アニメのゆくえ201X→

■アニメソングのゆくえ

――ニコニコ動画のユーザーとアニソンユーザーは乖離気味ということでしたが、ほかに、たとえば近年目立って見えるクラブカルチャーとアニメソングの関係性はどうですか?

アニメファンとクラブファンには共通点がありますよね。突き詰めていくと、アンセムがあるということと、シーンの移り変わりがクール毎なのでものすごく早いということ、その2点が大きいのかなと思います。ほかにも、アニメソングの多くの曲が享楽的であるということや、ビート感があって音も凝縮されている。曲をかけるDJとクラブに集まったお客さんたちが共通して熱狂できるものがある、というところ。言ってしまえば、アニメソングはアンセムがすごく作りやすいジャンルなんですよね。あとは、「これって懐かしいよね」という形でアンセムとしてかけられる曲もふんだんにある。

――アンセムのストックが大量にあるジャンルだから、クラブで盛り上がりやすいと。

例えば、『幽☆遊☆白書』や『SLAM DUNK』の主題歌のような、今のクラブのメインユーザーが幼い頃に見ていたアニメの曲をかけるとすごく盛り上がるんですよね。VJの力も大きい。イリーガルなものも多いので手放しには誉められませんが、壁にお気に入りのアニメが映写されたときの盛り上がり方はすごいですよ。フロアで拝みだしたり(笑)。そういう状況が作れるのは、アニメならではですよね。共通言語としてアニメがあるという。

――共通言語としてのアニメ、盛り上がる場の重視という話では、バンドも盛り上がっていますよね。

実感として、お客さんは「本物」を求めているんだなという感じは強くあります。アニメソングのイベントはものすごく増えて、アニソンフェスと呼ばれる大規模なものも年間に4、5本開催されるようになっている中で、豪華なバンド編成でのライブを目の当たりにする機会も多くなった。そうなるとお客さんも、マニピュレーターが同期で鳴らす音に対して、今までになかった違和感を持つようになるんですよね。アニメソングの音楽ディレクターたちにも「バンドをやりたい」という熱が高まっているように感じます。そういった雰囲気が最近、表に出てきていますね。たとえば、去年のアニサマでは一流ミュージシャンのバンドを2組用意したんです。ライザーでバンドセットごと動かして転換したんですが、ギネス申請ができるんじゃないかというくらい、すごい転換スピードなんですよ(笑)。そこまで技術が高まってしまうくらい、こだわってやっていますね。

――その強い思いは、どこから生まれているんですか?

もともとディレクターさんたちは目の前の演奏者がちゃんとバンドの音圧を出して、それにちゃんと乗っかって歌えているアニソンシンガーがいる、という見せ方をしたかったんですよね。そのためにイベントを重ねてリスナーを啓蒙していった結果、お客さんたちもよりリアルな音を求め始めた。ライブでカラオケを使って歌うアーティストに批判こそなくても、寂しいな、残念だな、と思う人たちは多くなっていますね。少し変な話にはなるんですが、フジロックやサマーソニックと同じようなスタイルで音楽を楽しもう、という感じに近づいていると思います。目の前にいるこの人がギターを弾いて、このフレーズを弾いているというリアリティにアニメソングのファンも惹かれるようになったというか。

――となると、ライブの音質への要求も上がっているのでしょうか?

アニメソングのファンはもう、どんな音楽フェスよりもPAに対して要求が高いと思いますよ(笑)。先日開催された水樹奈々さんの東京ドームライブはすごく音が良かったんですけど、それは西武ドームでの二度の公演を経験されて、その蓄積が如実に反映されたからだと思うんですよね。アニメソングのファンは、まず第一に声を聴きに来ているので、PAに対する要求が上がるんでしょうね。

――そもそも最近のアニメソングは音源の音質がすごく良いですよね。

そこも丁寧な仕事の一環ですよね。ものすごくお金をかけてマスタリングしてます。あとは基本的にProtoolsで作るので、アナログ録音の手法より音域の幅が広いんですよね。

――『けいおん!』なんて、一期と二期で音質がグッと向上していますよね。

サウンド周りの統括をされていた方が仰っていたんですが、『けいおん!』をきっかけにバンドを始める子が多かったので、その子たちに申し訳の立つようなものを作らなきゃいけないと思った、という側面も大きいみたいです。劇場版『けいおん!』のレコーディングもものすごく凝ってるんですよ。音の抜け方や生のアンプの鳴り方もそうですが、寿司屋で演奏するというシーンではムギちゃんが普段使っているシンセサイザーとは違うということで、わざわざシンセの種類を変えて再現して。さらに寿司屋の音響も考慮したアンビエンスを加えて。そういうところにこだわり始めたというのが、ヒットの要因でもあると思います。お客さんはすごく深く聴いていて、突っ込めばどこまでも突っ込めるんだということがわかって、それに応えることができた、と。

――アニメの演奏シーンの作画も本当にリアルになりましたよね。「バンドもの」でも昔のアニメでは楽器っぽいものを振り回しているだけだったのに、『ハルヒ』の文化祭のシーンでは運指レベルで作画にこだわって、最終的に『けいおん!』に行き着いたような。

すごいですよね。どの弦が揺れているのかまでわかりますし、正直「アニメーターさん、大丈夫かな」と思いますよ(笑)。やっぱり、アニメーションの映像の向上とアニメソングの進化って切っては切れない関係なんですよね。アニメソングがこれだけ多様化しているのも、アニメの映像表現が広がって、作品として取り上げられる題材も広がったというのも大きい……というか、一番影響を与えているのはそこだとすら思いますね。それがなければ、アニメソングはいつまでたってもJ-POPに対して下の、小さな輪の中で遊んでいる人たちの音楽、というだけだったかもしれません。

――冨田さんは、そうした流れを経て、これからアニメソングの未来はどうなると考えていますか?

まず、今のレベルからクオリティを下げられないでしょうね。少し手落ちがあると痛い目を見る状況になっていて、それはこれからも変わらないでしょう。これはアニメソングを作っている人たちが今一番意識しなきゃいけないことだと思います。

あとは、やっぱりアニソンのユーザーはみんなアニメ作品そのものが好きなんですよ。「リスアニ!」のアンケートを読んでみてもよくわかります。アニソンはやっぱり、いい意味での副産物なんだと。最初にも言ったとおり、僕自身は「アニメと関係なく音楽としてアニメソングを楽しんでいる人たちもいるんだよ」ということを表明して、その文脈で語ってきたんですが。作品にできる限り合わせて作られたアニメソングが「良いアニメソング」で、その良さがちゃんとユーザーにも認められる状況にある。そのうえで、ユーザーの寛容さが作品の多様さを認めている。

だからアニメソングに関しては、今が一番裾野が広がっている時期なんじゃないかと思うんです。色んな楽曲が「アニメソング」という同一のフィールドで語れる状況は、ある種の奇跡みたいなものだと思います。その奇跡が未来にどうなっているかは、正直なところわからないですね(笑)。

――素晴らしい未来に期待したいですね。では本当に長時間ありがとうございました!

(2012年2月4日収録)

インタビュー/構成:前田久(@maeQ)草見沢繁(@shigeru_suso

冨田明宏氏
冨田明宏@tomitaakihiro
タワーレコードでバイヤーとして活動。同時に音楽雑誌やCDのライナーノーツなどで執筆を続け音楽ライターとなる。アニメ関連アーティストのインタビューを数多く手がけ、07年には「アニソンマガジン」、10年には「リスアニ!」の創刊に関わり、現在はNHKラジオ第一「渋谷アニメランド」のパーソナリティも務めている。アニソン・シンガーや声優イベントでMCを数多く担当、女子中学生ユニットClariSの発掘やアニソン・シンガー黒崎真音のプロデュースを担当するなど、音楽評論家/プロデューサーとして唯一無二の活躍を続ける。株式会社一二三所属。

連続特集:アニメのゆくえ201X⇒

第1回 アニメ評論家 藤津亮太氏インタビュー「2011年もチャンネルはいつもアニメですか?」
第2回 サンジゲン松浦裕暁代表インタビュー「二次元からサンジゲンへ―3DCGで描くアニメのNEXT」
第3回 ニトロプラス代表でじたろう氏インタビュー「混沌のアニメ業界に輝くクリエイター集団の輪郭(エッジ)~これまでとこれから ニトロプラスの10年」
第4回 ウルトラスーパーピクチャーズ 松浦裕暁代表インタビュー「BLACK★ROCK SHOOTER 今から始まるウルトラースーパーピクチャーズの物語」

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