「糸曽賢志の一方通行なおしゃべり」

第三十二回「アニメ演出のお仕事って…01尺決め」

皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。 糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。

皆様、明けましておめでとうございます。 本年も、見捨てずに読んでいただけると幸いです、宜しくお願い申し上げます。

ボクのほうは、何だか年末年始とスタジオに篭ってTVアニメの演出作業に追われておりました。

制作進行さんの部署の方からうっすらと聞こえる紅白をBGMに、延々と原画やレイアウトのチェックを 行っていたのですが、気付いたら除夜の金が鳴っていた時はさすがに「何やってんだろ……」って虚しくなりました。

ふとスタジオ内を見渡すと、ボクだけでなく制作進行の方も、何だか泣きそうになっていました。

メイプルストーリー

ボクが現在担当させていただいているのはマッドハウスさんが制作されている『メイプルストーリー』という子供向けの ファンタジーアニメ。毎週日曜の8時半からテレビ東京系で放映中です。

裏に『プリキュア』、前クールが『グレンラガン』なので、色んな意味で結構キてる時間帯だと個人的には思っていたり。

ちなみにボクの担当話は2月3日の放映。

止めるとこは止めて、アクションシーンをガンガン動かすようにしたのですが、多いとこは1カット200枚以上使ったりして いるので思いっきり規定枚数オーバーしている気がします。

国内物のTVアニメを演出させていただくのは初めてだったので、色々な方にも心配もお掛けしたと思いますが、 個人的には凄く勉強になったつもりでいます。

さてさて、そんな初演出過程を振り返りながら、ボクが商業アニメの制作現場で学んだ「演出のお仕事」について、 これから少しづつ書かせて頂きたいと思っております。

アニメの制作時において「演出系」とくくられる作業には「絵コンテ」と「演出」の役職があります。

「絵コンテ」は、脚本をもとに構成と見せ方を考えていく作業ですが、こちらに関しては軽くボクのコラムでも12回目に触れさせていただいているのでここでは割愛させて頂きます。

そして「演出」と呼ばれる方々の一番最初の仕事となってくるのが、「尺の確認」。

これは、カット毎にストップウォッチを片手に実際に喋ったり動いたりしてみて一体どれくらいの尺で描くのが一番良いかを 計っていく作業です。

「演出」というのは感性が入ってくるお仕事なので、心地良いと感じるタイミングなどは人によって違いますが、ある程度 決まりごとというのもあるようです。

コツとしてよく言われるのは、タイムウォッチを止める際にボタンを押すのが遅れてしまう傾向にあるので、こころもち 早めに止めた方が良いみたいです。

そして、計った尺を1カットづつ絵コンテの横に記入していきます。(絵コンテにすでに尺が書かれている場合はこの作業を 飛ばす人もいるし、確認して自分なりに修正したりします)

記述する際には「6秒+12K」などのように何秒何コマなのか分かるように書いていくのですが、アニメでは1秒は24コマ として計算します。

テレビ作品の場合、総尺やAパート(CMが入る前までの前半)やBパート(エンディングまでの後半)の尺がすべて決められて いるので、最初にある程度何分になるかを把握しておく必要もあるのです。

もちろん絵コンテを描く際に、ある程度21分~23分くらいになるように考えて描いている人は多いようですが、 なかなかぴったりにするのは難しかったりします。

そこで、登場するのがCT(カッティング)という作業。

簡単に言うと、尺を伸ばしたり縮めたりを行って、尺をぴったりにあわせる作業なのですが、こちらの作業も奥が深いので、 次回詳しく書かせて頂きたいと思っています。

テレビシリーズは決められた時間と予算の中で、たくさんの人に見せられるものを作ることが最低条件なので あらゆるところでルールやシステム化が進んでいて驚くことが多いです。

しかも、あまりにも過酷過ぎて、今回の『メイプルストーリー』の作業中にも、一人制作進行の方が飛びました。 ある日突然いなくなったりするので、びっくりしました。

でも悪いことばかりでなく良い点もあります。

例えば……う~ん、まあ、きっといろいろあります、たぶん。

じ、時間とかも締切り間際以外は自由が利くので、好きに休めたりしますしね(ボクはなんだか全然休めてないけど)。

それでは、この辺でひとりごとを終わりにしたいと思います。 お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば、幸いです。

では皆様、またお会いしましょう。

いとそ けんじ

糸曽 賢志(いとそ けんじ)
糸曽 賢志
1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。 20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。 大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。 現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。 2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に 取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。 文化庁新進芸術家国内研修員にも認定されており、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)
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