて、今のアニソンシーンにおける楽曲の「アニソンらしさ」についてうかがいたいのですが、いかがでしょう?

そうですね……本当に単刀直入に言ってしまうと、水樹奈々さんの楽曲なんかは、まさに「アニソン」と呼ぶ以外ないものですよね。あえて別の表現をするなら「ノリとしてフィジカルな要素を持ったド派手な演歌」とでもいうような、そういったものがいわゆるアニメソングらしい楽曲と考えられているのだとは思います。Elements Gardenが得意とする非常に技巧的で快感度の高い楽曲が、水樹奈々の卓越した歌唱力で歌いこなされていくあの感じは、今のアニソンを象徴する音楽性だと言えますから。一方で、LAMAやschool food punishmentといったJ-POPのアーティストが手がけるアニソンには、そうした「アニソンらしさ」はないですよね。でも、楽曲に「アニソンらしさ」はなくても、ファンにはフラットに「アニソン」と受け取られている。そんな状況があるように思います。

――アニソンらしい楽曲でなければダメ、ということではない?

そうですね。そういった曲の「らしさ」よりも重要なのはやはり作品との整合性だと思います。やくしまるえつこが担当した『輪るピングドラム』の主題歌は、OP映像のカット割や演出、色彩感も含めて、彼女の声とマッチングしていましたけど、これが『戦姫絶唱シンフォギア』とだったら作品と曲の一体感は出なかったのではないでしょうか。

――その組み合わせは想像もつきませんね(笑)。

つまりは、作品性と音楽性の合致が親和性を生むんですね。『シンフォギア』の厨二感には、水樹奈々のド派手なアニソンがやはり必要不可欠でしょう。神聖かまってちゃんが大亀あすかとコラボした「エリオとかまってちゃん」による『電波女と青春男』の曲も評価が高かったんですが、それも、かまってちゃんの無茶苦茶っぷりと、大亀さんの声優ならではの歌い方のマッチングが自然だったから受け入れられたんだと思いますしね。

――ところで、アニソンに参入するアーティストというと、最近はボーカロイドP出身のクリエイターも増えてきていますよね。kzさんやsupercellといった、いわばボカロとニコニコ動画から出てきたアーティストとアニソンの関係についてはどうお考えですか?

実はボーカロイドを含むニコニコ動画のファン層とアニメとは、完全に切り離されていると思っています。アニメを作っている人や、アニソンレーベルの人たちも最近やっと気づき始めたところだと思うんですよね。今まで、ニコニコ動画というプラットフォームに集っているユーザーは大体みんな同じなんだろうという見方をされていて、通常会員だけで2500万人もいるニコ動で知名度があるクリエイターならば、そのままアニメソングに引っ張ってきてもいけるんじゃないかというイメージがあったんです。でもやってみると、数字も伸びない。それどころか批判の方が多かった。

――ネットユーザーとアニメの親和性は、実は高くはないと?

kzやsupercellがアニメ主題歌を作っても、ボカロのPがやっているからということで買っている方はほぼいないと思うんですよね。supercellが1stアルバムとして初音ミクをフィーチャーした作品を出したときも、アニメソングファンはそんなに食指は動いていなかったと思うんです。アニメソングファンにとっては、『化物語』の「君の知らない物語」を手がけたことで、初めてアニメとsupercellの音楽が合致したんじゃないかと思います。kzも『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の主題歌を手がけたことが大きかった。かたやボーカロイド好きにとっては、別にアニソンを手がけても「ああ、アニメの方でも活躍するようになったんだ。よかったね。すごいね」という程度なんですよね。そこのファン層は乖離しているのかなと。

――「初音ミク」という二次元のキャラクターが挟まることで、アニメとボカロは繋がりやすいように見えるが、そうではない……。

そうなんですよね。二次元絵でニコニコ動画だし、親和性は高いだろうと思ったらそうでもなかった。

――すごく不思議ですよね。ニコニコ動画にはアニメネタのMAD動画もすごく多いし、公式配信されているアニメも数万人が楽しんでいる。ユーザーが重なりそうなものですが。

確かにアニメMADはひとつの文化として成り立っている感じもあるし、それを楽しむ土壌もあるとは思うんですが、「これは違法なもので、本来ならば唾棄すべきもの」という感覚がアニメ・アニソンファンにはあるんじゃないかなと思います。「こっそり楽しむべきもので、胸を張っていいものではない」という感覚というか。

――アニメファンとニコニコ動画のヘビーユーザーとは、明確な意識の違いがある?

やっぱり本当のアニメファンからしたら「このMAD観ました!」とは言いにくいと思うんですよ。皮膚感覚として、増長させるとアニメ文化が危ないと感じているのではないかと。今はニコニコ動画も本編が上がればすぐに消すという厳しいスタンスを取り始めました。ニコニコアニメチャンネルの配信本数の充実もあって状況が変わってきているとは思うんですけど、まだまだ根底には、そういった視点の違いが大きくあるのかなと思います。

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