コンベンションのススメ ―MYSCON9レポート

コンベンションのススメ ―MYSCON9レポート―

続けて、近藤先生がノヴェライズを手がける『遙かなる時の中で』へと話題が移ります。平安時代風の異世界へ召還された飛ばされた八人の男性と交流を深めることで、「鬼」から京を守る、というゲームです。


近藤 発売直後に購入してハマってしまいまして。カウンセリング恋愛とでもいいますか(笑)、一人一人の心の傷をいやしてあげると仲が深まっていく、というところがツボでした。  ウェブサイトに、プレイ日記のようなものを書いていたんです。登場キャラクターと私が会話する、という半分小説的なものだったんですが、コーエーと付き合いのある友人が、それを見てコーエー出版部に紹介してくれて、それで外伝執筆の話がきました。私にとっては好きで、楽しくやらせていただいている仕事です。

杉江 テイストは、でも、ちゃんと近藤作品になってますよね。児童虐待とか、重いテーマもあつかわれている。

近藤 わりと自由にやらせてもらいました。セリフや口癖にはすごく詳細な設定があるんで、そこはだけは守らないといけないんですが、物語の中身については、すごいくらいことを書いても大丈夫でした。虐待の話も、末法の世で子どもがつらい思いをしている、という話が設定としてはでてくるので、それを膨らまそうと。


MYSCONでありながら、女性の参加者の中には、同小説版の読者も多いのか、参加者からも質問が寄せられます。「書きやすかったのは誰?」という問いについては、


近藤 橘友雅のような、なんでも知っているキャラクターは、使い勝手がいいので書きやすかったです。それとは別に、源頼久が出てくる話は、なぜかクオリティが高めになるっていう法則があります。話としてイメージが広がりやすいのかな、と自分で書いていて思いました。


とのこと。インタビューは警察小説『狼の寓話』や、そして犬好きの近藤先生らしい、愛犬の話などを経て、恋愛小説『アンハッピードッグズ』の話題なども。


杉江 『アンハッピードッグズ』は、近藤さんには珍しく、ミステリ要素のない恋愛小説ですよね。ミステリのほかにも、こうした恋愛小説、というか、ドロドロした情痴小説という方向も、近藤さんにむいてるのでは、と思ったのですが?

近藤 やっぱりいうどろどろした話は書いてて楽しい。フィクションとしては大好きです。 ただ、話を作るときには、ミステリとしての枠組みから考えていく癖がありまして、ある程度しばりがあったほうが、話がひろがったりするんです。  しばりがないと、どこでもりあげてどこで話を終わらすかがイメージしにくい。『アンハッピードッグズ』については、ミステリじゃない恋愛小説がやりたくて書いた作品ですし、最後のカタストロフを念頭におきながら書いていたので、ミステリじゃなくてもできたんですが。


そして質問は、大藪賞を受賞したヒット作『サクリファイス』に。


杉江 プロローグが効果的に使われているのも、近藤さんの作品の特徴ですよね。『凍える島』の「断章」や、『サクリファイス』の最初の1ページなど。

近藤 あれは最初なかったんです。あまりに、後半になるまで何も起こらないんで、これだとミステリだと思ってくれないんじゃないかと。

杉江 でも、ロードレースの話だけでも面白いですよね。ロードレースという特殊な競技の事情が、小説の骨子になっていて、読んでいるうちに、ロードレース自体に引き込まれていく。きっかけはなんだったのでしょう?

近藤史恵先生インタビュー

近藤 きっかけは、自転車の購入を思いついたことです(笑)。  私は興味を持つとバカみたいに調べる人間なんで、自転車にはどういう種類があって、どういうものが人気あるのか、いろいろ見ているうちに、自転車というもの自体が非常に魅力的だなと思って、じゃあレースも観てみようかな、と。  もともとヨーロッパの風景や言語が好き、ということもあり、そうした理由も重なって、2005年のジロ・デ・イタリア(グランツール・3大ツールと呼ばれる世界でもっとも有名なレースの1つ)というレース観たんですが、最後から1つ目のステージがものすごくドラマチックな展開だったんです。

杉江 編集者というのは、自信のある本を作ると、発売前に関係者にゲラ(印刷にかけられる前の原稿をコピーしたもの)をまいたりするんです。で、そこに、宣伝のための口上をつけたりするんですが、まあ、普通はA4・1枚くらいなんですね。ところが、『サクリファイス』の編集者であるA井さんがつけたのはなんと4枚! 今日は、ちょうど会場にA井さんもいらっしゃってますし、ちょっと読んでみましょうか(笑)。(ここで会場から「やめて!」というA井さんの悲鳴)


ということで、会場にいらっしゃっていたA井の前で、A井さんが書いた「最初の三章をよんで傑作を予感し、ロードレースに引き込まれた」という『サクリファイス』の紹介文を杉江さんが朗読する、という一幕を。


近藤 本当にありがとうございます。  これまで、たくさん本を出してきましたが、手にとって下さる方が少なかった。こういったものを作ってくださった後、プルーフ(小説の概要を書いたもの)もたくさん配ってくださって、それを読んだ書店員の方が、実際に手にとって読んでくれて、手書きのポップを作ってくださった。評論家の人たちもみなさんの中にも、新井さんが推してたから読んだよ、という方がいてくださって。きっとそれがなかったら、大藪賞の候補にもならず、本屋大賞2位という結果もなく、これまでどおり、一回ぐらい増刷かかっておわりだったかな、と。


時間もおしせまり、気になる新作について杉江氏が質問すると、6月に『タルト・タタン』の続編が刊行されるとのこと。来年には〈整体士〉シリーズ、〈キリコ〉シリーズ、『狼の寓話』の続編が刊行予定、など次々と新作の情報が。 『サクリファイス』の続編が新潮社携帯文庫で今年から連載開始、来年には単行本として刊行されるようで、今度は海外が舞台だそうです。  さらには、メディアファクトリーから小学校女子向けの児童文学も、早ければ来年に刊行されるといいます。


近藤 お嬢様学校の四人がチームを組んで探偵をするという、女の子があこがれる話を書きたい。


とのことでした。

最後は、客席の参加者から、近藤先生への花束の贈呈が行われ、拍手とともに第1部は終了しました。

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