■連載第五十一回「お笑いが名作映画に繋がる?」
皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。
糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。
夏が過ぎ去り、秋がやってまいりました。
暑いのはあまり好きではないので、ボクにとって過ごしやすい季節がやってきたことを喜ばしく思いつつ日々過ごしております。
前回のコラムでも書かせて頂いたように、最近は今まで自分が接して来なかった作品を観るように心掛けているのですが、見るたびに凹んでいます。
今まで見てきていない作品ということは、勉強不足だったり、価値観とは合わないという理由から避けてきたということなのですが、そういう作品を見ると改めて自分に知らないことが多いことや、思いもつかない発想でストーリーが語られていたりすることに気付かされるのです。
でも、そりゃそうですよね。
今まで生きてきて、見てきたものや出会ってきた人たちの影響が大きく反映されてアイデアを考えているはずなので、今まで接してきたことのないものを見始めるとどうやったらこんな発想が生まれるんだ?って面食らうのも当たり前な気はします。
そうは言いつつも、そんなことにショック受け続けるのも違う気がするので、何故先人がそういう考えに至ったのかを考え、自分なりに吸収していきたいものです。
さて、いきなりですがボクはナインティナインが好きだったりします。 彼らの番組はTVからラジオまで、ほぼ欠かさず視聴しております。
何故こんなことを言い出したかというと、そんなナインティナインの源流がふとした所から繋がったことがあり、今日はそのお話をさせて頂こうと思います。 一見、ものづくりと関係ないように思えるかもしれませんが、最後には繋がるようになりますので宜しければ最後までご覧下さい。
先ほど最近は映画を観てると書きましたが、それらのなかに『未来世紀ブラジル』という作品がありました。 とても面白い切り口で描かれた作品だったので、その監督について調べてみると面白いことが分かってきました。
この作品の監督はテリー・ギリアムという方なのですが、映画を撮る前はアニメーターやコメディアンをやっていたという変わった経歴の持ち主です。 コメディアンをやっていた頃は、仲間たちと「モンティ・パイソン」というグループを結成していて、社会風刺をネタにした芸風で有名になり『空飛ぶモンティ・パイソン』というTV番組はイギリスで大ブレイク。 後の英国コメディ番組史に大きな影響を与えたそうです。
そこで、この『空飛ぶモンティ・パイソン』という作品をDVDで借りてきて観てみたのですが、とても面白い!
違う国の人間が今観ても笑えるのだから本当にすごいと思うのですが、それ以上に彼らの作風は日本のコメディアンの誰かを観た時に感じたものに近い気がしました。
それは「ドリフターズ」です。
志村けんさんや加藤茶さんが子供の頃大好きだったボクとしては「ドリフターズ」には深い思い入れがあります。
気になったので調べてみると、「モンティ・パイソン」は「ドリフターズ」と同時期に活躍していたようでコアなお笑いファンには双方とも作りこまれたコントが素晴らしいと高評価を得ているのです。 国は違えど、こういった作風のお笑いが受ける時代だったことがわかったのは興味深いことです。
さらに、こういったコメディは後の日本の『めちゃイケ』などといった人気お笑い番組にも多大な影響を与えていると思われるので、昨今のお笑いブームの影には「モンティ・パイソン」がいたというのも間違いない気はします。
にしても、たまたま観た映画が日本の現代のお笑いにまで繋がるってところが面白くてしょうがないですよね。
そんな「モンティ・パイソン」を知った上で、テリー・ギリアム監督の映画を観てみると、実にその時代がどんな状況だったかがわかります。 さらにさすが風刺のお笑いをやっていた方だけあって、そんな時世をうまく皮肉っているのが伝わってくるのです。
つまり何が言いたいかというと、映画を観る時にその時代と照らし合わせて観ると、その作品が何故生まれ監督が何を伝えたいかが見えてくるし、自分が作品を制作するうえで、どう考えるべきなのかの片鱗が見えてくる気がしたのです。
最近読んだ本の著者の町山智浩さんも歴史と映画を絡めて批評される方なので、そういった方の話は非常に勉強になるのですが、なかなかそういう風に観ることが、ボクにはまだうまく出来なかったりします。
何にしろ、
「ナイナイ」→「ドリフ」→「モンティ・パイソン」→「テリー・ギリアム」→「未来世紀ブラジル」
と繋がったのが、おもしろいというお話。
物事には歴史があって、それが形や手法を変えて今に至ってるんだなと思うと、学ぶべきことはたくさんあると思いました。
同じようなことで言うと、少し前から流行の「腐女子」ターゲットのアニメは『聖闘士星矢』あたりがスタートな気はしています。 たぶんもっと前にも何かある気はするので、現在遡って調べていたり……。
調べていけば、流行のサイクルとかも見えてくるので参考になることは多いと思うんですよね。
なんだか複雑な話にはなってしまいましたが、お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば幸いです。
では皆様、またお会いしましょう。
いとそ けんじ
- 糸曽 賢志(いとそ けんじ)
- 1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。
20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。
大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。
現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。
2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に
取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。
文化庁新進芸術家国内研修員にも認定され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008で北海道知事賞、第7回東京アニメアワード企業賞を受賞するなど、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
⇒加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
⇒クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
⇒糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)