イメージ:主人公=松方のファッションは通常のアニメの数倍設定がつくられた

ぷらちなインタビュー アニメを変えるキャラクターのファッション―ノイタミナ『働きマン』の挑戦(3/3)

■困難を乗り越えマン

――実在する洋服を参考にするという点で、アニメで表現するのは難しかったところもあるかと思いますが、どうでしょうか。

写真:膨大な量のファッション誌のスクラップを見ながら

小野 いちばん難しかったのは、レースですね。もちろん一枚絵としては描けるんです。でも、アニメはそれが動くわけじゃないですか。だから、動きの最初と最後の一枚絵は描けても、その間を描いていくときに、レースの穴がどこかというのは、描くのが大変なんです。柄モノやボーダーも大変です。花柄なんてとくに難しい。やってやれないことはないですが、不可能に近いですね。映像的にもストライプや柄モノは目にも良くないんですよ。

――逆に言えば、キャラクターが動かないシーンでは、レースや柄モノも使えるということですよね?

小野 そうです。だから絵コンテを描いている段階で、「これは椅子に座って話してるだけだから、ここは柄モノを入れよう」って(笑)。

――なるほど。いちばん大変なのはなにでしたか?

小野 やはり、マユのスカートのレースを描くのは大変でした。

中野 すみません。ダメだと言われてるのに、選んでますから(笑)。

――しかし、レースも描かれたわけですよね?

図版:描き込まれたマユのスカートのレース

小野 ええ。レースであれば、透ける感じを影で工夫しました。たとえば、下に赤い服を着ていて、その上に白いレースが重なるような場合だと、白のなかに赤みのかかった影を入れることでレースを表現します。下に着ているはずの色を影で見せるんです。

――洋服の素材感を、いかに表現するかということですね。

小野 そうですね。アニメは全部ベタ塗りじゃないですか。デニムならブルーにするなどで表現できますが、レースは実際に描かなければいけないですから大変でしたね。ほかの素材だと、たとえば光沢の入れ方で服の素材感を表現します。皮の光沢だと簡単なんですが、ベロア調のフワッとした光沢はできないので、影の面積とか明るさを変えることで素材感を出しますね。

――やはり影で工夫されるわけですね。

小野 それとアニメは黒い実線で区切られますよね。たとえば、洋服に合わせてその実線を黒ではなくグレーにして、柔らかく見せるような工夫をします。

――ファッションといっても、洋服だけじゃなくて、スクラップブックにはネイルアートの写真もありますね。

図版:ちゃんとフレンチネイルで塗られている

中野 ええ。目立たないですけど凝ってます。プロデューサーの松崎(容子)も、ネイルはちゃんとやって欲しいと。

小野 過去に、ここまでネイルに凝った作品はないですね(笑)。口紅にも凝ってますよ。

――それだけでなく、小物やアクセサリーなどにもこだわりが感じられますね。

小野 わざと足下を撮して、靴を見せたりしています。時計もしょっちゅうアップがありますね。同時にネイルも見せられるじゃないですか。せっかくやってるんだからネイルも見せてあげようって(笑)。一話に一回くらいは、部分アップを撮るように気をつけました。

■アニメを変えるサムライ達

深夜の時間帯に、アニメファンだけでない女性をターゲットにするという条件下で、『働きマン』は大成功を収めました。その理由のひとつとして、キャラクターのファッションへの気配りがあったことは間違いありません。従来のテレビアニメの常識を超えたファッションアイテムに対するこだわりは、新しい視聴者に作品のリアリティを感じさせることへと繋がったはずです。

図版:さりげない部分にリアリティが宿る

主人公=松方をはじめとする大勢の働きマン達が、自然な存在として視聴者に受け入れられること。それがこのアニメの成功の鍵を握っていたといっても過言ではありません。

ファッション以外でも『働きマン』では「ウィダーinゼリー(森永製菓)」「おかめ納豆」「TSUTAYA」といったお馴染みのブランドとのタイアップによって、ドラマさながらに、実在の商品パッケージや企業のロゴが画面を飾っています。オープニングで主人公の松方が駅構内を走るシーンでも、東急東横線から山手線に乗り換えるルートを「いつも使っている人ならわかる」くらい再現しています。小野監督は、リアルな現代劇を描くため、カメラ片手に多くの場所にロケハンに行ったといいます。

ノイタミナがうたう「連続ドラマの様なアニメ」というコンセプト。従来のアニメの常識を覆したいという想いは、スタッフの細かな心配りと地道な努力の積み重ねによって実現されたのです。

インタビュー:松谷創一郎 前田久
構成:松谷創一郎

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