【ぷらちな】『超速変形ジャイロゼッター』ロボットアニメを今作る、という挑戦/藤津亮太のアニメ時評‐帰ってきたアニメの門 第10回

[第10回]『超速変形ジャイロゼッター』ロボットアニメを今作る、という挑戦

 この秋からスタートした『超速変形ジャイロゼッター』はいくつかの点で非常に興味深い作品だ。

 まず一つは制作会社A-1 Picturesがマーチャンダイジング中心のキッズ(本稿では未就学児童から小学校2年生ぐらいまでを想定している)向け作品を初めて手がける点。これまでハイターゲット向けの、パッケージソフト販売で回収するタイプの作品を中心に手がけてきた同社にとって、企画の幅は大きく広がったことになる。

 そしてもう一つが、キッズ向けでロボットを中心に置いた作品であることだ。もちろんロボットものといえば、現行タイトルにも『ダンボール戦機W』があるが、これと『超速変形ジャイロゼッター』の間にはかなりの違いがある。では、その違いはなにによるものなのか、考えてみたい。

 『超速変形ジャイロゼッター』の舞台となるのは、2012年の日本。子供でも運転できるエーアイカーが開発され、モデル都市・横浜新都心のアルカディア学園では子供たちがエーアイカーの運転技術を学んでいた。だが実は学園は、来るべき敵に備えた防衛機関アルカディアでもあった。主人公・轟駆流(カケル)は、変形能力を持ったエーアイカー、ジャイロゼッターのドライバーとなって戦うことになる。

 本作のメインの商材は、番組と同名のカードを使ったアーケードゲーム。もちろんそのほかに携帯用ゲーム、メインメカであるロボットの変形玩具もぬかりなく用意されている。

 この関連商品の多さと発売の素早さは、同作が期待のビッグプロジェクトであることをうかがわせる。

 マーチャンダイジング中心のキッズ向けアニメの歴史を振り返ると、ゲームを原作とした『ポケットモンスター』シリーズと、カードバトルの元祖的存在である『遊戯王』シリーズを無視することはできない。一言で言えば、キッズにとってバトルとは「何者かを呼び出して戦わせること」だということだ。「自分が操る非ロボット玩具で戦う」(ミニ四駆、ベイブレード、ビーダマンなど)路線に、この「使役」によりバトルするこの流れが一大潮流として加わったのが’90年代後半の出来事だ。

 『ダンボール戦機』シリーズを見ると、ロボットものとしては異端ともいえる、外部コントロールタイプだが、これは’90年代後半から生まれた「使役バトル」の要素を巧みに消化した結果だ。ロボットのサイズがかなり小さ目なのも『ポケモン』以降を感じさせる。

 これに対し『ジャイロゼッター』のコンセプトは「自動車」。これがロボットに変形して戦う。つまり「使役バトル」が当たり前のキッズに対し、『ジャイロゼッター』は「乗り込んで戦う(広義でいえば、これは変身と同義だ)」というオーソドックスなロボットものの魅力でアプローチを仕掛けてきたというわけだ。

 だが、これは「復古的」というわけではない。

 かつてのロボットものは、合金製玩具を媒介として、子供はそこに自分の思いを投影して遊んでいた。それは人形ごっこの延長線上にある。

 それに対し『ジャイロゼッター』は、その操縦感覚を前面に打ち出している。メインの商材であるゲームは、画面中のメカが自動車からロボットに変形すると、筐体も“変形”して操縦方法が変わることが売りの一つ。つまり「実際にジャイロゼッターを操縦できる」ということがアニメと現実を繋ぐ接点となっているのだ。この感覚はかつてのロボットアニメの「人形ごっこ」とは異なり、むしろ売られているカードや玩具が劇中に登場する仕掛けの延長線上に位置すると考えたほうがすっきりする。

 つまり「乗り込んで戦う」という古典的なロボットアニメの魅力を、「操縦感覚」をキーにしてキッズ向けに復活させようというのが(アニメ側から見た)『ジャイロゼッター』のチャレンジということになる。

 アニメ本編のおもしろさ、ゲームのおもしろさが必要であることは言うまでもないが、使役バトルには薄い「操縦感覚」が子供たちの潜在的ニーズをうまく掘り起こせば、また新たなキッズアニメの流れが生まれるはずだ。

 そしてさらに注目したいのは、トヨタ自動車を筆頭に自動車メーカーがこの作品に協力している点だ。

 現在、若年層を中心に自動車が売れていないと言う。そんな状況ではあっても、キッズにとっては車は非常に身近にあって、十分に魅力のあるガジェットである。

 自動車メーカーからすれば、子供時代からシンパシーを持ってもらうことで、将来自動車ユーザーになってくれる可能性も高まる。アニメ側からすれば、実在の車を登場させることで、子供にもわかりやすいかたちでリアリティが担保される。

 実在の自動車を取り扱う以上、さまざまな困難が生じることも少なくないだろう。だが、玩具・ゲームなどのメーカーだけではない、新たなスポンサーの可能性を探る意味でも、こうした実在のメーカーとのコラボレーションはもっと広がってほしい。

 かつて’70年代中盤から’80年代半ごろまでの間にメカものに人気があったのは、現実の中に機械式だったり、重量があったりするガジェットが当たり前のように存在していたからだ。だが現在主流のガジェットは、パソコンやスマートフォン。これらのガジェット感覚はロボットものというより、『攻殻機動隊』シリーズに近い。

 そういう時代にあって、どうやって子供にロボットをプレゼンテーションするれば伝わるのか。その一つの試みとして『ジャイロゼッター』は非常に興味深い。

 そして『ダンボール戦機』、『ジャイロゼッター』といったキッズ向けロボットアニメの挑戦を考えたとき、これらより2~3歳上の小学校中学年以上をターゲットとした『機動戦士ガンダムAGE』がなぜ苦戦したのか、その一端も浮かび上がるように思う。

文:藤津亮太(アニメ評論家/@fujitsuryota
掲載:2012年10月21日

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