ライトノベル&イラストレーション

■書店員から営業へ――一冊の本ではなく、多数の中の一冊として

そんな大塚さんは、現在、ライトノベルレーベル富士見ファンタジア文庫を刊行する、株式会社富士見書房の営業職(マーケット企画部)として働いています。書店員が、読者に本を届ける仕事なら、営業は書店と読者に本を届ける仕事といえそうです。

では、そこでは具体的にどのような仕事をされているのでしょうか?

大塚:まず、さまざまなデータを参照しながら、この作品は何部印刷するのかを決定する、部決という役割があります。また、POPをはじめとした販促物を企画したり、本屋さんが本を注文するための「注文書」という書類を作っています。また、基本的にはカバーのデザインを決めるのは編集さんの役目なのですが、それに関して意見を求められることもあります。

写真

重要なのは、編集とは違う視点を持つ、ということですね。編集者の方は、どうしても一冊の本を編集する、という視点から本を作ります。しかし、実際にその本が書店に並ぶ際には、あくまで富士見ファンタジア文庫の複数の作品と並んで売られるわけです。隣にならんだ本と見比べて、その本は、どのようにアピールできるか? そうした「商品としての本」という視点から、編集さんの周辺部をフォローしていくのが、営業の仕事だと言えます。自分の場合、机の上で本屋さんの平台をシミュレートしたりもしているんです。

近年、ライトノベルのカバーデザインとして一潮流をなしている「白地にキャラクター」というデザインに関しても、大塚さんは「周辺の視点」から説明します。

大塚:背景まできちんと描くとイラストの完成度は高まりますが、情報量が重くなり多くのライトノベルの中で沈んでしまう。その中で『灼眼のシャナ』のような表紙は、情報量として「軽い」ために、ライトノベルの中で「浮かぶ」んですね。ただし、最近ではこうした形式が一般化しすぎたせいで、逆に背景まで描いた表紙の方が目立つ、という逆転も起こっています。

かつて、ライトノベル黎明期には、キャラクターイラストがカバーということだけで目立つことが出来ました。しかし、ライトノベルの点数が増えるにつれ、「ライトノベルの中でどう目立つか」が重要になってきた。少しまえに刊行された「イラストのないライトノベル」も、そうした観点から選択された形式でしょうね。

書店員としての経験を生かし、現在、大塚さんは書店の棚作りのサポートを検討しているといいます。

大塚:「とらのあな」のような専門店や書泉のような大型店には、ライトノベルに詳しい担当がいますが、全国の書店で必ずしも詳しい人間がライトノベルを担当しているわけではありません。そういった書店で、いかに、アピール力のある陳列をしてもらうかが課題ですね。そのために、注文書を新しく作ったりしています。全てのお店に我々がいけるわけではないので、注文書にある説明に従って陳列していけば、ちゃんと見栄えのいいレイアウトになるようなものです。

営業として、いい作品を、ちゃんと読者に届ける、という仕事をしていきたいと思います。

3/4
次ページへ



  最近の記事

ぷらちなトップページに戻る ぷらちなへお問い合わせ