ライトノベル&イラストレーション外伝 消えたライトノベル作家その1 江古田東京砂漠にまぼろしのぶらじま太郎を見た!(総集編)

江古田東京砂漠にまぼろしのぶらじま太郎を見た!(総集編)

4.そして『東京忍者』へ

『東京忍者』の話を聞くはずが、思いもがけず『伝説巨神イデオン』や『究極超人あ~る』まで時間を遡る、スケールの大きな話となったこのインタビュー。

ともあれ、いよいよ話は核心たる『東京忍者』に入る。

この前代未聞の書は、いったいどんな経緯で刊行にいたったのか? 偉い人は誰も止めなかったのか?!

江古田には、編集者もけっこういて、とまとあきなんかが『スターダスト・ラプソディ――宇宙豪快ダイザッパー』(1989年/富士見ファンタジア文庫)とか書くようになっていたんだよね。で、とまとの編集をやっていた中村秀敏(『東京忍者』には「N村」として登場)が、『ダイザッパー』の解説を書けって言ってきた。俺、とまとの本とかほとんど読んでないし、『ダイザッパー』も読んでなかったんだけど、それでも「書け書け」って言うのね。だから、それでもいいなら書くよって言って、読まずに書いた解説が『東京忍者』のはじまり。

中村秀敏
中村氏もまた、初期のオタク文化を支えた名編集者として数々の伝説を残している人物である。たとえば、元「アニメック」編集長・小牧雅伸氏(氏も「まんが画廊」の常連であったという)によるウェブ連載コラム「アニメックの頃…」でも言及されている。中村氏への言及に限らず、本インタビューで黎明期のオタク文化に興味を抱いた読者は是非、読んでいただきたいコラムである。
⇒TORNADO BASE / アニメックの頃…

何を言っているかわからないと思うが、本当に、塚本裕美子・とまとあき共著の『スターダスト・ラプソディ――宇宙豪快ダイザッパー』のおしまいのページには、「東京忍者」という小説が唐突に載っているのである。文庫『東京忍者』で言えば、「前回までのあらすじ」の部分がそれにあたる。

そのあと中村が俺に一冊書けって言うんだけど、俺の反応としては当然、「いやだ」なわけですよ。めんどくさいじゃん。別にもう働いてたから、そんなもん書かなくても食ってけるし。

で、角川春樹の息子さんの太郎さんかな? とにかく一族の偉い人が、それを気に入ってくれたらしいんだよ。「こいつは何者だ、こいつに一冊書かせろ」って。

中村もせいぜい二十そこそこの下っ端で、上からの命令に逆らえるわけないんだよね。上司が思いつきでものを言うと、部下が苦労するって典型かもしれないけど、とにかく、中村も、上からせっつかれて、俺に、早く書け早く書け、と言うようになった。だから、しょうがないなぁ、と。

なるほど。むしろ、偉い人が率先してあれを書かせようとしていたとは。 さすが出版界の風雲児・角川一族、というエピソードである。

ぶらじま注:このへんのニュアンスは、多少ちがうかもしれない。よく分からない。けど。

まあ、これが普通の小説だったら、何月に出版するから何月までに原稿あげて、という話になるんだけど、俺の場合は、とりあえず出来たら出そう、という感じで進めてた。で、先をどうするかとか全く決めずに書いていた。で、俺はもともと自分の文章を人に読まれるの好きじゃないので、編集の中村にも読ませたくなかったのね。だから、打ち合わせと称して、いつも麻雀やってた(笑)。それでまあ……結果として生まれてきちゃったのが『東京忍者』。

三万くらい刷ったのかな。増刷はしなかったけど、赤字は出さなかったはず。印税は全部飲んだね。他にちゃんと仕事していたから、一銭も残らなかった。

ぶらじま注:んじゃないのかなあ。程度。結果は良くは知らない。でも後で、オークションでは高値が付いてたね。


そうしてついに世に出た『東京忍者』。 反響はどうだったのだろうか?

読者の反応はそんなに悪くなかった。だけど、他の作家から「あれでいいのか。あれでいいなら、俺もやりたい」と言われてしまったんだよね。それを聞いたとき、ちょっとまずいことをしたと思った。

いろいろ実験したかったんだよね、とか言われたりするんだけど、何をしたいというわけでもなかった。俺は、当時もサラリーマンで、後先考えなくていい立場だったから、何の責任ももたない、没なら没で結構です、という気持ちで書いていた。だけど、本当に小説家として食っていこうとしてる人はできないよね。禁じ手ばかり使っている話だからさ。

だから、その時だけは反省しました。適当な俺がまだ憶えているってことは、けっこう心に刺さったんだろうな。

でも逆に言うと、そんな禁じ手ばかりの小説を受け入れてくれるだけの、すごくいい言い方をすれば、度量というものが、当時の業界――少なくとも富士見書房にはあったんだろうね。

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