■連載第五十回「源流02」

皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。

糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。

だいぶ涼しくなってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

最近のボクはといえば、劇場アニメの演出作業に終われる毎日です。

同じ場所に行って、同じスタッフの方々と仕事をする繰り返しではあるのですが、人と交わることで新たなアイデアが生まれたり新たな情報が得られたりすることも多いのが面白かったり。

さてさて、前回は物事の源流というものを考えることで世の中のものが深く見えてくる気がするというお話をさせて頂きましたが、今回もその発展系でお話をしようと思います。

前置きとしてボクのことを書かせて頂きつつ、説明していくので宜しければ最後までお付き合い下さい。

ボクは今まで、いわゆる世の中でメジャーと呼ばれている作品しか観ようとしてこなかった人間です。

映像はテレビ中心、漫画は少年誌中心、ゲームも売れてると評判のものしかやらず、それでも良いと思って生きていました。

だから先輩に昔の名作映画を勧められても「白黒でダサイ」とか思って、適当な理由をつけて避けてきていたのです。

そんなの観なくても、ものは作れるとか思ってたくらいです。

01

ですが最近、お世話になっている監督に勧められて、昔の作品も観るようになりました。

理由は簡単で、昔の映画を見てその話を監督とすることで、その映画をどのように観れば良いのかを教えてもらえるからです。

何より、尊敬する方が映画をどう観ているのかを学べるのは自分とってはすごく勉強になることなので、それを取り入れるためにも時間を見つけては本を読んだり映画を観ています。

そして、ご飯を食べながら監督と映画の考え方について話す、ということを繰り返していました。

それを続けているうちにある事実に気付きました。

それは、自分が今まで新しいと思ったアイディアやオリジナリティある発想だと感じていたものが、すべて先人がやっていたものであるということです。

これは、とてもショッキングなことでした。

だって自分が思いつくアイデアは、自分が観てなかったり、知らなかったりするだけで、すでに人がやっているもの、つまり新しいものなんかは何もないと感じてしまったのですから。

これを読んで「そんなことはない!新しいものはあるんだ!」って思った方がいれば、それはただの勉強不足なので、今のうちに名作と呼ばれる作品を数多く観ることをお勧めします、偉そうですが……。

ただこれと同じようなことは、演出家の方々は皆仰っている気がするので、むしろそういった事実を理解してからどう受け入れて作品づくりをするかが重要な気がします。

分かりやすく言うと、たくさんのよい作品を観て良いアイデアを自分の中に溜め込む。

そうすることで、ものづくりの際に必要な引き出しの数を増やせるので、あとはそれをどう組み合わせるかが重要、ということです。

そういう意味で考えていくとアニメ業界に進みたい人も、ゲーム業界に行きたい人も、アニメやゲームや漫画だけ観ずに、色々な作品を観るべきなのだと思います。

そしてその際に大事なのは「きちんと観る」、「きちんと聞く」ことです。

ただボーッと数観てもしょうがないので、何を見るべきか、何が要点なのか、何故そのシーンが存在するのかなど、きちんと意味を読み解いてください。

01

あと、もし名作と呼ばれるものを観て「つまらない」とか「何が良いのか分からない」と感じる人がいたら、それは間違いなく「自分の理解力が足りない」と思いましょう。

そんな時は、その映画について書かれた評論本などを読んで、どう観れば良いのかを学べばよいのです。

分からないことは別に悪いことではなく、大事なのはその分からないことにぶつかった時にどう対処するかの方が大事な気がするのです。

なんだか説教ぽくなってしまいましたね……申し訳ないです。

要するに、皆もっと作品たくさん見て自分の持ちネタ増やそうぜ!ってことですね。

長々と書いてしまいましたが、今回のひとり言はこの辺で終わりにしたいと思います。

お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば幸いです。

では皆様、またお会いしましょう。

いとそ けんじ

糸曽 賢志(いとそ けんじ)
糸曽 賢志
1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。 20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。 大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。 現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。 2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に 取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。 文化庁新進芸術家国内研修員にも認定され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008で北海道知事賞、第7回東京アニメアワード企業賞を受賞するなど、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)
次回へ


  最近の記事

  バックナンバー

ぷらちなトップページに戻る ぷらちなへお問い合わせ