ライトノベル&イラストレーション外伝 消えたライトノベル作家その1 江古田東京砂漠にまぼろしのぶらじま太郎を見た!(総集編)

江古田東京砂漠にまぼろしのぶらじま太郎を見た!(総集編)

5.ぶらじま太郎はなぜ消えたのか?

作家ぶらじま太郎は、たった一冊きりで、沈黙した。
その理由もやはり、前述の「反省」にあるのだろうか?

続編の企画は通ってたんだよ。実は。というのも中村が、企画出せ出せって言うから、しょうがないんで三本ぐらいタイトルだしたの。その中に『東京忍者〈完結編〉』とかもあったんだけど。

けどねえ、中村が人生を投げちゃった。

ぶらじま注:3本位 通ってた。内容は忘れたけど。


人生を投げた。
編集者の中村氏が、退社されたということだろうか?


会社じゃなくて、人生を引退してしまったんだよ……(笑)。

彼は、元祖オタクの一人なんだよね。才能はある人間だったんだけど、根性というか、世の中に対応しようとする気が欠けていた。オタクの先駆けだったはいいんだけど、先を走りすぎて、ニートの最先端であり、引きこもりの最先端になってしまったの。

ニートとか引きこもりとかいう言葉ができる前から実践してるんだから、ある意味立派だよね。

で、シリーズものを出している作家のひとならまだしも、俺に関しては、編集者の引継ぎとかもされなかったみたいなんだよね。

企画にしても、自分が書きたいんじゃなくて、書けと言われて書いたものだったから、俺の方から催促するなんてことをするわけもなく、そのまま流れてしまった。

ぶらじま注:N村は現在も健在であり、年に数回 江古田で麻雀に呼び出される。


かくして、企画されていた『東京忍者〈完結編〉』は幻の一冊となり、ぶらじま氏は、『東京忍者〈総集編〉』たった一冊を残して、ライトノベルから離れることになった。

なんだか波乱万丈に聞こえるかもしれないけど、あくまで本業はサラリーマンだからね。俺にとっては生活はずっとそれなりにあるから、それはあくまで人生の一割二割。

わずか一作で作家から引退してしまった氏だが、再び小説を、たとえば『東京忍者〈復活編〉』を書くことはないのだろうか?

そういう気はすこしある。

でも、俺の基本は企画屋なんですよ。面白そうだな、という企画はたてられるんだけど、根が不真面目なんです。どんなコメディ映画でも、やる人は真面目にやらないと面白くないですよね。その作業が面倒くさい。だから、企画を考えても、自分がそれを一冊書くとなると、途端にやる気がなくなるんだよねぇ。企画だけ渡すから、誰か代わりに書いてくれたらいいのに(笑)。

で、そういう人間が小説を書くと、『東京忍者』になるわけですよ。これは楽しかった。先を考えずに思いつくことだけをずらずら書いただけだから。

たぶん、ライトノベルの黎明期であったことが私にとってはよかったよね。今、書いている人は、そこまで自由にはやらせてもらえないと思うんですよ。だから、俺がまたこういうことをやりたいと言ってもできるか。かつての知り合いの編集者も、みんな偉くなっちゃったし、いまさらこんなしょうもない本出させて、とは言えないし。

そう語るぶらじま氏であったが、「もし、本当に」依頼があり、「あんまりせっつかないで、そこそこに催促してくれるなら」と、復活の可能性が皆無ではないことを匂わせてくれた。もし、これを読んでるライトノベル編集者の方がいらっしゃいましたら、どうでしょう、ひとつ、『東京忍者』の復刊とあわせて検討してみてくれませんか?


さて、そんな、ぶらじま氏だが、最近、ちょっとした思い付きから自分の名前を検索し、いまだ『東京忍者』が話題になっていることに驚いたという。

ライトノベルの三大奇書の一冊、とか書いてくれる人もいたかな? まさにそのとおりだな、と思った。

俺と同じように一冊出しただけという人はいるだろうし、話題にもならないまま消えていっている人だっていっぱいいると思うんです。それにくらべると、出版してから十六年も経ってるのに、あなたのようにわざわざ会いに来てくれる人がいたり、ネットで話題にしてくれる人がいるのはうれしいですね。

そのように言ってくれたぶらじま氏。

ぶらじま氏に会ってみたい、こんなヘンな小説書いた人が、どんな人だか知りたい。

そんな素朴な思いから始まったインタビューだが、氏の半生を通じて『機動戦士ガンダム』から『究極超人あ~る』、そしてライトノベルまでが接続する、オタク版のプチ『フォレスト・ガンプ』とでもいうべき、貴重なお話をうかがうことが出来た。

突然のことにもかかわらず、貴重なお時間を割いていただいたぶらじま氏に、心からお礼を申し上げたい。


ありがとうございました!


さて、最後にすこしだけマジメな話をしよう(そういえばここは「未来のクリエイターを応援する注目エンタメ&スキルアップ情報サイト」であることをいま思い出した!)。

『涼宮ハルヒの憂鬱』の大ヒットなどをきっかけに、いまや、コンテンツ・ビジネスの中核的存在にまで上り詰めた感のあるライトノベル。

だが、そうしたブームの一方で、本来、「なんでもアリ」だったはずのこのジャンルに「こうでなければ」という硬直化が起こっていないだろうか。特に、ライトノベル業界の中にというより、ライトノベル作家を目指す志望者の中にである。

この文庫の新人賞は○○のような作品が受ける。このレーベルは××のような作品しか受賞しない。

そうやって、自らの可能性を、自ら狭めてしまっていないだろうか。

あらゆる文化、あらゆるジャンルには歴史がある。

行き詰まりを感じたときは、その原点に立ち戻ってみるのも一つの方法だ。

どうか、本インタビューや『東京忍者』を通して、ライトノベル黎明期の自由さに触れることで、ライトノベルの「何でもアリさ」を再確認していただければ幸いである。

(2007年7月7日・江古田某所にて収録)

インタビュー/構成:前島賢

<次ページに、ぶらじま氏から本インタビューに寄せられたメッセージを掲載!>

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