■『アタゴオルは猫の森』野口周三×山国秀幸対談

■広く受け容れられるエンターテインメントを目指して

野口:この作品では音楽が大きな位置を占めてますね。その話も伺いたいと思います。

山国:先ほどお話したように、音楽シーンをたくさん取り入れるということは最初から決めていたので、そのために、派手なところあり、ゴスペル風あり、バラードあり、すごくポップなものあり……というバリエーションの豊富な注文に対応できる方で、同時に高級感も出せる方って誰だろう、ということをプロデュースサイドと監督で相当長時間議論をしていました。そんなときに、野口さんにご相談してみたら「石井さんはどうですか?」と言う話になったんですよね。

野口氏

野口:ちょうど石井さんとお仕事をさせていただいていた時期で、米米クラブが再始動するという話もマスコミに発表がある前に知っていたので、音楽性の面はもちろん、話題性の面で考えてもいいんじゃないかと思ったんですね。

山国:僕も元々、米米クラブの音楽はよく聞いていて好きでしたので、音楽プロデューサーと監督に推薦しました。監督も業界の知人を通じて、いろいろヒアリングされていたようでした。正式にお願いする決め手になったのは、音楽の世界観はもちろんの事、映像表現にも理解があって、ある程度映像の完成形を想像しながら音楽をつけていただける方だという点でした。しかも、お声がけしてみたら、石井さんも『アタゴオル』の原作がお好きだということで、結果的には凄くいい形に収まったと思っています。

野口:石井さんご本人を模したキャラクターがOPに登場されていたのには驚きました。「石井さんノリノリなんだなー」と(笑)。

山国:OPに使う曲のイントロに凄くいいMCが入っていたんですね。それだったら、そのMC猫を石井さんのキャラクターで登場させよう、と制作サイドで進めたんです。結果的にはモーションキャプチャーまで石井さんにやっていただいきました。あまりにもCGの動きが石井さんそのもので、僕たちも面白かったんですが、誰よりもご本人が爆笑されてましたね。とってもオシャレな方なので、モーションキャプチャーの動作収録用の全身タイツを着るのは嫌だったでしょうけど(笑)。

野口:ミュージカル仕立てであったり、万国共通で受け容れられ易い動物のキャラクターであったりと、海外でも人気が出そうな要素があるな、と僕は思うんですが、海外展開も今後はあるんでしょうか?

山国氏

山国:海外展開はしやすいように、日本語を文字として場面に出さない、とかそういうところは注意してもともとコントロールして作っていました。今月の15日に釜山映画祭でスクリーニング(業界試写)もやりますし、来月サンディエゴのAFM(アメリカンフィルムマーケット)でもスクリーニングをやります。ヨーロッパ方面ではもうオファーも貰っています。大体、ピクサーとは一味違うし、かといっていわゆる「ジャパニメーション」「Anime」的な日本のアニメでもない、不思議な映画というところでみなさん観ると驚かれるんですよ。そして野口さんのおっしゃる通り、猫というのは万国共通に人気があって、それが暴れまわる作品の反響はいい。世界中の方に観ていただく機会が、今後も増えていくと思いますね。

■最後に

キービジュアル

野口:それは希望がもてる話でいいですね。今後、日本の作品がそういう新しい形で世界に出て行くことがどんどん増えていくといいと思います。そこで、最後にちょっと『アタゴオル』から離れますが、「ぷらちな」を主に見るクリエイター志望の子たちに向けて、プロデューサーとしての観点から一言アドバイスをもらえますか?

山国:そうですね……面白い企画って、実は世の中にあるようでなかったりするんですよね。ですから、ちょっとでも自分が面白いことを思いついていると思ったら、どんどんプロデューサーを掴まえにいって、ご自分の企画を発表する場を貪欲に求められるといいのかな、と思いますね。僕は今回は映画をやりましたけど、劇場公開とはまた違った形態で展開していく形の企画やプロデュースの機会も凄く増えてきています。、クリエイターのチャンスもとても増えていると思います。僕らの会社にしても、『APPLESEED』や『アタゴオル』に続いて、新しいメディアや、国を飛び越えるような色々な企画にチャレンジしていきたいと思っています。みなさんがもっている、金の卵をドンドン出していって欲しいと思いますね。

野口:なるほど。それでは、本日はありがとうございました。

構成:前田久(ライター)

→映画「アタゴオルは猫の森」公式サイト
→ミコット・エンド・バサラ

原作マンガ「アタゴオル」について

公式サイトの年表を見てもわかるとおり、『アタゴオル』は30年以上も前から「ガロ」「マンガ少年」「コミックフラッパー」など雑誌を変えて、断続的に描かれてきた作品だ。「ガロ」や「マンガ少年」は、いまはもうないが、日本のマンガ史のうえでは、とても重要な雑誌。かつてマンガは“子供の読むもの”で、今のようにマニアックな作品や新しい表現を積極的に楽しむような読者は多くなかった。そんな、マンガが「若かった」ころに発表された『アタゴオル物語』は、ただちょっとヘンテコなファンタジーというだけじゃなく、とても新鮮な、エッジの利いたものだったのだ。

個性的なキャラは時代を超えて親しまれる。われらがヒデヨシ君もそうだ。彼は原作では、アニメよりももっとのんきで、だらしがない。昼間からお酒を飲んで寝ているような奴だ。でも、彼が棲む「アタゴオルの森」には、ぼくらとは違ったゆるやかな時間が流れている。その、どこか澄んだ感じのする空気感は、いまもちっとも色あせていない。たとえばヒデヨシは流れ星を呼ぶ「星笛」を吹き、それを悪い「欠食ドラネコ団」に盗られたら、プロレスみたいな決闘をして取り返す……お祭りがあって、花火をして、歌をうたい、雲に自分の姿を写して、そこでお芝居をやってみたり、お酒を飲み、葉っぱの本を読み、ひょうたんみたいな形の家を訪ねる……彼らは、いつも楽しげに、豊かな時間を過ごしている。いまでいえば「癒し系」とくくられそうなところだが、そこには収まりきらない「影」のようなものも感じられる。真のファンタジーのみが持つ「夢」のリアリティがここにはあるわけだ。ますむら・ひろしは猫のキャラをつかって、『銀河鉄道の夜』など宮沢賢治の童話もマンガ化している。

とても幸いなことに、映画化にあわせて『アタゴオル物語』は文庫化されている。手にとって、アタゴオルの風を感じてみてほしい。

「アタゴオル」のコミックス一覧(amazon)

伊藤剛(マンガ評論家)

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