アニメをかもすぞ!ノイタミナ『もやしもん』の舞台裏《前編》
■原作のこだわり・アニメのこだわり
――石川雅之さんの非常に描線が多い独特な絵のタッチを、アニメーション用の絵に落とし込んでいくのは大変だったのでは?
矢野 たしかに、アニメーションは枚数を多く書かなければいけないので線を整理させていただきましたし、ちょっと見た目の年齢を上げようと思ったので、頭身がかわっています。でも、目指したのはあくまでスタンダードな、ニュートラルな状態のデザインですので、動いた段階でみていただければ、原作ファンの方でも特に気にならないものになっていると思います。
磯田 原作に登場する崩した頭身の絵も使いますし、動きに関しては、色々工夫して動かしている部分もありまして、かなり面白いですね。だからキャラ表だけだとちょっと魅力が伝わりづらいかな、と思うんです。作品を紹介していただくときに、そこは少し悩みどころですね。是非、動いているところを観るのを楽しみにしていただきたいです。
――具体的に石川さんから何か指示が出たところはありましたか?
磯田 なんといってもヒロインの長谷川遥についてですね。彼女のボンデージと、細かいアクセサリ類についてのやりとりは多かったです。
矢野 大変でしたね。何せ、ボンデージファッションは実物になかなかお目にかかれないですから。一応、歌舞伎町まで実物を探しにいったんですけど、見つからなかったですね(笑)。あとは、原作でも、長谷川は描いておられるうちにどんどん服装がオシャレになっていったんで、その要素をアニメにとりこんでいくのは大変でした。
――ボンデージやアクセサリ以外にも、農大ならではの小道具がたくさん登場するとい思いますが、それらはいかがでしたか?
矢野 他の小道具類もなるべく実際にあるものから設定を起こすようにしていますので、かなりリアルなものになっていると思います。小道具に限らず、メインの舞台となっている農大にモデルがあって、その周辺の地域も特定されている原作ですので、その点もきちんと取材にいきまして。半日ぐらいツアー状態で教授に色々と案内していただいたんですよ。
磯田 あとは、作中に「シュールストレミング」という発酵食品の缶詰※が登場するんですが、最近では輸入規制ができて普通には買えなくなっているんです。それをネットオークションで手に入れたりもしましたね。
※世界一臭いと噂のニシンの漬物。スウェーデン名物だけど飛行機には持ち込み禁止とか。
――そんな取り扱い要注意の資料も集められているんですね(笑)。モデルのない舞台も登場しますが、それに関しては?
矢野 それは原作から起こしています。特に大変だったのは「日吉酒店」ですね。裏の職業(笑)と表の職業の酒店とが、ひとつの建物でどう繋がっているかは設定に起こしてみるまで把握できなかったです。あと、酒店の屋根が三角形と言うのは単行本の5巻がでるまでわからなかったんですよ。5巻が出てから慌てて直しました。
磯田 すごい原作に忠実にやっていますよね。ここまでやらなくても、と思ってしまうようなところまで忠実に作られていて、こだわりに驚かされることも多いです。あとは、リアルさの追求といえば、登場するお酒は、全部許諾を取って本物のお酒の銘柄を登場させています。もちろん、それらに対して語られる薀蓄も、すべて本当のことをキャラに喋らせています。そうしたリアルさを徹底して意識している部分と、コミカルに遊んでいる部分の差が面白いと思います。
矢野 そうですね。特に、樹教授や美里・川浜の先輩コンビといった、デザイン的に動きがディフォルメしやすいキャラクターたちでは思い切り遊んでいます。一話の樹教授の登場シーンはちょっと怪物っぽい雰囲気になっていますし、それ以降も、身軽に10メートルくらい飛び上がるようなシーンも登場しますから。
©石川雅之・講談社/もやしもん製作委員会