「糸曽賢志の一方通行なおしゃべり」
第二十二回「コンテの注意点」
皆さん、こんにちは。人によってはこんばんは。糸曽 賢志(いとそ けんじ)です。
暑い毎日が続いておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか?
現在、ボクはトランスフォーマーの演出作業の真っ只中です。
アメリカのアニメは日本のアニメに比べて予算も多いので、色々な表現が実験できて面白いのですが、その分、動画枚数やカット数も多くチェックが異常に大変だったりします。 1日で50カットとか上がってきた日にはホント肉体的にも精神的にも疲れ、逃げ出したくなります。
そんな状況の中、ボクなりに集団制作用の絵コンテを描く際に注意した方が良いことが幾つか分かってきたので、参考になれば嬉しいなと思いここでお話させていただきます。
まず、基本的なお話からさせて頂くと、カット毎に番号を入れておくことと、セリフの上にでも喋るキャラクターの名前を書き込んで第三者が見ても分かるようにしておくことを心がけましょう。
FollowやPANなどの指示を入れるのも忘れないで下さい。
その際、どこからどこまでPANするのかなどの指示も書き込んだ方が分かりやすいと思います。
そして、カット毎に時間を書き込むのも忘れてはいけません。 人によって違うとは思うのですが、ボクの場合、心配な時はタイムウォッチで時間を計って出た数字に、0.5秒~1秒ほど足して書き込むようにしています。
というのも、長めに作っておけば編集時に、一番良いタイミングでカットしてもらえれば良いからです。
短いときは後からどうしようもないですからね。
また、自分のイメージを正確に伝えるために、絵に自信のある方もない方も出来る限り描き込んだ方が良いはずです。
それがやる気にもつながるし、描き込む事で自分が何をしたいのかが良く分かってきますし、スタッフの皆様とも意思疎通が図れるからです。
そして、1つのカットを何度も描いて下さい。 1回描き終わったからといって完成にせず、もう一度見直して何パターンも描いてみて、一番効果的に見える動きやカメラワークを搾り出すべきです。
もちろん時間との兼ね合いもあるとは思うのですが、辛くてもここで踏ん張ることが一番重要な気はします。
特に、アメリカのアニメは動きが早くて派手なシーンが多いため、何がどうなっているのか分かりづらくなります。
そうならないためにも、常に位置関係を分かりやすく見せなければならないのですが、引きを入れすぎると客観的になりすぎて迫力が出ませんし、アップを多用し過ぎると空気感がなくなったり空間が見えなくなります。
そういう意味でも、人にわかりやすく伝わるように、何度も考え直して構成し直すことが重要なのです。
可能であれば、時間を置いて頭をリセットしてからもう一度考えたり、人に見てもらって意見を聞いたりしても良いかもしれません。
人間一人の発想力や考えには限界があると思うので、なるべく色んな人からの助けを借りて自分が良いと思えるものに近づけていくのが集団作業の利点でもあるのですから。
それでは、この辺でひとりごとを終わりにしたいと思います。 お目に触れた方にとって、何かが少しでも伝わっていれば、幸いです。
では皆様、またお会いしましょう。
いとそ けんじ
- 糸曽 賢志(いとそ けんじ)
- 1978年、広島生まれ。東京造形大学在学中に、アニメ制作会社でアニメーション制作に参加。
20歳で巨匠宮崎駿の弟子となり、ジブリ演出を学ぶ。
大学卒業後はゲーム会社に入社し、イラスト、グラフィックデザイン等に従事。
現在はフリーの映像作家として実写・アニメーションを中心に活動している。
2005年より早稲田大学、本庄市、日本映画監督協会の支援を受けて個人アニメーション制作に
取り組みつつ、早稲田大学内に置かれた自らの研究室で、映像を研究。
文化庁新進芸術家国内研修員にも認定されており、今、最も期待されている若手映画監督の一人である。
⇒加藤英美里×糸曽賢志アニメ 『コルボッコロ』完成インタビュー
⇒クリエイター糸曽賢志がもっとよくわかる!ロングインタビュー
⇒糸曽賢志オフィシャルウェブサイト(http://www.itoso.net/)